日本最大規模の個人投資家向けコミュニティ

(株)マスチューン「みんなの株式」

個人投資家の声を“集合知”とすることを目的に開設された「みんなの株式」は、17万人を超える会員を集め、個人投資家向けコミュニティーとしては日本最大規模となった。同時に「荒らし」の少ない健全なコミュニティー形成にも成功していることが、広告出稿企業などから高く評価されている。

会員の売買予想を集計して表示

(株)マスチューンが運営する「みんなの株式」は、株式投資をテーマとしたSNSサイトである。
 サイトの目玉となっているコンテンツは「みんかぶポートフォリオ」だ。このコンテンツは、会員がさまざまな株式銘柄について、今後、株価が上昇すると思えば「買い」、下落すると思えば「売り」の予想を投稿すると、その集計結果が表示されるというものだが、特徴的なのが予想を投稿した会員の過去の予想的中状況をパフォーマンスとして数値化し、各銘柄への投稿数と乗じて「買い」「売り」の上位銘柄ランキング(25、50、100銘柄の3種類)として表示していること。つまり、予想の的中率が高い会員の判断は信頼性が高いというロジックを採用している点である。
 上位銘柄ランキングに表示されている銘柄をクリックすると、その銘柄の株価情報とともに、個別の売買予想が表示される。予想を投稿する際には、「目標株価」「期間」〔その目標が短期(数分~数日)、中期(数週間~数ヶ月)、長期(数ヶ月~数年)のどれを対象とするものか〕、「予想理由」を入力するかたちとなっており、売買予想をパフォーマンス順に表示することもできるため、パフォーマンスが高い会員がどのような理由で、「買い」「売り」どちらの予想をしているかを確認することも可能だ。
 さらに各銘柄について、会員が意見を交換する「掲示板」、関連するニュースが表示される「ニュース」、株価と予想投稿のチャートが表示される「チャート」、基本的な企業情報が表示される「企業情報」といったコンテンツも用意されており、株式投資の参考にすることができる。
 特徴的な機能として、3月1日より「日記投稿の銘柄紐付け」機能がリリースされた。これはある銘柄に関連する日記を投稿する場合、4桁の証券コードを登録することにより該当銘柄ページに自分の日記がリンクされる(トラックバックのようなもの)。それによって銘柄を通じたコミュニケーションが可能になるというもの。これも株のSNSならではの機能と言えそうである。
 「みんなの株式」はオープン型のSNSサイトであり、基本的な属性情報や株式投資歴・スタイルなど、必要な情報を入力すれば、誰でも会員登録をすることができる。2009年2月現在の会員数は17万人超。性別では男性が6割強、年代では20~30代が8割強、投資経験がある会員が7割弱、うち投資歴2年未満の会員が5割弱となっている。その中で頻繁に投稿を行うコア会員は3万人程度であり、投稿数は約2,000件/日となっている。ちなみに月間の訪問会員数は延べ70万人程度である。
 なお、「みんなの株式」は当初PC版のみの展開であったが、2008年秋にモバイル版を開設。現在ではほぼすべての機能をモバイルからも利用することができる。PCとモバイルを併用している会員が多く、特に平日の昼休みや通勤時間帯などはモバイルからのアクセスが多くなっているとのことである。

個人投資家の声を“集合知”に

 「みんなの株式」が開設されたのは2007年4月。主催企業のマスチューンは、Webサイト運営を目的に設立された企業であり、「みんなの株式」は同社の自社サービス第1号である。なお、同社代表取締役社長の瓜生 憲氏の前職は外資系証券会社のアナリストであり、このサイトは同氏の「これまで市場にあまり反映されなかった個人投資家の声を集め、“集合知”として表現すれば、価値があるものになる」という思いからスタートしたものであるとのことだ。
 「みんなの株式」は広告型のビジネスモデルで運営されている。クライアント企業は、証券会社をはじめFX(外国為替証拠金取引)、不動産、富裕層向け商品を取り扱う企業などがバナー広告を出稿しており、さらに投資関連企業による記事広告や求人広告の掲載、投資関連企業のセミナー集客支援などの実績もある。“株式”というテーマに特化し、投資に興味がある人が集まるポータルとして、日本最大級の規模を実現していることから、クライアント企業の評判はおおむね好評のようだ。
 また、Yahoo! Japan、ソネットエンタテインメント、エキサイトなどの大手ポータル事業者とは連携関係を構築しており、ポータルサイトからリンク接続をしてもらう一方、同社からコンテンツの提供などを行っている。さらに、日本経済新聞社、東洋経済新報社などのコンテンツプロバイダーとも提携しており、情報コンテンツの提供などとバーターで、サイト接続やコンテンツ販売支援などのメリットを提供している。
 なお、会員の獲得については当初、ティーザー広告やバナー広告の出稿、ブログパーツやテンプレートの提供、大学の投資サークルなどを対象とした投資パフォーマンス・コンテストなどを実施したが、実際には大手ポータル事業者との連携、特にYahoo! Japanのファイナンスコーナーのメニューのひとつとして採用されたことの効果が大きかったとのことである。

「荒らし」の少ない健全なコミュニティー形成に成功

 「みんなの株式」の特徴としては、会員数が17万人を超えるSNSでありながら、いわゆる「荒らし」がほとんど存在しないことが挙げられる。開設当初から、例えば投稿時における関連法規厳守の制約を取り付けたり、24時間365日で全投稿を監視する体制を敷いたりするなど、健全なコミュニティー形成に向けた予防と対処を行った結果、削除の対象となる悪質投稿は約0.04%、警告対象も約0.07%と極めて低い水準にとどまっている。同社では今後もこの状況を持続するため、施策の継続・強化を行っていく方針である。
 運営上、難しかった点としては、立ち上げ当初、会員間の交流がなかなか活性化しなかったことが挙げられる。投資歴が浅い会員が多いこともあり、「銘柄」に関する情報交換は難しい側面もあるようだ。しかし、2008年後半からは株式市況が低迷したこともあり、実際の取引で損失が生じてしまったことを慰め合うような交流や金融危機に対する議論も徐々に行われるようになったとのことである。
 ビジネス面では、現状では広告スペースの売れ行きは好調だが、サイトの使い勝手を考えるとスペースの増加は難しいことから、目下、新たな事業領域の開発を模索している。そのひとつの例としては、アンケート企画が考えられる。これは金融商品が多様化・複雑化傾向にあることを受けて、それぞれに対する認知度や理解度、興味度を調査することにより、訴求すべきポイントや内容を明らかにして、金融商品の販売を行う企業に提供しようという試みだ。
 そのほか、今後の課題としては、広告効果の明確化も挙げられている。例えばバナー広告を見てクリックはしなかったものの、これが認知経路にはなっているというケースもあるため、広告表示期間のサイト訪問者のクッキー情報に基づき、その後の行動をトラッキングすることで、実際の広告効果を確認できる仕組みなどを組み込んでいく意向である。

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売買の予想から会員同士のコミュニケーションが始まる


月刊『アイ・エム・プレス』2009年4月号の記事