これからは技術=サービスの時代 徹底したセルフで顧客に対応

カブドットコム証券(株) 

人的サービスはわずか0.02%

 カブドットコム証券(株)は、三和銀行系のイー・ウイング証券と、伊藤忠商事などが出資する日本オンライン証券が合併、昨年4月に誕生した。同社発表によると、現在の預かり金額は1,800億円、1日当たり取引額は多い日で100億円程度になっている。コールセンターのシステム化と効率化では高い評価を受けており、各国から視察団が訪れるほどだ。人的サービスにおけるクオリティー向上と、セルフサービスを同時に推し進める姿を追った。
 同社が抱える顧客数は約8万7,000人。コール数はインバウンド、アウトバウンドを合わせて1日1万5,000〜2万件に及ぶ。うち、実際にオペレータが対応するのは400〜500件程度で、全体のおよそ0.02%前後にすぎない。オペレータは総勢10人程度だが、実際に稼動しているのは常時7〜8人。オペレータは2交代制で対応時間は8:00〜20:00(土曜・祭日を除く)、自動音声応答は24時間対応となっている。オペレータが対応する電話の内容はクレームと、オンライン操作に関する問い合わせがほとんどだ。呼損率は3〜4%にとどまる。一方、eメールによる問い合わせは1日約100件。まずは自動応答で受信したことを伝え、約24時間以内に詳細を返信する。この詳細な返信は、オペレータが兼務している。
「証券会社の場合、顧客は株価の問い合わせや、取り引きのために電話をかけてくる。こうしたやりとりは人的サービスよりセルフサービスを活用した方が煩わしさがなくかえって良い」(情報システム部長兼ビジネス開発室長・齋藤正勝氏)
 既存の証券会社からインターネット証券会社へ流れた顧客の中には、営業員に自分の意図していないものを売買させられることを恐れた者もいた。メーカーのヘルプデスクとは異なり、人的サービスを必要とする度合いが低い証券会社の業務特性が、セルフサービスの推進=顧客サービスの向上という構図を生み出したとも言える。このため、同社ではセルフサービスを行う顧客のために徹底した利便性を提供している。
 例を挙げよう。
①残高照会などのFAX送信依頼を携帯電話を含むWeb画面上でできる(図表1)。

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②指定した銘柄のチャートをWeb画面上で閲覧できる。
③「カブコール」=「日経平均が1万円を割り込む」など、指定した特定条件に至ったら電話をもらえる。この電話連絡はオペレータが行うのではなく、音声を自動送信するかたちを取った。eメールで情報を送信することもできるが、「あなただけにこの情報をお知らせします」という姿勢を顧客に伝えるため、また、eメールではいかにも機械でやっているという印象が強いので、電話にこだわった。
④刻々と移り変わる株価情報をWeb上で動画を用いて表示する。
 なお、コンタクトチャネルは、パソコン、電話、FAX、Lモード、携帯電話(iモード、Jスカイ、EZWeb)、PDAなどほとんどすべてをカバーする。付加価値の高い情報を提供すれば、携帯電話の番号という極めて個人的で、だからこそ企業が欲しがる情報を入手でき、しかも何らかの変更があった時には、顧客が自ら情報を更新してくれる。利便性の高いサービス=顧客情報を得る仕掛け、と言える。
 カブドットコム証券の前身、日本オンライン証券は、(社)日本オフィスオートメーション協会(JIOA)からOAテクノロジー賞を受賞。マイクロソフトが株主ということもあり、テクノロジーを十二分に活かしたコールセンター運営を行ってきた。開設当時から沖電気工業のUnPBXを導入。通話記録をデジタルデータとして保存するだけでなく、オペレータが顧客とのやりとりを入力しなくても済むよう、自動的に会話データが分類・更新されてゆく仕組みを構築してきた。
 しかし、セルフサービス化はやみくもに行えば良いというわけではない。カブコールのように「人間チックなサービスをいかに機械で行うか」がポイントだと齋藤氏は語る。

音声を自社内で吹き込み

 人的サービスにもこだわりがある。
 例えば、音声はすべて社員が吹き込んでいる。プロの口調のよそ行きの顔を見せるのではなく、親しみを感じてもらえるよう配慮した。また、自社内で音声を作ると、細かな銘柄の案内を自在に制作できるなど、メリットも大きい。
 また、「コールセンターの設立・運営をエージェンシーに任せ切ると、どうしてもサービスが画一的になってしまう。システムそのものも独自に構築することで、会社としての個性が生まれ、結果として印象的なサービスにつながる」(齋藤氏)。
 コールセンターにおける顧客対応にも大きな特徴がある。顧客によってオペレータが応対を変化させるよう指導しているのだ。同社では、顧客を取引実績、通話時間、クレーム回数などを基に100点満点でスコアリングしている。このスコアレベルの顧客ならこのような対応、このレベルならこうという明確な指針を打ち出した。
 「データベースは顧客をセグメンテーションするために構築するものだ。CRMとは何なのかを突き詰めれば、それはやはり顧客のスコアリングにつながるのではないか。万の単位の全顧客に良質の人的サービスを行おうとしたら、コールセンター運営は破たんしてしまう。例えば店頭でも、取引額の大きな顧客は支店長室に案内されるなどのサービスを受けるが、それと同様のことを合理的に、システマチックにやろうとしている」(齋藤氏)
 電話応対によるサービスレベルの質を向上させるため、4月から特殊プログラムを組んでオペレータ訓練を強化する計画だ。今度はシステム面ではなく、人的サービスの質の高さを評価されるような賞の獲得を狙う。さらなるシステム化も並行して進める意向だ。知識データベースを作り、ある程度のクレームや質問処理をオペレータの手を煩わせることなく行えるようなシステム構築を目指す。
 また、Web上では動画よりも音声に着目、①顧客が機械操作を間違えた時にビープ音を鳴らす、②「操作をやり直してください」などの音声案内を流す、③パーソナライズした情報をWeb上でラジオのように流す、などのサービスを検討中だ。
 これまでインターネット証券業界は、手数料の値下げなど料金面での競争ばかりが取りざたされてきた。しかし、今後は「技術・サービス競争の傾向が強まる」と齋藤氏は予測、「顧客接点では、技術=サービスという構図が成り立つところが、この業界のおもしろいところ」と競争優位性の維持に自信を見せた。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年5月号の記事