ブランドビジョンのもと、お客様の声にこだわり、お客様の満足、よろこびの追求を目指す

全日本空輸(株)

2002年10月2日、日本航空(JAL)と日本エアシステム(JAS)が“世紀の経営統合”を遂げた。これにより、危機感が高まったのが全日空(ANA)である。これまで国内線のシェアでは大手3社の中でも、同社がトップを誇っていたが、2社の統合で拮抗するまでに経営環境が激変。こうした中で、CS・ブランド戦略を担うCS推進室への期待が高まっている。同推進室の役割に迫ってみた。

CS推進室を新設しCS・ブランド戦略を推し進める

 全日本空輸(株) (以下、ANA)は、2002年4月、CS・ブランド戦略を強力に推進すべきとの考えから、CS推進室を新設。CS推進室は、お客様からのご意見・ご要望受付窓口としてお客様と接し、その意見を社内に提言する「カスタマーサポート部」と、顧客満足・ブランド戦略を担う「CS企画部」の2部で構成。マーケティング・セールス・予約・空港旅客・オペレーション・客室・運航乗務・整備と、各部門から人材を集め、本社組織として部門を横断した取り組みを推進している。
 現在、CS推進室では、3つの柱をもとに業務を行っている。ひとつは、CS(顧客満足)マインドの啓蒙。ANA本体およびグループ各社を含めると、社員は総勢約3万人に達するが、これらのグループ各社とCSマインドの共有を図るべく、さまざまな施策を打ち出している。2つ目が、ANAらしい商品・サービスを提供するための品質管理(クオリティマネジメント)。3つ目は、ANAのブランド管理(ブランドマネジメント)である。
 CSマインドの啓蒙に関しては、2001年に羽田空港で始めたCS活動の枠組みを引き継ぎ、その枠組みを全国に展開することを想定している。例えば、羽田空港の旅客部に在籍している地上係員のCSマインドを引っ張るCSリーダーの養成のほか、「CSセミナー」の開催。CSマインドの向上のために他部署の情報を収集し、その情報を共有化したり、または他部署へCS活動のアピールを行っていた。
 CS推進委員会では、CSマインドを共有するためのツールとして、「GOOD JOB CARD」を作成した。このカードを、接客面や部内環境の整備、業務改善の提案などを積極的に行った部員を対象に、コメントを添えて、上下の関係なく渡している。また、カードを貰った部員の一人ひとりが、どういうことで評価されたのかを共有するため、部内報に参考となる事例を掲載し、全部員に配布。また、数多くのカードをもらった部員を月単位で表彰。表彰された人へのインタビューを部内報に掲載した。現在では、これらの活動は全社的枠組みとして、CS推進室に引き継がれている。

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グループ内で行われているCS活動の共通ツールとして作られた「GOOD JOB」カード

課題解決のサイクルを作りお客様の声に応える

 それでは、 ANAとして目指していることは何なのか。同社には、「お客様と共に最高の歓びを創る」というブランドビジョンがある。同社独自のアンケート調査などの結果、ANAの強みは「ヒューマニティ」と「クリエイティビティ」にあると考えている。例えば、「クリエイティビティ」の面では、機体にクジラの絵を描いた「マリンジャンボ」や割引運賃の「超割」などを、他社に先駆けて実現してきた。また「ヒューマニティ」の面では、お客様が「親しみやすい」というイメージを持っていることから、これを競争力の源にしていきたいと考えている。同社の「グループ行動指針6カ条」の中に、「 『お客様』の声に徹底してこだわります」という項目があるが、同社社長の大橋洋治氏も機内誌などを活用して、“お客様の声にこだわる”というメッセージを発信している。
 また、CS・ブランド戦略の2つ目の柱である「クオリティマネジメント」では、お客様の声に対して改善できたことは、機内誌や同社のWebサイト上で開示。例えば、「ジュニアパイロット(子どもひとりでの搭乗のこと)のバッジの針は変えられませんか?」というお客様の声に対して、「改善しました――バッジの形状が変更となりました。従来のバッジに代えて、ストラップを使用したパスケースと、ハガキとしても利用できる申込カードを使用することにしました。…」と、情報の公開を行っている。
 また同社では、課題解決のサイクルを「クローズド・ループ」と呼び、サービスフロントで収集したお客様の声をレポートにして、CS推進室に集約・分析している。具体的には、各部門に直接入った「お客様の声」「係員の声」や、カスタマーサポート部に寄せられたお客様の声を収集し、CS推進室で全体を集約、解決すべき問題を抽出・提起するかたち。
 同社CS推進室CS企画部の椿里砂氏は、「すぐに改善すべき問題はもちろん、部門横断的な課題、企業ポリシーにかかわる課題、多くの経営資源が必要な課題をCS推進室が横串組織として解決につなげていくというサイクルを構築している最中です」と説明する。また、そのような課題は、執行役員クラスのメンバーを揃えた「CS推進会議」の中で、方向性を決めて解決を図っている。こうした努力を通してCSを向上し、ANAのファンを増やしていきたいと考えているのだ。

グループ航空会社も「ANA」に統一し、お客様へのアピールを強化

 CS推進室で取り組んでいる3本柱のひとつである「ブランドマネジメント」は、①機体デザインをANA仕様に統一する、②各種媒体、施設などに表示するロゴマークをANAに統一するなど、お客様の感性に訴えることでブランド形成につなげる取り組み。例えば、「エアーニッポン」を「ANA」のロゴマークに統一し、機体デザインを統一することで、お客様の視認性にアピールしていく。「2004年4月からは、グループ航空会社の便名もANAに統一し、ANAブランドのお客様への浸透を図っています」(椿氏)と話す。
 一般的に、CS活動の成果を収益との関連性でとらえるのは難しいが、ANAではあくまでもサービス・品質を向上させることでCSの向上を図り、同時にブランド価値を高めていく施策をとっている。同社独自のアンケート調査でのお客様からの評価を、総合顧客満足度指標として算出し、財務諸表と併用することで、品質・サービスと収益をバランスさせた経営指標となるとみている。
 「航空業界は空港施設、機材、各種運賃などのハード面では差別化が難しいものの、ソフト面に関しては会社独自のものがあると考えています。商品ももちろんですが、サービス面でお客様に『ANAらしさ』を感じ取っていただくことが大切であり、またそれを創っていくのはANAグループ社員ひとりひとりなのです」と椿氏は語る。
 ANAでは、「CSマインドの啓蒙」「クオリティマネジメント」「ブランドマネジメント」の3本柱が揃って始めて、CS・ブランド戦略が成立すると考えている。「お客様と共に最高の歓びを創る」というブランドビジョンのもと、“お客様の声にこだわる”ことで、顧客満足の向上=収益の向上に結びつくのか。3年目を迎えたCS推進室の取り組みは、グループ内で芽を出しつつあるが、今後ANAが広くお客様の支持を得られるかは、同推進室がカギを握ってるのではないだろうか。

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機内誌にお客様の声のページを設けて、改善した内容を掲載している


月刊『アイ・エム・プレス』2004年9月号の記事