分かりやすい昇級システムと権限委譲でやる気を生む

(株)ドン・キホーテ

フリーターを含めた20代中心のパートタイマーからいかに“やる気”を引き出すか。これは、店舗経営の重要な課題である。創成期はパートが従業員の8割を占めていたというドン・キホーテに、従業員のやる気を引き出すノウハウを聞いた。

深夜営業で急成長 パートも売り場作り

 高く積み上げられた商品の数々。「ドンドンドン、ドンキー」という、あのおなじみのテーマソング。深夜も絶えることがない客足。そんなドン・キホーテの光景は、着実に日本の夜に定着しつつある。
 ほかの小売店が軒並み不況にあえぐなか、同社は2002年6月期で132億円の売上高を達成、過去最高記録を更新した。最長で24時間、大多数の店舗で深夜2時~早朝6時まで営業し、豊富な商品をディスカウント価格で販売するという新業態は、首都圏のほか、北海道や福岡といった地方の大都市で顧客をつかむことに成功し、その店舗数は30店を超えた。
 同社の売上高を支える大切な要素のひとつが売り場作りだが、同社ではこの売り場作りを正社員ではない時間勤務のメイト(パートおよびアルバイト)に積極的に任せている。店舗には、商品特性によって7つのグループがあり、例えば食品グループならその中にドリンク部門、菓子部門などがある。その各部門の売り場作りを、実務等級が平均以上のレベルに達したメイトに任せているのだ。平均レベルというのは、図表でいうC3の等級だ。同社ではC以上の等級になると、発注権限を与えている。
 グループの売り場全体を任されている責任者にもメイトがいる。時間給で働いていながら、いわば商店主のようなものである。
 「やりがいを感じる人には、権限を委譲し、小さな商店主として仕入れ、商品管理、売り場作りを任せています」(第一営業本部マネージャー 宮田信明氏)。もちろん、仕入れにはPOSの分析結果を反映させているだろうが、コンピュータ管理が徹底しているFC方式のコンビニエンスストアよりも、より“人”が持つ裁量が大きいと言えないだろうか。

接客スキルを時給に反映 透明度の高い計算式で評価

 実務等級は、研修期間のE3からスタートし、仕事内容に応じて昇級していく。2カ月間のOJTが終わった段階で平均のCに達する人は半数近いが、実務以外にもゴールドからホワイトまで4段階に分けられた接客評価によって時給を加算する(図表)。

0211-cs2

 逆に接客態度の悪さを理由に名指しのクレームを受けた場合は、時給がカットされる。また、ルール評価は、無断欠勤したかどうかや身だしなみを整えるといった、基本的な事項を守っているかどうかで行うもの。
 最も新しく導入されたのが接客評価だ。と言っても、「ドン・キホーテの店舗は、百貨店のような接客を目指しているわけではありません。お客様には時間つぶしが目的でもかまわないので、自由に店内で遊んでいただきたいのです。そのために、お客様が聞きたいことがあるときは店員が対応するとしても、販売促進のための接客を義務付けてはいません」(同氏)。
 同社の接客評価の最低ラインは、笑顔や挨拶など、接客業として最低限のことを必ず行うというものだ。簡単なようだが、同店で働くメイトは、特に夜間は20代前半の若者がほとんど。いわゆるフリーターも多い。彼ら全員が実際に実行に移せて、かつ最もお客様に好感を持ってもらう方法は何かを考えた結果だという。
 従業員は自分の性格に合わせて、2つのキャラクター――「ていねい」か「元気」のうちひとつを選び、それを目指すことになる。細かい接客は苦手だが、元気があり大きな声が出る人は、「元気」キャラとして常に「いらっしゃいませ」などと大きな声を出し、店内を活気づける役割を担う。一方、大きな声を出すのは苦手だが、丁寧な接客に自信がある人は「ていねい」を極めることを目指す。
 この評価は、毎月1回、メイトを含めた全店員の投票によって行う。店長の前でだけ熱心に働いているフリをしても、全従業員がチェックしているので通用しないのだ。従業員は接客評価に合わせたカラープレートを身につけて働く。評価は4段階あり、最高点のゴールドのプレートを付けているのは、1店舗あたり社員とメイトを含め1~5人程度だ。

準社員制、日々の報奨制など種々の方法でボトムアップ

 さらに、日々報奨金の支給制度もある。店長の判断で、特別に評価される働きがあったと見なされると、ドン・キホーテの1,000円分の商品券が支給されるのだ。報奨金支給は例えば、その日一番頑張った人や、率先してだれもやりたがらない仕事を行った人などに対して、その日 のうちに支給される。
 この権限移譲と、評価方法がオープンで誰から見ても納得でき、時給にダイレクトに反映されることが、従業員の“やる気”を引き出すことにつながっている。優秀なメイトが最大限の評価を獲得したときには、新たなステップを用意している。メイトと社員の間にある準社員という制度だ。主に実務等級がA以上である優秀なメイトに適用される制度で、雇用体系がほぼ社員と同じ扱いになる。早ければ入社半年で準社員になる人もいる。家庭の事情等で週に3回しか勤務できないが優秀なメイトは、実務の最高の等級である“S”を目指せばいい。一定の貢献が認められればボーナスが支給されることは、大きなメリットだ。
 「当社では、メイトだから仕事を制限するという発想はありません。家庭の事情で転勤ができないのであれば、わざわざ正社員になってもらう必要はありません。その代わり、現在勤務する店舗でベストを尽くしてもらい、当社ではその分を時給に反映させればいいという考え方です」(同氏)。
 同社では、こうしたさまざまな評価方法と賃金体系で、従業員全体のボトムアップを図っていきたいという。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年11月号の記事