精度の高い与信戦略を展開しリスクマネジメント強化を実現

ユーシーカード(株)

2005年2月14日、同社は、リスクマネジメントシステム「UC与信戦略実行システム」を稼動させた。 このシステムは、個々のお客様の「入会」「利用」「支払い」に至るすべての局面において、それぞれのリスクを数量化し、与信・回収業務のコントロールを一貫して行う。このシステムにより、同社では、クレジットリスクの軽減と収益増強に向けたリスクマネジメントの強化を実現する。

情報管理委員会を設置し個人情報保護の周知徹底を図る

 ユーシーカード(株)は、1969年の設立以来、日本のクレジットカード業界の発展とともに、日本を代表するクレジットカード会社の1社として業界を牽引してきた。2004年夏には、東京・お台場において「住む」「働く」「遊ぶ」というあらゆるシーンで電子マネーEdyを使えるようにするプロジェクトを推進し、東京・お台場の商業施設で割引・優待が受けられる地域密着型パスポート「DAIBA Seaside-PASS」を発行。たまったポイントを電子マネーEdyに交換できるサービスを銀行系カードで初めて導入し、注目を集めている。
 クレジットカード会社にとって、個人情報は“命”と言っても過言ではない。個人情報保護法が全面施行される以前から、お客様情報の保護という観点で厳密な管理・運用を行ってきている。
 個人情報保護法の全面施行に先立ち、同社では上杉純雄社長を委員長とする「情報管理委員会」を設置した。また、「お客様の個人情報保護に関するプライバシーポリシー」を作成。併せて、情報セキュリティポリシー、情報セキュリティスタンダードを設け、さらに取り扱いマニュアルというかたちでブレイクダウンし、それぞれの部署において情報の安全管理の徹底を図っている。
 また、コールセンターやシステムセンターなどといった高セキュリティ部署については、監視カメラを設置したほか、私用カバンや携帯電話の持ち込みを禁止。それに加えて、取引先企業との契約書の見直しや個人情報の管理体制が整えられているかのチェックも行ってきたという。
 同社では、「UCカード入会申込書」も作成し直し、会員規約(抄)から「個人情報の取扱いに関する重要事項」を抜粋し、紙面を大きく割いて掲載。お客様に個人情報の取り扱いについて明確に示した。

お客様の貸倒れリスクを測る“モノサシ”の作成に成功

 クレジットカード業界を牽引する同社は、CRM戦略の一環としてデータベースを活用し、「入会」から「回収」に至る全プロセスの一貫したリスク分析・管理を実現。2005年2月14日から、リスクマネジメントシステム「UC与信戦略実行システム」を稼動させた。
 「カードをご利用いただいたお客様の中には期日通りにお支払いいただけず、貸倒れとなるケースもあります。このシステムの導入以前は、“顕在化したリスク”を中心に判断する手法を採っており、必ずしも適正な管理ができていませんでした。本システムでは、顕在化したリスクに加え、“潜在化したリスク”までを正確に見極め、審査や与信管理を行うことで収益の拡大と不良債権の抑制を図ります」と開発の経緯を話すのは、同社信用総括部シニアマネージャーの佐々木秀樹氏である。
 2003年8月、「入会」から「回収」に至る全プロセスのリスクを測る“モノサシ”となる「与信リスクモデル」と、それらを活用した与信・回収業務をコントロールする「意思決定モデル」を構築するため、社内にプロジェクトチームを発足。2004年2月には、「入会審査」「途上与信」「回収」の3つの「与信リスクモデル」の構築を実現した。具体的には、延滞や貸倒れになる確率が高いお客様には低い点数を、延滞や貸倒れになる可能性が低いお客様には高い点数を付ける仕組みである。
 「与信リスクモデル」の活用により、「入会審査」では、申込書の記述内容などをもとに貸倒れリスクの有無の見極めが、「途上与信」では、入会後の利用状況や支払い状況などをもとに貸倒れリスクの有無の見極めが可能となった。
 入会審査に関して構築した与信リスクモデルを、過去のデータで試行した結果、従来の基準で判断したお客様のうち約10%に、高い貸倒れリスクがあることがわかった。一方で、否決した案件の中にも10%程度は承認可能なお客様がいた、という。また、途上与信審査のひとつである「与信限度額引上げ」審査でも、従来の基準で限度額を据置いていたお客様の中に、貸倒れリスクの低い方が相当数含まれていた。一方、ごく一部のケースでは、貸倒れリスクの高いお客様の利用限度額を引き上げていたことも判明した。

与信リスクモデルを活用した新たな審査基準を構築

 これらの課題を踏まえ、2004年8月、「与信リスクモデル」と、社内に蓄積されたノウハウを有効に活用した審査基準となる「入会審査」「与信限度額引上げ」「カード更新」「回収」など5つの「意思決定モデル」を構築した。それに併せて、2005年2月、これらのモデルを実装し、審査業務を行う「与信戦略実行システム」を構築。同システムは、まず「入会審査」について、この2月から稼動。「与信限度額引上げ」「カード更新」については、4月から運用を開始した。
 これにより、従来の審査基準では利用限度額を引き上げられなかったお客様や、カード更新を中止せざるを得なかったお客様に対しても、貸倒れリスクを正確にとらえた上で、適正な審査が可能となった。
 その効果の一端として、システム稼動後2カ月間で、従来に比べて入会審査における自動審査率も1割程度アップ。これにより、入会審査業務にかかる体力、コストの削減が可能になったという。
 また、2005年12月運用開始予定の「回収」業務では、支払いが遅れるお客様を、過去の利用状況や延滞状況などに基づき①電話をかけなくてもお客様本人が気付いて入金いただけるケース、②電話をかけてお願いすると入金いただけるケース、③粘り強い交渉が必要なケースの3つにセグメントした。
 同社の支払期日は毎月5日。従来は、その日にお支払いいただけなかったお客様に対して、一律に電話やハガキを出すため、手間・資金・時間のいずれの面からも、効率化が急務であった。そこで、支払いが遅れたお客様を、前出の3つのセグメントに分類、さまざまな分析を行ったところ、支払いが遅れたお客様のうち4~5割の方々は、電話をかけなくても自発的にお支払いただけることがわかったという。これにより、同社から連絡をして入金の督促をすべきお客様に、対応を集中することが可能となり、回収業務の効率化のみならず回収強化が実現する。
 同社では、同システムの導入に伴い、お客様のリスク分析を行うシステムも刷新した。景気や社会環境の変化によって、お客様の利用動向や延滞動向、入会時に登録した属性も変化する。そうしたお客様の変化を常に分析し、変化に応じてリスクモデルを調整することで、より高い精度で個々のお客様のリスク分析ができるようになった。
 また従来は、審査基準がホストコンピュータに組み込まれていたため、これを見直すにはプログラム修正が必要で、基準見直しなどをタイムリーに行うことができなかった。それが、このシステムの導入によって、与信・回収業務の戦略実装を行う部署で基準の変更が容易にできるようになった。同システムには、より最適な審査基準を構築するための機能として、新たな基準を運用した場合の効果を測定するシミュレーション機能や、従来基準と新基準を平行して運用、検証できる機能を装備。新基準のほうが効果的であると判断されれば、新基準への切り替えも容易に行えるようになった。
 これにより、常に精度の高い与信戦略へと発展させていくことが可能になったと同時に、将来的には、同システムを活用し、マーケティング面でも施策を打ち出していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年7月号の記事