外部リソースを利用したネット販売を展開

(株)シップス

「共感と感動を送り続ける企業」として、その時代の“基準”となるトラディショナル・ファッションを提案し続ける(株)シップス。同社では顧客の対応を直接感じることができる直営店舗での販売にこだわってきたが、2005年秋、「ZOZOTOWN」での販売を開始したことを皮切りに外部のショッピングサイトでの販売に着手。店舗販売を通じて築いた企業・ブランドイメージを崩さないかたちでのネット販売を展開している。

“Stylish Standard”をコンセプトに時代の基準となるトラディショナル・ファッションを提案

(株)シップスの起源は1952年、東京上野アメ横に開店したMIURAにさかのぼる。当初は米軍払い下げ衣料などを取り扱っていたが、1970年に現在も代表取締役社長を務める三浦義哲氏がカジュアル衣料品の米国からの輸入を開始した。その後、1975年5月に(有)ミウラを設立し、MIURA&SONS渋谷店を開店。1977年10月にはSHIPS銀座店を開店、オリジナル商品の開発を開始し現在の基礎を築いている。
 1987年11月には有限会社から株式会社に改組するとともに、社名も現在の「シップス」に変更。その後も事業規模、店舗網を徐々に拡大し、現在に至っている。なお2008年2月期の売上高は213億6,000万円となった。
 欧米の服飾文化を日本に伝えることからスタートした同社の基本的なコンセプトは“Stylish Standard”。「共感と感動を送り続ける企業」として、その時代の“基準”となるトラディショナル・ファッションを提案することを事業の根幹としている。
 同社では設立以来、直営にこだわった店舗展開を行っている。現在展開している店舗・商品ブランドは、大人のための高感度・高品質のファッションを提案する「SHIPS」、今の時代のストリートスタイルに目を向けた流行発信型レーベル「SHIPS JET BLUE」、パーティー・ファッションを提案する「ships little black」、団塊ジュニアのファミリーをターゲットにシップススタイルを提案する「SHIPS KIDS」など。さらに2007年春にはファッション感度の高い女性に「ビター&スイート」をキーワードに大人のカジュアルを提案する「Ladore ships」、シンプルな価値観を持った20代後半から30代の女性の日常着を提案する「liflattie ships」を開店するなど、新たな店舗ブランドの開発にも積極的だ。なお、主力の「SHIPS」では20代半ば~40代前半の男性と20代半ば~30代前半の女性、「SHIPS JET BLUE」では20代前半の男性が主なターゲットとなっている(「SHIPS JET BLUE」は2008年秋からメンズ&ウィメンズ複合型に移行予定)。

P1020240

シップス銀座店

販売担当者の感覚を活かして時代の感覚に合った商品を開発

 同社の取扱商品は年間で数千種類に及ぶ(SKUベース)。その半数以上が自社ブランド商品だ。中でも自社独自企画で発注書から起こす商品が4割強を占めている。同社のマーチャンダイジングにおいては、マーケットのニーズに応えることが基本となっている。その中で最も重視されているのは、売場で実際に顧客とコミュニケーションしている販売担当者の感覚だ。商品本部の企画担当者は全員に売場経験があり、また、販売担当者が毎週月曜日に本社に集合して“今”のニーズを伝えたり、年2回の社内商品プレゼンでは販売担当者の反応によって発注数を決めたりするなど、売場を通じて最新の顧客ニーズを商品開発・品揃えに反映させることに注力している。なお、同社では顧客との直接的なコミュニケーションを行う部門として「カスタマーサービス」を設けているが、この部門で対応しているのは主として顧客からの問い合わせやクレームであり、特に顧客ニーズを収集することは考えていない。ファッション感度の高い販売担当者というフィルターを通したニーズこそが、時代の感覚に合った商品の開発につながると考えているのだ。
 実際の生産は協力工場に直接委託発注するケースと商社を経由して発注するケースとがある。従来は中国での生産が多かったが、近年では品質とスピードを重視して国内生産への移行が進んでいるとのことだ。

2001年春から外部のショッピングサイトを通じたネット販売を開始

 同社ではWebサイト上に「SHOPPING」というコンテンツを設けているが、これは外部のショッピングサイトへ誘導するものであり、自社独自でのネット販売は行っていない。また、シーズンごとに紙媒体の商品カタログを製作しているが、店舗ベースで既存顧客に対してイレギュラーなかたちでの通信販売を行う程度で、システマティックな通信販売も行っていない。さらに、卸売りもいっさい行っていない。
 同社では、顧客の対応を直接感じることができる直営店舗での販売にこだわりを持っている。そのため通信販売や卸売りを展開してこなかったのだが、アパレル中心のオンライン・ショッピングサイト「ZOZOTOWN」を運営する(株)スタートトゥデイより同社製品を取り扱いたいとの申し出があったことから検討を開始。2001年春には同じくアパレル中心のオンライン・ショッピングサイトである「SELECTSQUARE」((株)セレクトスクエア運営)での販売を開始。2005年秋、「SHIPS JET BLUE」からスタートしたところ好評であったことから、約1年を経て、メインの「SHIPS」ブランドについても提供を開始した。その後、さらにショッピングセンター「ルミネ」を運営する(株)ルミネが2008年3月にオープンした「iLUMINE」にも出店している。
 同社が外部のショッピングサイトを通じたネット販売においてこだわっているのは、“シップスらしさ”を失わないことだ。そのため取引形態については「委託販売」のかたちを採り、販売する商品は同社がコントロールしている。また、売場となるサイトのデザインなどについても基本的に同社の希望を反映させており、これまで同社が店舗販売を通じて築いた企業・ブランドイメージを崩すことがないよう留意している。このほか当然のことながら、物流・フルフィルメント面についても拠点の視察などを行って、品質水準に問題がないことを確認してから契約している。
 従って、今後も外部ショッピングサイトでの販売を無軌道に拡大する意向はなく、同社のニーズを満たせるサイトに限って検討していく意向だ。
 ネット販売では基本的に店舗販売と同様のアイテムの中からロットの多いものを中心に品揃えしており、価格設定も同一である。ただし、同社では多品種小ロット生産を基本としており、人気商品については品切れが多くなる傾向にあることから、今後は店舗販売以上に瞬発性が高いネット販売に対応して生産数を調整することも検討している。なお、ネット販売の売上高は、スタートから2年半程度を経て、同社の売上高全体の5%前後を占めるまでに増加している。

SHIPS

シップスの自社サイト

将来的にはネット販売の独自展開も検討

 同社が自社独自に通信販売、ネット販売を行わないのは、現状では社内に十分なリソースがなく、新たに構築するには売り上げ規模が小さく採算性に問題があると判断しているから。今後も当面は、外部ショッピングサイトを通じたネット販売を継続する方針である。
 ただし、将来的な独自展開は必ずしも否定していない。そのひとつの指標となるのが、2008年3月にスタートした「SHIPS Member’s Club」の会員数だ。「SHIPS Member’s Club」は入会金・年会費無料のポイント・プログラムであり、利用金額の3%相当がポイント還元される仕組み。また入会時に登録したPC・モバイルのメールアドレスに同社からの情報が随時配信される。
 同クラブについては当初、年間10万人の会員獲得を目標としていたが、スタートから3週間ほどですでに2万人が入会したことから、今後目標を上方修正する方針であり、会員数が20万~30万人規模に達した段階では、ネット販売の独自展開も検討する意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年5月号の記事