コンタクトセンター最前線(第131回):長崎に郊外型センターを開設 次世代に向けた取り組みにチャレンジ

全日本空輸(株)/ANAテレマート(株)長崎支店

全日本空輸(株)では100%出資の子会社、ANAテレマート(株)を通じて顧客からのチケット予約や各種問い合わせに対応するコンタクトセンターを運営している。2011年5月には、長崎に初の郊外型コンタクトセンターを開設し、将来を見据えた次世代コンタクトセンターとしての新たな取り組みを推進。開設から1年半を経た今、その効果と課題が見えてきた。

ビジネス環境の変化に伴いコンタクトセンターの存在意義が高まる

 1952年に創業した全日本空輸(株)(以下、ANA)は、日本を代表する航空輸送事業者である。創業時の気持ちを忘れず、安心と信頼の担保に真摯に取り組み、品質、顧客満足、価値創造で「アジアNo. 1の航空企業グループ」になることを目指している。
 インターネットの普及に伴いANAのビジネスモデルは大きく変化。従来の旅行代理店や電話による販売からWebサイトへシフトしていった。その一方、お客さまからのコンタクトは航空券の予約にとどまらず、航空券やANAのWebサイト「ANA SKYWEB」に関する問い合わせ、フライト情報の照会、フライトやショッピングでマイルが貯まる「ANAマイレージクラブ」に関する問い合わせと多岐にわたり、これらに対応するコンタクトセンターは、同社のビジネスにおいてなくてはならない存在となっている。
 現在の主な顧客窓口は、国内線予約案内センター、国際線予約案内センター、ANAマイレージクラブサービスセンターの3つ。これらの運営を一手に担っているのが、ANAの100 %出資によるグループ会社であるANAテレマート(株)(以下、ATM)だ。
 ATMは、ANAの支店、札幌、東京、大阪、福岡の予約受付拠点を合併するかたちで1987年に設立された。以降、ANAの総合コンタクトセンターとして国内線・国際線の予約受付・案内、ANA SKY WEBやANAマイレージクラブに関する問い合わせに対応しているほか、ANA SKY WEBのメンテナンス、メールマガジンの作成・配信といったWeb関連業務と発券業務を担い、これらを通じてANAの安心と信頼の向上に貢献している。

3センターを5拠点・1,180名で運営

 現在、ATMが運営する拠点は、札幌、東京、大阪、福岡、長崎の5つ。スタッフ数は、全拠点の正社員、契約社員、派遣社員を合わせて1,180名。同じく席数は1,000席に及ぶ。
 各窓口の受付時間帯は、国内線予約案内センターが365日・6時30分から22時、国際予約案内センターが同じく365日・8時30分から22時、そしてANAマイレージクラブサービスセンターが平日の9時から19時までと土曜日の9時から17時までとなっている。
 受付チャネルには、電話とeメールを使用している。電話窓口にはNTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを導入。センターごとに専用の番号を用いることで窓口の明確化を図るとともに、最適なコミュニケーターにつながる環境を整えている。
 一方、eメールは、Webサイトのよくある質問のページからWebフォームで問い合わせができるようになっている。問い合わせる前にQ&Aに目を通してもらうことで、お客さまによる自己解決を促しているのだ。eメールでの対応は、国内線予約案内センターと国際線予約案内センターが9時から18時、ANAマイレージクラブサービスセンターが平日の9時から19時までと土日・祝日の9時から17時までとなっている。

初の郊外型センターを長崎に開設

 ATMの拠点の中でも、長崎センターは2011年5月に開所したばかりの新しいセンターだ。これまで、拠点の開設に当たっては駅から近いアクセスの良い立地を選択していたが、長崎においてはANAが郊外にコンタクトセンター専用のビルを建設。そこにATMが入り運営を行っている。長崎は、1959年以来、ANA便就航の地方中核都市であること。自治体からの充実したサポートが見込めること。そして、県内に大学や短大などの教育機関が多数あり、安定的な人材供給が期待できることが選択の決め手となった。加えて、長崎駅から車で15分と中心地からのアクセスが良く、仕事と家庭の両立を志向できる立地条件も魅力のひとつだったという。

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長崎センターの外観。ヒートアイランド対策として敷地内や壁面を緑化している。向かって左側がオペレーションルームのあるエリアで、右側は訓練室やロッカールーム、会議室などがある管理棟

 長崎センターの敷地面積は1万8,000㎡。郊外型というだけあって、その広さに誰もが驚く。敷地内にはセンターの建物と320台を収容できる駐車場、そして緑地がある。建物は2階建てだが、ワンフロアプランを採用しており、オペレーションルームや会議室、訓練室、リフレッシュルームといったスタッフが過ごすエリアはすべて1階に集約されている。
 オフィスコンセプトは、「COEPI T(コエピット)」。「声」「超える」を表す“COE”と「場所」「チーム」を表す“PIT”を合わせた造語で、ATMの仕事であるお客さまの声に耳を傾けることを通じて、お客さまの期待を超えるサービスを提供して感動を作り出すことを目指している。
 お客さまの期待を上回り、「ありがとう」と言っていただける対応をするには、スタッフ一人ひとりが感謝の気持ちを持って毎日を過ごすことが不可欠であると考えるATMでは、施設のテーマとして4つの感謝を掲げている。
 1つ目はお客さまへの感謝で、これをオペレーションルームとオペレーションルーム内に設けられているミーティングエリアで表現。12カ国語の「ありがとう」を壁面グラフィックに取り入れることで具現化した。
 2つ目は仲間への感謝で、これをコリドールで表現。壁面に仲間への感謝の気持ちを伝える「ひまわりのタネカード」を掲示しているほか、中庭を眺めながらおしゃべりするなど仲間とのコミュニケーションスペースとして活用できるよう、空間にゆとりを持たせた設計が印象的だ。
 3つ目は地球への感謝で、これをリフレッシュルーム、会議室、中庭で表現。一例を挙げると、2011年度には中庭でひまわりの花を咲かせる活動を行った。
 4つ目は地域への感謝で、これをお客さまを迎えるおもてなしの空間であるエントランスで表現。地域のイベント情報の掲示や、エントランスからセンター内が見える開放感あふれる空間演出により、開かれたセンターを表している。
 現在、長崎センターでは、国内線予約案内センターと国際線予約案内センターの一部の業務を担っており、具体的には一般顧客および一般会員からの受電と、マイルを使った搭乗券予約に関する問い合わせに対応している。スタッフ数は、正社員、契約社員を合わせて168名に及ぶ。
 オペレーションルームは、中央にスーパーバイザーとクオリティコントロールの席があり、その片側に国内線予約案内センター、もう片側に国際線予約案内センターのブースがある。国内線と国際線の連携がスムーズに行えるよう、国内線と国際線のスーパーバイザーとクオリティコントロールは背中合わせで座るように配置されている。
 コミュニケーターブースは12席1チームで構成されており、チーム単位で運営・管理・教育を行うアイランド制を採用している。現在の席数は、28アイランド・336席。最大400席までの拡大を可能としている。
 アイランド制の利点は、チームの状況がひと目でわかり、コミュニケーションが図りやすいところにある。デスクにパーティションを付けていないことも、コミュニケーションの取りやすさにつながっているという。

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オフィスコンセプトである「COEPIT」を表現したスーパーバイザー席(上)/中庭に面したコリドールは、明るく開放的な印象。車いす同士でもぶつかることなくすれ違うことができる、ゆったりとしたつくりが特徴(中)/オペレーションルームの様子。滑走路をイメージした76mの通路には圧倒される(下)

「日経ニューオフィス賞」の地域ブロック別ニューオフィス推進賞を受賞

 長崎センターでは、2012年8月に日本経済新聞社と(一社)ニューオフィス推進協議会が実施した第25回「日経ニューオフィス賞」において、九州・沖縄地区の地域ブロック別ニューオフィス推進賞を受賞した。
 評価のポイントは、「エコロジー」「スーパーバリアフリー」「ONとOFFのある空間」「コミュニケーションスポット」という4つの建築デザインコンセプトにある。
 エコロジーは、環境のリーディング・エアラインとしての取り組み。自然採光、太陽光発電パネルによる自然エネルギーの有効活用、壁面緑化による外壁日射負荷の軽減、敷地内緑化による二酸化炭素吸収、エコ素材の採用などにより、徹底した環境対策を実施。ANAのCSR推進の一翼を担っている。
 スーパーバリアフリーは、ストレスフリーの空間の実現を目指したもの。段差のないワンフロアプラン、車いすでも快適に移動できるよう配慮された広い通路幅をはじめとするユニバーサルデザインを採用。そして見通しの良い空間、自然光が降り注ぐ明るい空間は、スタッフのストレス軽減の一助となっている。
 ONとOFFのある空間は、緊張感と憩いの演出だ。ONの場であるオペレーションルームでは、適度な緊張感をもって集中して仕事を進めることができるよう、色の効果を狙っている。例えば、イエローのカーペットに滑走路をイメージした通路、6色の壁面グラフィックなどがそうだ。オペレーションルームを出ると中庭があり、そこはOFFの空間。木々の緑と明るい日差しが癒しを感じさせる憩いの場となっており、ストレスフルと言われるコンタクトセンター業務に携わるスタッフが気持ちを切り替えやすいよう設計されている。
 コミュニケーションスポットは、会話が弾む見通しの良い空間を目指してつくられたもの。さまざまな場所にミーティングエリアを配置し、日常の情報交換やスタッフ同士のコミュニケーションが活発化するよう工夫されている。
 これら4つの建築デザインコンセプトからもわかるように、長崎センターでは開設以降、障がい者雇用、地球環境への配慮、そしてワークライフ・バランスを推進してきた。加えて、地元のマラソン大会や毎年10月に佐世保市で開催されるYOSAKOI佐世保祭りへの参加を通じて、地域社会との共生にも尽力。CSRを重視した地方都市郊外型ビジネスモデルを展開する同センターは、将来を見据えた次世代センターとして位置付けられている。
 数々の取り組みの効果としては、建築デザインの狙い通り円滑なコミュニケーションが実現していることと、地域のイベントへの参加、仲間への感謝の気持ちの伝達などの効果が相まって、センターの一体感が高まっていることが挙げられる。また、働きやすさを追求したオフィス環境は、スタッフから好評を得ているという。ただし、リフレッシュルームについては改善要望があることから、今後はより良い環境を目指して対処していく計画だ。もうひとつ、予想以上の効果が得られたのが、ホスピタリティ精神のある人材を多く採用できたことだという。各窓口の業務には豊富な知識が必要なことから、知識の修得についてはこれからも強化が必要だが、お客さまの声に耳を傾けるという点においては高い品質を実現しつつあることから、今後はこれにますます磨きをかけていきたいとしている。

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お客さまを迎えるおもてなしの空間であるメインエントランス。正面に見える中庭が施設の快適性を象徴している

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壁一面がガラス張りで開放感あふれるリフレッシュルーム。YOSAKOI佐世保祭りやマラソン大会に参加した際の写真を掲示するコーナーや持ち寄り図書コーナーなどもある

2017年には450名体制を確立

 ATMでは、全拠点共通のキャリア制度を設けている。これは基盤キャリア3段階とシニア3段階の計6段階で構成されるもの(図表)。新人コミュニケーターは一般顧客からの受電に対応する基盤キャリアからスタートする。そして、ステップアップ研修や1年間のOJTを経て、2年目には基盤キャリア2の業務を担当。3年目には、基盤キャリア3の業務を担当するというように、基本的に1年単位でスキルアップを図っていく仕組みになっている。

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 開設から2年目の長崎センターでは、現在、基盤キャリア2までコミュニケーターを育成したところ。予定通りに育成が進めば、2017年にはスーパーバイザー業務が可能なシニア3の人材が育成できるという。2013年3月に大阪センターでの業務終了を予定しているATMでは、品質の維持・向上を図るため、長崎センターの増員および人材育成が目下の課題。ステップアップ研修や月1回のモニタリング、年2回の業務評価を重点的に行ってスキルアップを図るとともに、国内・国際線双方の業務に対応できるマルチスキル・コミュニケーターの育成に努めている。2017年には、450名体制を確立する計画だ。
 長崎には地元で働くことを志向する人が多いことから、地域の人々の長崎センターに寄せる期待は高いという。こうした理由から、ATMでは高い定着率の実現を期待している。地元を愛する人がATMに価値を見いだし、長期にわたって勤務してくれることによって、お客さまの期待を超えるサービスを提供するセンターの実現が可能になるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年10月号の記事