「無印良品」を展開する(株)良品計画では、2010年10月に公式ファンページを立ち上げ、Facebookを活用したマーケティング展開を開始。無印良品ファンとのコミュニケーションの深化を図るともに、プロモーションにつなげる試みも開始している。
よりオープンなコミュニケーションを目指して
1980年、西友のプライベートブランドとして40品目でスタートし、今や衣料品から家庭用品、食品など日常生活全般で7,000品目超を展開するブランドへと成長した「無印良品」。その製造・販売を手掛けるのが(株)良品計画だ。同社では2010年11月に公式ファンページを立ち上げ、Facebookを活用したマーケティング展開に取り組んでいる。
同社におけるFacebookのマーケティング活用の取り組みは、2009年11月に生活者とのコミュニケーションを目的とするWebサイト「くらしの良品研究所」を立ち上げたことに端を発している。
このサイトは、無印良品が考えていきたいテーマを抽出して生活者に投げ掛けるほか、生活や社会を観察する中で気付いたさまざまな視点をコラムとして発表。それらに対して生活者から感想や意見を求め、同社と生活者がコミュニケーションを深めながら、無印良品の商品づくりを行っていくことを目指すものだ。
スタートから1年余りを経て、その存在は広く浸透しており、例えば、特定テーマに関するアンケートへの協力を依頼すると、特にインセンティブなどを設定しなくとも、1週間程度で1,000件以上の真剣な回答が寄せられるなど、商品づくりのために無印良品ファンの意見を収集する場としては十分な機能を果たしている。
しかし、これまでは「無印良品」ファンから寄せられた数多くの意見については、代表的なものを抜粋・編集したものを数週間後に公開する以外は、同社内でのみ活用されてきたことから、同社と生活者とのコミュニケーションという観点から考えると、ある意味で双方向性が低く、また閉鎖的なものになっていたという側面もある。
そこで同社では、「くらしの良品研究所」を舞台に行われている同社と生活者とのコミュニケーションを、Facebookという装置を借りて公開することで、よりオープンなコミュニケーションを実現することを目指したのである。
Facebook利用の是非にかかわる検討過程においては、当然のことながら、商品づくりにつながる貴重な意見やアイデアが、広く競合企業などの目にもさらされるというデメリットも考慮されたが、オープンで自由なコミュニケーションの場を確立するというメリットの方が大きいと判断。具体的な商品開発プロジェクトの段階まで進んだ案件については、基本的に「くらしの良品研究所」内でのコミュニケーションを中心とし、Facebookについてはより広いテーマ、例えば「暮らしのあり方」や「環境への取り組み」などに関するコミュニケーションの場とするという使い分けを行うことにした。
また、生活者からのコメントもリアルタイムで掲載されるFacebookでは、間違った情報や同社にとってネガティブな情報も公開されてしまうことから、いわゆる“炎上”といった事態が起きる可能性も危惧されたが、同社ではFacebookに先行して、2009年10月にTwitterの公式アカウントを取得。12万人以上のフォロワーを集め、円滑に運用していたことから、適切なコミュニケーションを維持していれば大きな問題が発生することはないと判断し、運用開始に踏み切ることとした。
生活者とのコミュニケーションを目的とするWebサイト 「くらしの良品研究所」(左)とFacebookのファンページ(右)
FacebookとTwitterの特性に応じた使い分けで有効活用を図る
同社におけるFacebookのマーケティング活用は、公式ファンページ内でコラムを発表してファンからコメントや「いいね!」ボタンのクリックを得るなどのコミュニケーションを行うほか、「くらしの良品研究所」にも「いいね!」ボタンを設定。また、FacebookユーザーがFacebookにログインした状態で「くらしの良品研究所」にコメントを書き込むと、Facebookの公式ファンページにも反映されるというもの。
ファン数については、とりあえず2011年2月末時点で2万人を目標としているが、2011年1月末時点で約1万5,000人超を達成していることから、ぎりぎり達成できるかどうかといった状況になっている。
ちなみに、同社グループでは、日本に先行して米国、アイルランド、スペイン、ポーランド、台湾の現地法人がFacebookの公式ファンページを立ち上げている。例えば日本と比べてFacebook自体の普及が進んでいる台湾では10万人以上のファンを集めていることから、今後、日本でもFacebookの普及が進めば、相当規模のファンを集められるのではないかと考えているとのことだ。
なお、同社は前述の通り、Facebookに先駆けてTwitterの運用を行っている。両者の違いについては、Facebookでは実名制が原則となっていることなどから、比較的慎重でゆっくりとしたコミュニケーションがベースになっているのに対して、Twitter ではレスポンスが速く、スピーディーなコミュニケーションが展開されていると感じている。
このような特性から、Facebookでは同社の姿勢や考え方に関連する情報など、“しっかり伝えたいこと”を発信する一方、Twitterでは「担当者からの耳より情報」や「イベント情報」などタイムリーで話題性がある情報を発信することで、双方の有効活用を図っていきたい考えである。
ネットストアやリアル店舗への送客にも活用
同社ではFacebookやTwitterを、基本的には無印良品ファンとのコミュニケーションの場と位置付けているが、過剰になり過ぎない範囲でのプロモーションはファンにも歓迎されるという認識から、これらを販売促進につなげる試みも行っている。
例えば、2011年1月6日には、Facebookのファン限定で4時間限定のタイムセールを実施。ファンページ上に限定タブを設定し、ネットストアへの誘導を行った。この試みでは購入件数、売り上げはわずかだったものの、新規のファンが事前告知から当日までの3日間で1,500人以上も増えた。
また、1月7日~23日にかけてはリアル店舗である無印良品有楽町店の10周年記念として、Facebook・Twitterからの投稿キャンペーンを実施。「無印良品といえば、○○○」というテーマで、よく行く店舗でのエピソードや思い出、好きな商品に関するメッセージなどを募集。集まったメッセージはFacebookとTwitter上で公開するとともに、特にTwitterからの投稿については有楽町店のデシタルサイネージにも表示した。
その結果、Facebookからは557件、Twitterからは1,593件のメッセージが寄せられ、また、投稿者のインセンティブとして提供された「有楽町店限定10%OFFクーポン」を884人が使用するなど、インターネット上でのキャンペーンをリアル店舗への送客につなげるという効果も確認された。
なお、同社では今後もソーシャルメディアの活用について、さまざまな取り組みを行っていく意向である。