通信ネットワーク最前線(第17号) 

(株)第一勧業銀行

日本版金融ビッグバンへの対応策のひとつとして重要な役割を担うテレホンバンキング。今回は(株)第一勧業銀行のテレホンバンキングについて話を聞いた。

21世紀に向けた新たな取り組み

 金融業界の規制緩和にともない、銀行、証券、保険の各子会社間での完全相互参入が可能となったことなどで、今まで以上に取扱商品の品揃え、料金、サービスが競われる時代がやってきた。各行では日本版金融ビッグバンへの対応策として、テレホンバンキングへの取り組みが検討され、すでにいくつかの銀行ではこれを開始している。
 “ハートの銀行”で、お馴染みの(株)第一勧業銀行では、1996年1月より専門の相談員によるフリーダイヤルを利用した個人向け相談、照会業務を行う「ハートダイヤル」を開設しているが、さらなる顧客サービスの向上と業務の効率化を図るために、1997年10月1日よりテレホンバンキング・サービス「ハートのテレフォンバンク」をスタートした。
 「ハートのテレフォンバンク」の利用対象者は、同行に口座を持つ個人のお客様。近年、都銀各行ではATMの設置とその利用促進に力を注いできたが、その結果として、来店客の約7~8割がクイックロビーを利用しているのが現状。勢い、行員とお客様とのパーソナルなつながりが稀薄化しつつある。そこで同行では、お客様との接点を回復することを第一の目的に掲げ、「ハートのテレフォンバンク」の実施に踏み切ったわけだ。
 同サービスの申込手数料、年間利用手数料は無料。一度申し込みをしてしまえば、あとは電話1本で、残高照会や資金移動、各種相談ができるというもの。“利便性”は同行のサーピスの基本。店頭、クイックロビー、電話とお客様の選択肢を増やすことで利便性を高め、その時のお客様の状況に最適な窓口を利用していただければと考えている。

約3カ月間で5万人の申込者を獲得

 サービスの告知には、店頭ポスタ一、パンフレット、新聞や雑誌の広告などを利用。1997年10月より、店頭、郵送による申込受付を開始した。新規口座開設の申込用紙に利用申込欄を設け、口座開設と同時に「ハートのテレフォンバンク」の利用申込ができるようにすることで、短期間に多くの申込者の獲得に成功している。その数は、1997年12月末までに5万人を突破。このことからも、テレホンバンキングがいかに注目されているか、また、ニーズの高いサービスであるかがわかる。
 営業時間は、平日の午前9時から午後9時までと、土・日の午前9時から午後5時まで。サービス内容は、残高照会、振込、振替、定期預金入金、振込入金照会、振込・振替依頼照会、商品案内、各種相談、資料や申込書の請求。このうち商品案内、各種相談、資料や申込書の請求にはオペレーターが対応。それ以外の資金移動をともなうサービスについては、安全確保のため自動音声で対応。ただし、残高照会と振込入金照会については自動音声とオペレーターによる対応を併用している。
 本人確認の方法は非常に関心が寄せられるところである。同行では、照会用の4桁の暗証番号、資金移動用の9桁の暗証番号、口座ひとつひとつに7桁の利用口座コードを設定し、これらを組み合わせて行う。たとえば、残高照会の場合は、はじめに利用口座コードを入力し、次に4桁の暗証番号を入力。振込や振替などの場合も同様に、利用口座コードを入力した後、9桁の暗証番号を入力するという仕組みだ。
 サービスの受け付けにはフリーダイヤル0120-3-81089(さあ、ハートバンク)を利用。フリーダイヤル導入の理由は、サービスの利用促進と同時に、「振込手数料をお客様に負担していただくので、通話料は銀行サイドで負担するのが当然」との考えから。ただし、フリーダイヤルを利用できない携帯電話やPHSからの利用については、一般加入回線番号で受け付けている。
 フリーダイヤル番号の告知は、主にパンフレットやマネーカードの裏面に番号を記載するという方法で行われている。そのほかには、新聞や雑誌広告を活用。中でもマネーカードは口座を開設しているほぼすべてのお客様にお渡ししているため、より確実性の高い告知媒体と位置付けられている。

テレホンバンキングの中枢 コールセンターの舞台裏

 「ハートのテレフォンバンク」の業務運営を担っているのは、神奈川県・中央林間にあるコールセンター。同行では「ハートのテレフォンバンク」専属の行員、およびパートを含む約50名のオペレーターがシフトを組んで対応に当たっている。回線数はフリーダイヤルと一般加入回線を合わせて約30回線を用意している。
 フリーダイヤルにかけられた電話は、直接コールセンターにつながるのではなく、いったん東京都内に設置されている中継ポイントに接続される。そこで自動音声にしたがって選択されたメニューに応じ、残高照会、振込、振替、振込入金照会、振込・振替依頼照会の場合は事務センターに転送され、自動音声応答装置に接続。商品案内や各種相談、資料請求の場合はコールセンターに転送され、オベレーターが対応に当たるという仕組みだ。(図表1)
 携帯電話やPHSから一般加入回線を利用する場合も同じ仕組みで着信呼の振り分けを行っているが、取り引きの途中で回線が切断される可能性があるため、振込、振替、定期預金、つみたてプラン入金など資金移動をともなう取り引きの場合には、携帯電話やPHSからの利用は避けていただくよう、利用ガイドブックなと守を通してお客様に呼びかけている。

[図表1]システムフロー

中心利用者層は20~30代

 先にも述べたように、「ハートのテレフォンバンク」は、顧客サービスの向上と業務効率化の実現に向けてスタートを切ったわけだが、開始後4カ月を経た今日、その効果は着実に現れている。
 まず第一に挙げられるのは、「ハートのテレフォンバンク」専属のスタッフがお客様の利用頻度が高い照会業務などをこなすことで、各営業店窓口の行員が電話応対に追われ、来店したお客様をお待たせしてしまうといった事態を回避できるようになったこと。これにともない、窓口の行員は、来店されたお客様との、対面による相談受付や商品の提案に専念することができるようになった。また、振込や振替も電話1本で可能なため、毎月25日から月末に集中する店頭の混雑の緩和にもつながっているという。
 照会業務から資金移動、各種相談を含めた利用件数は、1カ月に約5万件。これは申込者数とほぼ同数であるから、だいたいひとりのお客様が月に1回利用しているということになるが、最近では徐々にコール数が増えており、月に数回利用するお客様が増えているものと同行では見ている。サービスの利用者層は20~30代が中心で、その数は、全体の約5割を占める。この理由としては、自動音声にしたがってプッシュ操作することに抵抗のない世代であることが挙げられるだろう。利用者の年齢層は徐々に上に広がっているとはいうものの、実際はまだまだ限られているのが現状。同行では操作性の向上を図り、すべての年齢層に対応できるように工夫をする必要があると見て、システムの改善に取り組んでいる。

今後の展開

 「ハートのテレフォンバンク」の実施は、お客様の利便性を向上させ、さらには同行に業務の効率化をもたらす結果となった。
 今後同行では、オペレーターのスキルアップを図り、オペレーターが対応に当たるサービスの内容を充実していく意向。たとえば、各種相談や資金移動をともなう取り引きがそれに当たる。ただ、オペレーターが対応することが一概に良いことばかりとは言えないだけに、これには充分な配慮が必要である。たとえば、オペレーターと会話をしなくても、プッシュ操作だけで残高照会や資金移動ができるということには、オフィスや外出先からでも他人に聞かれることなく用件を済ますことができるという利点がある。歩きながら「どこどこへ100万円振り込んでください」などというオペレーターとのやり取りを他人に聞かれるのは、あまり気持ちのいいことではない。また、人と話すことに煩わしさを感じる人にとっては気軽に利用することができるメリットがある。
 同行ではそのほかにも、受付時間の延長やサービスメニューの拡充により、さらなる利便性の向上に努めたいとしている。システム面では、全国でのサービス実施が2月に迫っているNTTの新サービス「ナンバー・ディスプレイ(発信電話番号表示サービス)」の導入を検討中だ。
 常に変化するお客様のニーズや環境への迅速な対応を実現するために、「ハートのテレフォンバンク」の機能拡充に余念がないといったところだ。

その他の都銀におけるテレホンバンキングへの取り細み

 今回の「通信ネットワーク最前線」では、(株)第一勧業銀行を取り上げたが、このほかにも都銀・地銀各行ではサービス開始に向けて準備を進めている。すでにサービスを開始している銀行においても、取扱業務の拡充、操作性の向上を図っているのが現状。(図表2)そこで最後に、本誌1997年10月号(Vol.17)で取材をした(株)三和銀行と(株)住友銀行のその後について少し触れてみたい。
 (株)三和銀行では、「三和テレフォンバンキング」の認知度が高まるにつれ、サービス開始当時に約2万人だった申込者数が、現在ではその3倍強の約7万人にまで増加したという。
 同行では「三和テレフォンバンキング」をより利便性の高い、お客様のニーズに合ったサービスとするために、サービス内容の充実に取り組んでおり、新サービスの投入を続々と行っていく予定だ。
 まずはじめに、1998年1月末から携帯電話、およびPHS での利用受付を開始する。携帯電話やPHSからはフリーダイヤルを利用することができないため、お客様には一般加入回線の番号を利用していただく仕組み。その際には、市外局番からの入力が必要となるが、これはなかなか面倒なものである。そこで、同行ではNTTDoCoMo、J-PHONE、移動、ツーカーセルラーと提携することにより、#と4桁の数字の短縮ダイヤルを設けて、テレホンバンキング・サービスの受け付けを開始することを決定した。同じく2月からは、4つのサービスメニューを加える。ひとつ目は、一般加入回線による海外からの利用可能。これには、取り引きの途中で小銭が切れてしまったり、宿泊施設から高い手数料を支払って電話をするお客様のことを考え、国際電話会社の最大手、KDDと業務提携を結び、通話料の割引サービスや料金後払いサービスの利用を可能とする。二つ目は、トラベラーズチェックと外貨の取り扱いの開始。これは3日前までに予約をすれば、成田空港と関西国際空港で受け取ることができるというサービスである。米国ドルはもちろん、シンガポールドルやタイバーツなど、成田空港では16幣種、関西国際空港では18幣種を取り扱う。三つ目は、振込と振替の24時間受付の開始。その数カ月後には、残高照会を24時間化するという。残高照会から24時間化するのが通常の流れのような気がするが、同行ではあくまでも、お客様のニーズの高い内容からサービスを開始する方針を貫いているのだ。そして四つ目が、インターネット・バンキングの開始である。
 一方で(株)住友銀行では、新規口座開設の申込用紙とテレホンバンキングの申込用紙を一体化し、口座開設とテレホンバンキングの申し込みを一度に行えるようにし、申込者を一気に獲得。サービス開始当時に約2万人だった申込者数が、現在では約20万人に達している。この急激な増加にはただただ驚くばかりである。もちろん、サービス内容の充実にも力を入れており、1997年11月には無担保ローン(商品名「キャッシュローン」)の申込受付を開始。続いて、1998年1月19日からは外貨預金の取り扱いをはじめた。これは「ステートメント式外貨口座」と言い、証書などの代わりに毎月1回、取引内容や残高を記載した明細を郵送するというもの。併せて、トラベラーズチェックの販売も行う。こちらは、あらかじめお客様にお申し込みいただき、郵送、もしくはお客様が指定する支店や出張所の窓口で受け渡しを行う。
 また2月からは、無人応答による残高照会の24時間受付を開始する。さらに1999年5~6月には、振込・振替、資料請求に至るまで24時間の対応を実現したいとしている。
 このほか同行では、1997年11月より、ATMでの登録が必要だった2つの暗証番号を、第一暗証については申込書による届け出。第二暗証については、ホストコンピュータで自動出力して郵送するという方法に切り替えた。暗証番号を変更したい時には、従来通り、ATMで変更することができる。
 同行の今後の課題として今、挙げられているのは、サービスの利用促進である。現在の利用件数は、オペレーターが対応するものだけで約1万5,000件/月。申込者数に対して利用件数はさほど多くないというのが同社の見解である。お客様にスムーズにサービスを利用していただくためのガイドブックを申込者全員に送っているとは言え、利用方法やサービス内容を充分に理解していないお客様もいるだろう。同社では、お申し込みいただいたすべてのお客様にサービスの理解を深め、有効に活用していただくためにアウトバウンド・コールを実施するという。
 金融業界を取り巻く環境が大きく変化する中、ひと通りの商品を揃えて、お客様を待っていればいいという時代は終わりを告げようとしている。お客様の心をしっかりとつなぎ止め、より良い関係を築くためには、個性のある魅力的な商品やサービスが不可欠。金融各社は、生き残りをかけて、これからますます蟻烈な戦いを繰り広げていくことだろう。

[図表2]テレフォンパンキンク取扱い商品比較表


月刊『アイ・エム・プレス』1998年2月号の記事