コンタクトセンター最前線(第102回):顧客対応とVOC活用で満足度を高め生涯顧客の拡大を目指す

味の素(株)

2009年に創業100周年を迎えた味の素(株)。同社の家庭用食品に関する問い合わせやクレームなどに対応するお客様相談センターでは、One to Oneコミュニケーションとお客さまの声(VOC)に基づく商品開発・改善、そして全社的なCS推進を支援することで、①顧客満足度の向上、②企業の信頼および価値の向上、③生涯顧客の拡大を図ることを目指している。

さらなる品質向上のために品質保証部へ移行

 1909年の創業以来、アミノ酸のさまざまな価値を探求し、食品分野、アミノサイエンス分野、医療・健康分野へと事業を拡大している味の素(株)。同社の事業展開は国内にとどまらず、現在では22の国・地域に拠点を置くグローバル企業へと成長。その商品は世界130以上の国・地域の人々に親しまれている。2009年には創業100周年を迎え、これを機にグループ理念をリニューアル。「私たちは地球的な視野に立ち、“食”と“健康”そして、“いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献します」を新たな理念として掲げ、次の100年に向かって歩み始めた。
 味の素といえば、社名でもあるうま味調味料「味の素®」、かつおだしの「ほんだし®」といった数々のロングセラーを生み出し、多くの生活者の支持を集めている。これら家庭用食品に関する問い合わせやクレームに対応するとともに、収集したお客さまの声を社内で共有・活用することにより、より満足度の高い商品作りと企業品質向上のための橋渡しをしているのがお客様相談センターである。One to Oneコミュニケーションとお客さまの声に基づく商品開発・改善の推進、そして全社的なCS推進企画を支援することで、①顧客満足度の向上、②企業の信頼および価値の向上、③生涯顧客の拡大を図る、をミッションとしている。
 同センターは家庭用食品を対象としていることから食品カンパニーの管理下に置かれていたが、企業品質のひとつである商品品質の向上に大きくかかわっていることを理由に、この4月から品質保証部へ移行。センターに集まる顧客情報を、これまで以上に商品・サービスの品質向上に役立てる体制を整えた。
 お客様相談センターは、これまで社会的背景やお客さまニーズをくみ取りながらアクセス性を高めたり、迅速な対応を可能にしたりと、受付体制を進化させてきた。その歴史は図表1の通りである

1005S1

夜間・休日の受け付けにはアウトソーシングを活用

 お客様相談センターは東京の本社内にあり、年間約4万件の問い合わせやクレームに対応している。スタッフ数は総勢30名。内訳は、電話の一次対応を行うアドバイザリースタッフ16名、クレーム対応とVOC活動のサポート担当者が各1名、電話の二次対応や教育といった業務を担うSVとセンターを統括するマネージャーが合わせて10名。雇用形態は、アドバイザリースタッフからサポート担当者までが派遣スタッフで、SVとマネージャーは社員となっている。
 受付時間は9時30分から21時まで。9時30分から17時30分までは同センターで対応しているが、それ以降と、休日の9時30分から21時まではテレマーケティング・エージェンシーにアウトソーシングしている。

1005S3

味の素(株)お客様相談センターのオペレーション風景

カテゴリー別電話番号で適切なスタッフにコールを振り分ける

 受付窓口には、電話、eメール、手紙を活用。コンタクトの90%以上は電話で、残りがeメールと手紙になっている。
 電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを利用している。フリーダイヤルの導入は1995年。併せて、携帯電話からの着信も可能にすることにより、さらなるアクセス性・利便性を高めた。また、迅速に回答するために、商品カテゴリーごとにフリーダイヤル番号を用意し、用件に応じて最適なアドバイザリースタッフに電話をつないでいる。
 フリーダイヤルと併せてサービス品質の向上に貢献しているのがコンタクトセンターシステムである。CTIシステムにはパナソニックソリューションテクノロジー(株)のe-Contactを導入し、エスカレーションや応対履歴管理などを容易にしている。このほか、お客さまから寄せられた問い合わせを管理する「お客様の声検索システム」「クレーム管理システム」を導入している(図表2)。

1005S2

クレームはお客さまの“シグナル”

 相談センターのお客さま対応における基本姿勢は、「アクティブ・リスニング」である。日本語では共感的傾聴と訳される。具体的には、お客さまの言わんとすることをお客さまの身になって理解することに努め、お客さま自身による表現の手助けをすること。真剣に対応することにより、お客さまに満足の気持ちが生まれることを期待しているのだ。また、クレーム対応においては、クレームをお客さまの“シグナル”ととらえて、真摯な気持ちで対応している。
 こうした基本姿勢は、One to Oneコミュニケーションの推進はもちろんのこと、クレーム対応においても効果を上げているようだ。相談センターでは、クレーム対応プロセス(図表3)を定め、クレーム発生時にはこのプロセスに沿って対応。最終的に文書で回答したお客さまを対象に、毎月、満足度調査を実施している。2009年度の調査結果を見ると、「満足」と「まあ満足」で77%、「やや不満」と「不満」で23%となっており、対応に不満を感じているお客さまも少なくない。しかし、フリーコメント欄に、「結論は納得できないが、お客様相談センターはよく対応してくれた」という声が寄せられることもあり、相談センターではこの基本姿勢が制度的サービスの限界をカバーしていると見ている。

1005S4

 なお、2009年度のクレーム件数は2,150件。クレーム内容の内訳は図表4の通り。

1005S5

お客さまの声を社内で共有する仕組み

 お客様相談センターの重要な役割として、VOCに基づく商品開発・改善の推進がある。VOCを商品の開発や改善に活かすには、企画(お客さまの声分析による商品改善提案)、開発(お客さま視点アセスメント)、製造(CS意識向上の風土作り)、販売(改善効果のフィードバック)のPDCAサイクルを実施することが不可欠であることから、同センターでは以下の取り組みを行っている。
 まず、日次で受付内容を確認し、緊急対応が必要な案件があればアラームを発信。週次では、前週の声の中から気になる声をピックアップしてWeekly Reportを作成し、イントラで全社員に発信している。
 月次では、相談センターの全スタッフの参加による「お客様の声読み込み会議」を開催。お客さまから寄せられる要望、お客さまの気付きや商品の意外な使われ方、商品や報道に対する関心度、お客さまの生活の変化に関する情報を社内へ発信している。
 また、半年に1回の頻度で、お客様の声活用会議を開催。これには、相談センターのほか、事業部の企画・開発担当、研究所の商品レシピ開発および包装容器開発の担当、工場の品質管理担当、広報部のパッケージデザイン担当らが参加し、問い合わせの傾向や進行中の商品改善の進捗状況を共有するほか、新たな商品改善提案や改善に向けての議論が行われる。そして、新商品の発売前には、新商品の品質アセスメント会議を開催。品質保証部、原料購買部、生産管理部、工場、相談センターが参加し、お客さま視点で商品を確認してお客さまの不満の芽を未然に摘むという役割を果たしている(図表5)。

1005S6

「お客様の声ポータル」で積極的に声を活用できる環境を整備

 お客さまの声活用の推進においては各種会議体などの仕組み構築が必須だが、このほか、お客さまの声の可視化、時差のない共有、高い検索性、目的に合った解析ができることも必要だ。さらに、全社的なCS マインドの醸成も不可欠である。そこで、お客様相談センターでは、2008年5月に(株)野村総合研究所の「お客様の声ポータル」を導入。お客さまの声の社内共有を実現するとともに、各部門が各自の業務の中で積極的にお客さまの声を活用できる環境を整えた。これにより、お客さまの声を推進力としたPDCAサイクルを強化。数々の改善につなげている。

商品の改善後にお礼の手紙が届いた

 改善例の中から、わかりやすいケースとして、「アジシオ300g袋」の改善を紹介しよう。
 「アジシオ300g袋」は、100gずつの小袋に分けられたアジシオが3つ入っている商品である。従来は外袋の切り口から切ると、中の袋も一緒に切れてしまうことがあり、使いづらいというクレームが寄せられていた。同様のクレームは、2008年に29件寄せられており、クレームまではいかないが不満に思っているという申し出が7件あった。
 そこで、2009年2月より、切り口をなくしてスナック菓子のような開封方法に変更。併せて、パッケージにイラストで開け方を記載したところ、それ以降、同様のクレームがなくなったという。
 この改善には後日談がある。クレームを申し出たお客さまのひとりから、「袋の開け口が変わって、開封時に中袋が一緒に切れることがなくなって便利になった。ありがとうございました」というお礼の手紙が寄せられたのだ。こうした声は、相談センターのスタッフはもちろんのこと、全社員のモチベーションアップにもつながることは言うまでもない。

VOCフィードバック体制のさらなる強化を図る

 現在、相談センターとしての課題は、VOCフィードバック体制を強化し、より効果的な情報共有を推進していくこと。お客さまの声を事業に反映する仕組みとして、先に日々の確認や各種会議体の運営を挙げたが、組織改訂に伴う体制の見直しが必要であり、VOC活用の社内への浸透度などに合わせて、新たな方法を取り入れていくことも大切と考えている。
 お客様相談センターでは、今後もお客さまの声活用を推進するべく、すでに実施済みの各部門に「お客様の声ポータル」を週1回以上閲覧してもらうよう働き掛けることや、Weekly Reportの発信、事業部や研究所との連携による不満の事前防止に取り組んでいく意向。こうした活動を通じて、お客さまの満足度を高めて企業の信頼および価値を創造し、生涯顧客の拡大に貢献していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年5月号の記事