「シンプルさ」 にこだわり誘引しやすいサイト作りを目指す

日本ヒューレット・パッカード(株)

日本ヒューレット・パッカード(株)は、パソコン、プリンタなどで世界的シェアを持つ強みを活かしながら、独自色のあるWebマーケティングを展開、日本での市場拡大を目指している。その原動力として、直販サイト「HP Directplus」の存在がある。「HP Directplus」は、同社の企業サイトの中のひとつのコンテンツ。「わかりやすさ」「シンプルさ」を追求することで、Webサイトへの大量の集客を実現している。

直販ビジネスの集客力をほかのビジネスにいかにつなげるか

 日本ヒューレット・パッカード(株)は、PCやワークステーションを手掛ける国際的なIT企業「ヒューレット・パッカード(以下、HP)」の日本法人。現在、国内に52カ所のセールス・サポート拠点を有し、売上高3,815億円(2004年10月期)を誇る。パソコン、プリンタなどで世界的シェアを持つ強みを活かしながら、独自色のあるWebマーケティングを展開し、日本での市場拡大を目指している。その原動力として、直販サイト「HP Directplus」がある。
 同社営業統括コマーシャルビジネス統括本部SMBマーケティング部主任の室裕朗氏は、「インターネットを利用した直販ビジネスは非常に伸びている市場です。弊社でも『HP Directplus』として、オンライン販売に力を入れています」と語る。
 同社の事業の特徴は、パソコンやプリンタなどのパソコン関連製品とソリューションの提供に大別される。「HP Directplus」で販売しているのは、パソコンやその周辺機器など、オンラインストアで売買が成立する商品群だ。
 また、「HP Directplus」は、単なる直販サイトという位置付けだけではなく、同社のほかのビジネスと連携するための、顧客と企業を結ぶ架け橋的な存在となっている。
 パソコンは、注目される製品カテゴリーではあるものの、市場の飽和化、低価格化により、利益が上がりにくいものになっている。そうしたことを踏まえ、同社では、Webサイト経由でパソコンを購入しに来た顧客を、いかにワークステーションやほかのソリューションなど、同社が得意とする分野へ誘引できるかに力を入れている。

広告は集客力アップと企業の認知度アップの2本立て

 現在、同社が「HP Directplus」への集客方法として活用しているのは、新聞や雑誌広告、ポータルサイトのバナー広告、キーワード広告、それからアフィリエイトだ。バナー広告、キーワード広告に関しては、CPC(Cost Per Click/1クリック当たりの広告コスト)とCPA(Cost Per Acquisition/顧客獲得や会員獲得1件当たりの獲得コスト)を用いて、定期的にそれぞれの媒体の効果測定を行い、その結果に基づいて最適な方法を模索している。これらを活用してのWebサイトの集客状況について、具体的な数字は未公開。
 「バナー広告を打つ時のコツは、価格と性能を前面に押し出すこと。そのほうが顧客の反応がいいですね。バナーで表現できることは限られているので、無駄な情報は詰め込まないように気を付けています。また、バナー広告の掲載サイトは、店頭などでAV、パソコンなどを中心に販売しているメーカーのユーザーよりも、カスタマイズが可能なWeb直販を中心としたメーカーのユーザーが集まるWebサイトなどから誘導したほうが効果があります」(室氏)
 一方、同社が週1回の割合で出稿している新聞広告に関しては、目玉商品を掲載したり、URLを目立たせるなどして、Webサイトへの誘引を図っている。
 ちなみに、新聞に広告を掲載する時には、専用のURL(www.hp.co,/directplus_ad)を載せて、新聞からのアクセス件数を把握している。ただ、同社の新聞広告には、インターネット広告とは異なる目的がある。それは、単なる商品の販売だけではなく、「日本ヒューレット・パッカード」という企業ブランドの認知度を高めることだ。
 同社営業統括コマーシャルビジネス統括本部SMBマーケティング部の沼田綾子氏は、「 『日本ヒューレット・パッカード』という会社を認知してもらい、ブランド力を高めることが重要だと考えております。それがエンドユーザーの認知を高めることで、エンドユーザーに対して商品を提供する弊社のパートナー企業の顧客獲得につながるからです」と説明する。このことは同社が、Webサイト単体ではなく、複数の販売チャネルを効率よく活用し、トータルで売り上げを伸ばすことに注力していることを示している。
 実際、顧客がWebサイトを訪れたからといって、余程の目玉商品でもない限り、すぐに購入まで至ることはない。そこで、同社では「お客様が購入を決断するタイミングまで待つことが大切」(沼田氏)という考えのもと、Webサイトを訪問した顧客に、新商品の情報やお得なキャンペーン情報が入手できることを告知しながら、eメールアドレスの登録を促す仕組み作りをしている。そこには“日本ヒューレット・パッカード”という存在に触れていただくことが重要だという認識がある。
 同社では、新聞広告を出稿する時は、商品の価格を前面に打ち出している。これは、価格がフックになるという生活者の心理を踏まえてのことだ。しかし、生活者に「安売りメーカーなの?」と誤解されないために、広告コピーの中に、“技術力”や“セキュリティ”など価格以外の情報を盛り込み、「テクノロジ・カンパニー」としての企業イメージを崩すことのないよう工夫している。

スクリーン 3

「わかりやすさ」「シンプルさ」をモットーに作られている同社のWebサイト

オープン懸賞は単なる集客目的ではなくブランド構築の手段として活用

 「HP Directplus」は、同社の企業サイトの中のひとつのコンテンツとして存在しており、その構成は非常にシンプルだ。これは同社が、Webサイト作りにおいて「わかりやすさ」「シンプルさ」を心掛けることが、Webサイトの集客アップにつながると考えているからだ。例えば、トップページにある「オンラインストア」をクリックすると、「個人のお客様」のほか、「法人のお客様(従業員500名未満)」「法人のお客様(従業員500名以上)」「公共機関のお客様」の4つのカテゴリーに分類されており、ユーザーのニーズに合った項目を迷うことなく選べるようにしている。
 また、同社がシンプルなWebサイト作りにこだわるのは、「製品が欲しい」「購入を検討したい」という顧客を中心にビジネスを展開しているため、そういった人たちが、同社のWebサイトをブックマークし、定期的に商品をチェックしているのである。それだけに同社の商品、または同社そのものに興味を持ってもらえるようなブランディング戦略を展開している。
 例えば、現在、同社のWebサイトにおいて、映画「マダガスカル」の公開記念キャンペーンを実施している(2005年8月1日~31日まで) 。この映画は、DreamWorks社がHPと提携し、同社のテクノロジを使って制作した。「オープン懸賞は集客が目的でもありますが、そればかりではありません。お客様にHPがDreamWorks社に対してテクノロジを提供していることを知っていただくことが、企業ブランドの構築につながるのです」(室氏)
 直販サイトというのは、とかく目の前の売り上げにとらわれがちだが、同社はブランド戦略の一環と位置付けた上で、さまざまな媒体を活用し、Webサイトへの集客を推進している。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年9月号の記事