動物と触れ合える非日常性の演出と顧客目線を意識した改善がリピートを促進

(株)マザー牧場

1962年に創設した(株)マザー牧場は、近年レジャー施設がますます多様化していく中、ファーム系テーマパークとして、首都圏のレジャー施設の中でも高い人気を維持している。定期的な牧場施設の設備投資、2イヤーズ・パス、近隣施設との連携など、リピート促進に向けての同社の施策を紹介する。

顧客の思い出づくりに寄与する体験型レジャー施設

 (株)マザー牧場は千葉県富津市にあり、牧場をテーマとするファーム系テーマパークとして、首都圏では名の知られたレジャー施設だ。同牧場は東京タワーを経営する日本電波塔グループの観光牧場であり、産経新聞や東京タワーを創業した実業家・政治家であった前田久吉氏が、千葉県鹿野山一帯の地域開発と社会還元の一環として1962年に開設した。マザー牧場という名称は、牛が飼えず貧しかった幼少時の母の苦労に感謝し、亡き母に捧げる牧場という気持ちを込めて名付けられたという。
 同牧場のキャッチフレーズは「花と動物たちのエンターテインメントファーム」。鹿野山に広がる東京ドーム約60個分の広大な敷地に、ウシをはじめヒツジ、ウマ、ブタなどさまざまな動物が飼育されている。また、関東最大規模の菜の花畑に加え、サクラ、サルビア、コスモス、アジサイなど四季を通じてさまざまな花が観賞できるほか、花摘みや味覚狩り、体験工房など各種体験もできるレジャー施設牧場となっている。
 同牧場の入場者数は天候に大きく左右されるが、土日祝日では1日当たり4,000~5,000人。花の開花する初春や夏のイベント時期は1日平均1万人前後、5月の大型連休期間は1日平均3万人と年間を通じてのピークを迎える。年間入場者数は約90万人で、そのうちの約20万人が団体客とのこと。
 入場者属性は、ファミリー層を中心に若年層や中高年層など幅広い世代をカバーしており、近年は体験型レジャー施設としての特徴から、首都圏の学校関係の遠足先として常に人気を博している。同牧場では、場内におけるさまざまな体験が、口コミを促進すると同時に、リピーターづくりにつながっていると認識している。

動物本来の姿を見せる実力を主軸に設備投資

 同牧場には、リピーター施策を意識しているというよりも、基本ともいうべき顧客目線を大切にした取り組みに徹してきた歴史がある。
 そのひとつに子どもだけではなく大人も十分楽しめることを意識し、5年、10年の期間をおいて行われる施設のリニューアルがある。約12年前のリニューアルでは、アグロドームと呼ばれるドーム型の劇場と屋外の牧場が一体化した施設を開設。ヒツジ、ヤギ、ブタ、ダチョウなどの動物たちが出演するコミカルなショー「牧羊犬と牧場の仲間たち」を開催している。これはニュージーランドの観光アトラクションで知られるアグロドーム社との提携による、ニュージーランドのスタイルを取り入れた本格的なアトラクションとして好評を得ている。
 また、2007年からはマザーファームエリアを新たに開設し、日本初の牧場アトラクションとして「マザーファームツアー」をスタートした。これは東京湾を見下ろす15ヘクタールの広大な牧場をトラクタートレインに乗って周る約35分の体験ツアーで、日本では同牧場にしかいない種類のウシや、牧羊犬によるヒツジの誘導実演など、同牧場ならではの魅力が盛り込まれている。また最近、テレビCMでも話題になったアルパカやヒツジに直接、餌をやって動物と触れ合える体験もアピールしている。加えて軽妙なキャラクターを生かしたツアーガイドもツアー参加者の思い出づくりに一役買っている。
 同ツアーは開設3年目に入り、個人客の15~20%が体験する人気アトラクションになっており、入場者が多い日は午前中の予約でその日の興行が満杯になるという。
 実際に同ツアーを体験すると、人懐っこい動物に触れ合う体験は大人も童心に帰らせ、動物本来の愛らしさを感じることができる。これは多忙な現代人にとって非日常的ないやしにつながるのはもちろん、子どもだけでなく大人のリピート意欲をかき立てるきっかけにもなっているようだ。
 このほかにも同牧場では、ウシ、ヒツジ、ウマの牧場、フルーツ農園、花の広場、観覧車などの遊園地施設、体験工房、キャンプ場など、節目ごとに新たな施設を開設し、充実したレジャー施設へと進化してきている。
 同牧場は観光牧場であるため、動物をいかに見せ、楽しませるかという演出は施しているものの、基本的なスタンスとしては牧場で飼われている動物たちの“ありのまま”の姿を見せる実力を主軸に置いている。このスタンスが結果的にリピーターを生み、創設から40年が経過した今もなお、大人も子どもも満足できるレジャー施設として支持されているといえよう。
 一方2000年には、同牧場の魅力を体感した顧客に、別の季節にも来場してもらうための仕掛けとして、2年間入場フリーのパス券「マザー・2イヤーズ・パス」の販売を開始した。これは通常入場料が大人1,500円、子ども800円のところ、大人4,200円、子ども2,200円で2年間に何度でも入場できるというもので、購入者には売店商品5%割引、宿泊・オートキャンプ場10%割引、有料の施設内移動車両乗り放題などの特典が提供される。
 現在、同パス券の保有者は約6,000名。今年は政府が景気対策の一環として実施している、土日・祝日の地方高速道路1,000円施策の効果もあり、例年に比べて同パス券の保有者数が増加しているという。また現在では、イヌ同伴用の2イヤーズ・パスも発売。ドッグラン施設の充実と相まって、愛犬家から好評を博している。
 このほか昨年には、秋に来場した入場者に、花畑が満開の初春における同牧場の魅力も体験してもらうためのリピート施策として、春季限定の割引券3万枚を来場時に配布する試みを行った。結果として、当初の目標通り約1,000人の再来場があったことから、今年度も同様の割引券の配布を計画している。

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トラクタートレインに乗って、ツアーガイドの説明を聞きながら動物と触れ合える「マザーファームツアー」(上)。牧羊犬によるヒツジの誘導実演(下)

来場者の声を改善課題として重視

 同牧場は基本的な方針として、来場者の声を生かす取り組みを重視し、これを同牧場の改善課題としていく姿勢を明確にしている。そこで年間を通じて継続的な来場者アンケートを実施。特に不満や苦情に近いものは早急に解決するべく、体制を整備している。
 最近では老朽化した牧場内のトイレの改善要望が数多く寄せられたことから、今年は施設内の主要なトイレを建て直し、最新の設備を取り入れた。今後も施設内トイレは最優先の設備投資として順次、改善していく。このほか施設内移動車両の料金が高いという指摘を受けて、バスは通常料金200円のところ子どもは半額にし、夏休みや年末年始、春休みを除く平日は大人200円、子ども半額で乗り放題にするなどの措置を講じた。
 さらに外部調査会社にミステリーショッパーも依頼するなど、今後も来場者の声を上層部が認識して経営に生かしていく意向である。
 また、同牧場は首都圏としては遠距離に位置するため、近隣宿泊施設や東京湾アクアラインの「海ほたる」などのサービスエリアと連携し、来場を促進する前売り券の販売にも注力。さらに(株)ジェイティービーと提携して首都圏のコンビニエンスストアでも前売り券が購入できるように販売チャネルを増やしている。
 今後は2012年の創設50周年に向けて、施設内のゾーニング・コンセプトを見直し、個々の施設のリニューアルや花畑のさらなる魅力の演出などにより、レジャー施設としての実力向上を図っていくとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年8月号の記事