顧客のニーズに応える2種類のメンバーズカード

出光興産(株)

パーソナル・データを記録する現金払い用「まいどカード」

 ここ数年で大手各社のポイントカードが出揃った石油小売業界。そのひとつ、全国に約 6,700 カ所の特約店 SS を持つ出光興産(株)では、「まいどカード」と「出光カード」 の2 種類のメンバーズカードを発行し、それぞれの会員のニーズに合わせたサービス、特典を提供している。
 「まいどカード」は、主に現金払いで給油をする顧客向けに 1993 年7 月に発行を開始。運転免許更新日、オイル交換日などのパーソナル・データを記録できる IC カードで、全国約 5,600 カ所の特約店で利用することができる。
 申込方法は、特約店の店頭で住所、氏名、電話番号、誕生日などの必要事項を記入するだけ。一般販売価格より割安な「まいど会員価格」で給油が利用できるほか、現金払いでの利用の都度、ハイオクのスーパーゼアスなら1,000 円につき 1.5 ポイント、それ以外の燃料の場合には1,000 円につき 1ポイントが記録され、累計が50ポイントになるとその場で 500 円の「ユーカード」、 VISAギフトカード、図書券のいずれかの金券がもらえる特典がある。
 「ユーカード」は、 5,000 円で 110 円、 1万円で 240 円、 2 万円で 520 円のプレミアムがついたプリペイドカード。「まいどカード」はこの「ユーカード」との併用も可能。これによって、現金払いよりさらに割安になる。
 また、「まいどカード」の開発に当たっては「電子財布」をイメージしており、同じカードがプリペイドカードとしても利用できる。あらかじめ 5,000 円、 1万円、 2万円のように設定された金額を支払うと、カードにその額が記録され、利用の都度、自動的に残高が更新される仕組みだ。平均 2.4%のプレミアムもつく。
 発行の大きな目的は、特約店の顧客の拡大。ファンの裾野の拡大である。 1996年3 月末時点で「まいどカード」会員は約 1,000 万人に達しており、そのうち実稼働数は約600万人。今後は特典・サービスの見直しなどによる稼働率の向上が課題であると、同社では考えている。
 普及率の高い磁気カードなどと比較して、 IC カードの作成・管理コストは高い。そこで、申込者にはまず仮の磁気カードを発行し、2度目の利用があった後に、会員サービス担当の「まいど事務局」から IC カードを発送するというシステムをとっている。入会者の約 70% が、 IC カードを取得するに至るという。
 会員情報活用のシステムは極めてシンプルだ。蓄積ポイント数やオイル交換時期などの情報は、別途ダイレクトメールや電話で案内するのではなく、利用の都度、レシートに印字。その場でお客様にお知らせする。キャンペーンなどを案内するダイレクトメール送付の際、各特約店は手元の端末で指示を出すだけ。この情報を受けた「まいど事務局」から、自動的にダイレクトメールが送付されるシステムになっている。
 「システム開発・導入にはコストをかけたが、ランニングコスト、メンテナンスコストはほとんどかかっていない。また、特約店には販売活動に専念していただき、それ以外の手間をかけないというのが私どもの信条。極論すれば特約店は『ON』『OFF』の操作のみで済むようなシステムづくりを考えた 」 (販売部 販売一課販売システムプロジェクトリーダー 沼田勝彦氏)という。システムの仕組み、操作方法については、わかりやすいマニュアルを作成し、各特約店に配布している。
 同社では 1995 年 12 月末に、「まいどカード」会員 4,000 人を無作為にピックアップ、顧客満足度調査を行った。その結果、約 1,500の有効回答を得たが、そのうち 80% が、このカードで提供されるサービスに「満足している」と回答している。

「まいどカード」「出光カード」「ユーカード」と、それぞれに利用範囲、特典の異なる 3種類のカードを設けて顧客のニーズに幅広く対応

「まいどカード」「出光カード」「ユーカード」と、それぞれに利用範囲、特典の異なる3種類のカードを設けて顧客のニーズに幅広く対応

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「出光カード」でより深い関係づくりを

 同杜のクレジットカード発行の歴史は古い。 1978 年、決済業務が煩雑な掛け売りをクレジット払いに移行することを目的に、特約店店頭のみで利用できる「ファミリーカード」の発行を開始。 1986年には会員拡大を狙い、 VISA、DC 、MC、JCB との提携カードとしてこれを刷新。さらに 1995 年9月、キャッシュバック・システムを導入した。
 キャッシュバックの方法はやや複雑だ。カード会社の加盟店での利用を含めた月間カード利用額1万円を 1ポイントとして換算( 1,000 円未満切り捨て、最大 30 ポイントまで)。 1ポイントにつき、たとえばスーパーゼアスなら 1.5 円/ℓ 、軽油なら 0.5 円/ℓ といったように定められたレートを掛け合わせて商品ごとの割引率を算出。これが請求月の翌月の利用に反映される。たとえば8 月 16 日から 9 月 15 日までの利用額とポイント数は、 9 月末頃に送付される請求書に明示、これが10 月 16 日からの 1 カ月間の割引率となる。またポイント数は、割引前の利用額で算出される。
 「出光カード」会員は現在のところ約 200万人。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで、キャラクターにとんねるずを起用した広告を積極的に展開中のため、会員は急増傾向にある。会員情報の管理は、同社の 100%子会社である出光クレジット(株)が担当している。
 会員は 20代から 50代まで幅広いが、「まいどカード」よりやや年代の高い 30 ~40代が中心。出光グループ各社やカード会社の加盟店などでも利用できるため、会員ひとり当たりの利用額は「まいどカード」会員の倍近い。特約店での利用のみに限ってみても、約 140% に達しているという。これは 「出光カード」が給油だけでなく、タイヤやパッテリーなどの購入に利用されることが多いためだ。
 また、店頭が唯一の会員との接点と言ってもよい「まいどカード」に対し、クレジットカードである「出光カード」は利用ごとに請求書の発送が伴う。この機会を利用して、同社ではキャンペーン案内や他社との提携による通信販売のチラシなどを同封して、会員とのコミュニケーションやカード利用促進を図っている。

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キャラクターにとんねるずを起用し、積極的な告知活動を展開中

データベース・マーケティングのトータル・システムを構築

 会員情報活用については、ハード、ソフト両面の体制整備が重要だ。現在は「まいどカード」「出光カード」それぞれの事務局、 DM発送センター、出光クレジット(株)が連携を組んで、各種プロモーションの企画・展開、特約店の販売支援に当たっている。
 同社の取扱商品・サービスは、燃料を中心にオイル、タイヤ、車検など数が限られている。オイル交換、定期点検などに関しては、すでにダイレクトメールや電話で次回の時期を案内するシステムができ上がっている。今以上に会員データベースを生かすアプリケーションの開発は、これからの課題だ。
 効率的、効果的なマーケティング活動の展開を目指し、着々と会員情報収集・分析・活用のシステム化を進めてきた出光興産(株)。規制緩和の波に乗り、ショップやレストランを併設するなど魅力を増してきた SS (サービスステーション)であるが、会員情報データベースは SS がより大きく姿を変え、飛躍するためのチャンスを提供することになるのかもしれない。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年10月号の記事