問い合わせの背景情報を積極的に聴取し“フィード・フォワード”を展開

ソニーマーケティング(株)

オーディオ・ビジュアルなどPC(バイオ)を除くすべてのソニーエレクトロニクス製品に関する問い合わせを受け付ける「ソニーお客様ご相談センター」を運営する、ソニーマーケティング(株)。“コールはwelcome”と言い切る同社では、応対の中から顧客のニーズを引き出し、顧客の目線に立った製品改良や新製品開発など、あらゆるマーケティング活動の種としてこれを活用している。

マーケティングを使命として明確に位置付けお客様のニーズや要望を見出す

 国内におけるソニー製品のマーケティング・セールスを目的に1997年に設立されたソニーマーケティング(株)。ソニー(株)社長室直下の組織であった「お客様ご相談センター」は、1999年に神奈川県藤沢市の湘南テクノロジーセンターに移転後、2000年4月にソニーマーケティングに移管され、現在に至る。
 同社では、営業担当者やコールセンターで収集したお客様の声をグループ関連部署へ迅速にフィードバックし、不具合の早期解決や製品改善を図るとともに、お客様からの要望を製品開発の種として共有化していくマーケティング機能を担っている。
 一般のお客様からソニー製品の問い合わせを受け付ける「ソニーお客様ご相談センター」には、月間で約6万2,000件ものコールが寄せられる。コール内容も、現在販売されている製品に関する問い合わせから、お客様が長期にわたり使用してきたがすでに販売終了となった製品に関する問い合わせまで多岐にわたる。製品が増えれば増えるほどコール数も増加するわけだが、同社ではこれを必ずしもネガティブにとらえてはいない。
 「対応していくプロセス自体がマーケティングであり、お買い物相談の電話はwelcomeだと思っています」と、CRオペレーションセンター Telマーケティング部CS推進課統括課長堀内貴子氏は語る。
 この理由のひとつは、「お客様ご相談センター」が、コールの内容から顧客目線でニーズを把握し、マーケティングやセールスの最前線へフィードバックする活動を重視しているため。同社ではこうした循環を “フィード・フォワード”と呼んでいる。もうひとつは、応対することでお客様の購買を後押しする“魅力的対応活動”を推進するため。同社ではこれを “ミロQ”(魅力応対)の愛称で呼んでいる。同社が、これらの活動を行う一次応対スタッフを「マーケッター」と呼ぶのも、こうした姿勢の表れである。

お客様ご相談センター

「ソニー指名買い」につなげる応対を心掛けるお客様ご相談センターのオペレーション風景

プラットフォーム「VOICE」により応対履歴を一元管理し、生産性とCSを向上

 ソニーではこれまで、複数の拠点がそれぞれのナレッジシステムやメールシステムを活用し、問い合わせに対応していたが、神奈川県・湘南、千葉県・東金、岐阜県・瑞浪の3拠点に集約し、2005年末、新たなコールセンターシステム「VOICE」を導入。これにより、すべてのフロントセンターの応対履歴を共有、拠点間でシームレスな対応ができる環境を整備した。重複する工数や時間差も解消され、応対窓口の生産性が向上、お客様への情報提供がスムーズにできるようになったという。
 Telマーケティング部 マーケティング情報課では、これらの応対ログを分析、ニーズをとらえて各部署へ情報発信している。定型業務として、週間・月間レポートを発信するほか、必要な情報は、Web上のFAQとしても一般に公開している。
 また、イントラネット上のコンテンツとして、「今週の問い合わせトップ20」や、新製品発売後10日間に寄せられた生の声をテキスト化した「10daysレポート」を公開。営業担当者はここから情報収集し、時間差をなくして販売店への営業に活用できる。顧客接点における暗黙知をネットワーク上でオープンにすることで、ナレッジを共有しているわけだ。
 さらに、マーケッター、同部マーケティング情報課、マーケティング部門が集まり、お客様の生の声から改善策を検討する座談会「ホットボイス」を定期的に実施している。最近の改善事例のひとつとしては、Walkman Connectの商品説明がある。「パソコンを使って音楽をダウンロードする」というコンセプトの同製品に関して、問い合わせをしてきたお客様が、実はパソコンを持っていなかった、あるいは持ってはいるが使いこなすまでに至っていないケースが多かった。そこで、ハードディスクコンポを使って直接ダウンロードできることをカタログ上で強調(写真参照)。同時に、同社のWebサイト「ソニードライブ」上でもビジュアルで説明したFAQ画面を用意した。

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Walkman Connectカタログ3月号(左)、4月号(右) 。お客様の問い合わせから実際の使用シーンを把握、使い方をわかりやすく説明している

マーケティング部門と連携した特設窓口を用意

 Telマーケティング部では2003年から、マーケティング部門と連携して、テーマ性を持った特設の問い合わせ窓口を期間限定で設けている。セールス・マーケティングカンパニーとしてコールセンターがどれくらい販売に貢献できるかに挑戦する活動がそうだ。
 窓口は新学期、あるいは新製品発売などの商戦期に開設。「なぜその問い合わせをしたのか」という背景情報を聞き込みながら、例えば、製品の訴求ポイントが合っているかどうかをチェックするなど、質問内容にコンサルティングにつながるような要素を含んだ応対フローを作成している。「お客様が何をご覧になって電話をかけてきたか」「どこで製品を知ったか」といった認知媒体の確認や、「使用場面はどのようなところか」「現在お持ちのものから買い換えたいのか」などの質問項目画面がポップアップされる。回答をVOICE上に入力すると自動的に集計され、結果は社内ネットワーク上で閲覧できる。さらに、マーケティング情報課が質問-回答のログを分析し、先述のレポートとしてアウトプットしている。
 “ミロQ”では、どういう状態でそのコールを終えたかをチェックしている。①ニーズの聞き出し、②提案完了、③販売誘引という3段階を設けて、段階ごとのゴールに向けて応対しているという。今後は、販売への貢献をどのように測定するかが課題とのことだ。同部では試験的にミロQ対応終了後、IVRにてアンケートを実施。「オペレータがニーズを聞き出せたか」「提案があったか」「問い合わせの商品を購入したいか」などを2段階評価で質問・検証したところ、総合評価では87%が好結果だったという。このほか同社ではCS調査を半年に一度実施している。この3月に行った調査では、回答者約500人中、提案や販売店紹介ができた“ミロQ”応対のお客様が約半数を占め、これらのお客様は、それ以外のお客様と比較して満足度が高かったという。
 “ミロQ”により、お客様の潜在的なニーズを探って最適な提案を行う感動領域(Customer Delight)にどこまで入っていけるかが課題、という同社。応対に関する要素を満足度因子と不満足度因子に分け、「電話がつながる」「待たせずに回答がある」など当たり前のことは徹底し、基本を磐石にした上で、お客様のニーズに合った、ポイントを絞った提案をしていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年6月号の記事