通信ネットワーク最前線(第15回)

若葉自動車(株) 

今回は、フリーダイヤルと「ナンバー・ディスプレイ」の連動によって顧客サービス向上を実現している名古屋のタクシー会社、若葉自動車(株)にお話をうかがった。

タクシーの配車受付にいち早くフリーダイヤルを導入

 若葉自動車(株)はパチンコ・パーラーをはじめとするパチンコ事業、レストランなどのフードサービス事業、ボーリング場などのスポーツ&アミューズメント事業、ビデオショップなどのコンビニエンスサービス事業と、幅広く事業を展開し、1996年度には計410億円の売上高を記録した琉泊グループ全7社のうちの1社。愛知県名古屋市を中心としたトランスポート事業を担うタクシー会社である。1954年、琉泊グループのスタートとともに設立された同社は、常にグループの中枢にあり、着実に成長を続けてきた。「わかばタクシー」の名称で親しまれ、安全の最優先とスピーディなサービスで、日々お客様の足として活躍している。
 高度情報化社会を迎え、同社のようなサービス業においてもお客様の新しい、なおかつ多様なニーズに対応することが大きな課題として浮上してきた。そこで、同社では、グローバルな視野に立って自社のスタンスを明確にし、お客様の期待を具現化すべく、1989年にCI(コーポレート・アイデンティティ)を導入。
 一方、サービス面では、フリーダイヤルによる配車受付や公衆自動車電話付きタクシーをいち早く導入するなど、積極的に新しいサービスを採り入れて、顧客満足度の向上に努めてきた。

タクシーは“走る広告塔”

 同社が配車受付にフリーダイヤルを導入したのは1989年のこと。配車受付のフリーダイヤル番号は0120-118855。この電話番号の告知は、日々の業務の中で徹底されている。たとえば、タクシーの後部にフリーダイヤル番号を印刷したステッカーを貼ったり、電話機などの小さなスペースに貼ることのできるステッカーを乗務員が車内でお客様に直接手渡すなどの方法が採られている。24時間、名古屋の街を走り、たくさんのお客様を運ぶタクシーそのものが、絶好の広告媒体。文字通りの“走る広告塔”なのだ。
 また、一般加入回線番号にダイヤルしてきたお客様には、その都度オベレーターが「次回からは、フリーダイヤルをご利用ください」とご案内をして、フリーダイヤルの利用を促進している。

車内でお客様に配っているステッカー(下)と、裏表紙にフリーダイヤル番号を大きく印刷した若葉自動車(株)の会社案内(左上・右上) 車内でお客様に配っているステッカー(下)と、裏表紙にフリーダイヤル番号を大きく印刷した若葉自動車(株)の会社案内(左上・右上) 車内でお客様に配っているステッカー(下)と、裏表紙にフリーダイヤル番号を大きく印刷した若葉自動車(株)の会社案内(左上・右上)

車内でお客様に配っているステッカー(下)と、裏表紙にフリーダイヤル番号を大きく印刷した若葉自動車(株)の会社案内(左上・右上)


フリーダイヤルは好評 コール数が約2割増しに

 フリーダイヤルによる配車受付は、年中無休・24時間体制で名古屋市瑞穂区にある本社内で行っている。フリーダイヤルの回線数は1回線。受け付けには、専任の同社社員2名が早朝、日中、深夜とシフトを組み、交替で対応に当たっている。
 フリーダイヤルを導入してからというもの、お客様からの電話による配車申込は増え、現在、フリーダイヤルに寄せられる配車受付件数は、1カ月に平均して約560件。一般加入回線に寄せられる配車受付件数は、1カ月に約150件。受付件数はフリーダイヤル導入前と比べると、約2割増となっている。
 フリーダイヤルでは、通話料金の負担を気にすることなく話ができるため、自分のいる場所を落ち着いて伝えることができると、お客様からの評判は上々だ。

本格的なサービス開始に先駆け「ナンバー・ディスプレイ」を導入

 この10月から横浜、名古屋、福岡の3地域でNTTの新サービス「ナンバー・ディスプレイ(発信電話番号表示サービス)」がスタートしている。同サービスは、着信側が電話を取る前に発信側の電話番号が電話機のディスプレイに表示され、電話の相手を知ることができるというもの。今年の2月から9月末日まで横浜、名古屋、福岡の3地域で試験を行い、10月より、本格的なサービスの提供が開始された。1998年2月からは、全国でサービスが開始される。米国では同様のサービス開始とともにコールセンターを設置する動きが活発化したとも言われており、また、このサービスによってコールセンターのCTI化が加速すると予測されることから、大きな注目を集めている。
 同社では、さらなるサービスの充実と業務効率化を図るために、1997年2月「発信電話番号表示サービスの試験提供」の企業モニターとしてナンバー・ディスプレイを導入。それにともなって、以前は紙ベースで管理していたお客様の情報を、実績優良顧客を中心にピックアップしてデータ化し、これまで活用していたフリーダイヤルに、ナンバー・ディスプレイと顧客データベースを連動させた、新たなシステムの構築に着手したのである(図表1)。

通話時間の短縮によるスピーディな配車と通話料軽減を実現

 新システムを活用した配車受付から配車までの流れは次の通り。
 電話が着信するとシステムが発信電話番号情報をもとに自動的に顧客データベースを検索。オペレーターが電話を取るときにはすでにお客様のデータが端末にポップアップ表示されている(図表2「スクリーンポップ」参照) 。配車受付が終了するとすぐに、乗務員がお客様のところまで行くために必要な情報をプリントアウトし、乗務員に手渡す。
 顧客データベースには住所、氏名、電話番号のほか、登録電話番号がある場所までのアクセス方法や累計利用回数、最終受付日が記録されている。現在、同社の顧客データベースは約800件。男女を問わずお年寄りが大半を占めている。ナンバー・ディスプレイ導入以降、同社では、フリーダイヤルを利用して配車を依頼してきたお客様の情報はすべてデータベースに登録しているため、これが1,000件を上回るのも時間の問題であろうと予測している。
 ナンバー・ディスプレイ導入以前、オペレーターが逐一お客様の居場所を記入した手書きのメモを作成し、地図を見ながら説明していた頃に比べると、お客様との通話時間と乗務員に説明する時間の両方が短縮され、配車の効率が大きく向上したという。お客様は待ち時間が短くなり、同社は負担する通話料が軽減されるというように、双方にメリットが生じている。
 システムの特徴として、操作性に優れ、誰でも比較的容易に扱うことができ、また、配車受付の経験の有無にかかわらず、均一化したオペレーションを実現できるということが挙げられる。また、あらかじめ蓄積された顧客データベースの活用によって、聞き忘れや聞き間違いなどのミスを防ぐことができるほか、「いついつはご利用ありがとうございました」といったパーソナルな会話を採り入れることができるようになった。コミュニケーションが親密になり、お客様とのより良い関係作りに大いに貢献してしてるという。

[図表1]システム構成図

今後の展開

 携帯電話ではフリーダイヤルを利用することができないため、携帯電話からの配車受付は一般加入回線で受け付けているのが現状。同社では、将来、携帯電話でもフリーダイヤルを利用できるようになれば、お客様の利便性がさらに向上し、顧客満足度アップにもつながるものと見ている。携帯電話からの発信者は必ずしも同じ場所から電話をかけてくるとは限らないとはいうものの、氏名、電話番号、前回の受付内容などが記録できるので、それまで優良顧客と位置付けられていなかった既存顧客の中に、意外な優良顧客を発見できる可能性もある。
 また、同社がモニター期間を含め、約9カ月間ナンバー・ディスプレイを活用した結果、発信番号が表示されたコールは約7割。残りの約3割は、公衆電話から電話をかけてきたお客様、もしくは、ナンバー・ディスプレイサービスの「通話ごと非通知」「回線ごと非通知」を選択し、意図的に番号表示をブロッキングしているお客様であることがわかった。同社にとって、番号を非通知にしているお客様の情報をいかにスピーディに画面表示するかが、今後の新たな課題となっている。  もうひとつの課題として、ナンバー・ディスプレイサービス利用の告知がある。今後、同社では、NTTが発行するナンバー・ディスプレイのサービス利用マークを活用した告知によって、サービスを利用していることの認知度を高めていきたい考え。具体的には、社員の名刺やタクシーに貼るステッカーにサービス利用マークを印刷したり、近隣のお客様にダイレクトメールでPRを図っていく。
 まだ、一部地域で本格的実施がスタートしたばかりのナンバー・ディスプレイサービスだが、全国展開は目前。今後どのような業種でどのように活用されていくのか、大いに注目し ていきたいところである。

[図表2]「ナンバー・ディスプレイJを活用したCTIのアプリケーション例


月刊『アイ・エム・プレス』1997年12月号の記事