顧客情報の概念を変えるデータマイニング

(株)ソフマップ

顧客情報は日常業務の中にある

 (株)ソフマップは、事業理念に「顧客第一主義」を掲げ、CRMを実践するデジタル商品の流通小売企業。38店舗(2001年2月)を展開し、全売上高の77%を占めるソフマップカード会員(入会金有り)向けの「会員型ビジネス」と、買い替え時の下取りも行う「中古事業」、そして、インターネットを活用した「Eコマース事業」の3本柱で成り立っている。インターネット販売では、売上日本一のEビジネス先端企業でもある。2001年2月21日には東証二部に株式を上場し、過去最高の売上高1,419億2,600万円(2001年2月期)を計上した。
 同社ではIT戦略に力を入れており、1999年に徹底したIT設備投資を行い、インターネット・ビジネスのフル・リニューアルを実施した。ソフマップ会員ビジネスのためのデータマイニングの戦略的活用を開始し、Eコマースサイト「ソフマップドットコム」とOne to Oneマーケティングの中核「マイソフマップ」の設計に着手した。2001年から取り組んでいる本格的なクリック&モルタル戦略による、CRMの中核、レコメンド・システムにおけるデータマイニングの活用を紹介する。
 一般に顧客情報の収集は、特別なキャンペーンや、アンケートといった、日常業務以外の方法・手段に頼りがちだが、日常業務の中にこそ顧客情報が埋もれているというのが同社の考え。継続的な顧客とのコミュニケーションを追求する同社にとっては、日常業務が顧客との接点の基本であり、特別な方法を講じてコストをかけた顧客情報の入手は、本来の顧客情報ではないというわけだ。
 CRMのためのデータは、「メーカーからの商品情報」「マイソフマップからの情報」「ウェブでのアンケートや注文」「店舗でのアンケートや購買」「ウェブ・アクセスログ」「顧客からの問い合わせ」「修理履歴」などである。これらは、「顧客情報DB」「商品情報DB」「購買実績」「ログデータ」「アンケートデータ」として蓄積される。一見地味だが、日々の顧客の購買行動を継続的にデータベース化し、同社独自の分析を加えることで、顧客ひとりひとりの姿が鮮明に見えてくる。こういった顧客にフィットする次の商品をタイミング良くレコメンドするシステムの中核として、同社では、エス・ピー・エス・エス社の「Clementine」を導入している。「Clementine」は、同社が1994年に発表した世界初のデータマイニング・ソフト。「分析プロセスの視覚化」「対話型GUIによるソリューション」「豊富な分析手法」「新モデルへの展開」などが特長として挙げられる(システム概要は図表3)。

07-2 図表3 レコメンドシステム

レコメンドシステムの鍵はデジタルライフスタイルの定義

 同社が展開するレコメンドシステムは以下の通り。レコメンドシステムの運用に当たり、まず「デジタルライフスタイル(以下DLS)」という顧客モデルを描く。ライフステージ情報やアンケート情報、店頭での購買データ、ウェブでの購買行動データなどから、優良顧客のDLSを定義し、顧客属性と購買因子ジャンルを予測変数としたDLS判別モデルを91パターンに分類し、優良顧客以外の217万人(2001年6月現在)のソフマップ会員を91分類にしている。そのきめ細かさは、91に分類されたパターンが、日々の顧客の購買行動によって変化し、自動的に増幅していくことにある。たとえば、A商品を購入した顧客は、数日後にB商品を購入する。その際には、C商品も同時に購入していた。この購買パターンを第1分類とすると、同様な購買パターンをもつ顧客が約1万人、同様に第1パターンに分類されるが、それ以降の購買行動は、その1万人がまったく同じというわけではない。aさんは、その後D商品を購入し、G商品を購入する。bさんは、E・F商品を購入した。すると、aさんと、bさんは自動的に別なDLSに分類されると同時に、該当する分類パターンがない場合は、自動的に新たなパターンが生成される仕組みだ。ここまでの一連の顧客情報は、自動的に更新される。人間の作業は、2、3カ月に一度、分析に使用している評価指標が現実に即しているかを判断するだけである。そして「コレスポンデンス分析 (※)」を用いて、分類されたDLSと関係が深い商品ジャンルの度数を集計し、各DLSごとにお勧め商品ジャンルの順位が特定される。さらに、優先ジャンル内で、顧客が過去特定された期間内に購入した商品を集計し、上位の商品をレコメンドしてマイソフマップ上に表示するというシステムである。
 顧客情報が顧客の「購買行動」を起点にして、顧客のマイソフマップにレコメンド商品が表示されるというシステムにおいて、データマイニングが知識集約型のシステムとして、実践的に機能している。

※製品やブランドをポジショニングする際に使用されるパターン分類の手法。

顧客情報の定義と質が変化

 従来、顧客情報は、顧客の性別、生年月日、家族構成、社会的立場といった顧客の属性を把握することだった。「誕生日、おめでとうございます。」というメッセージと共に送信されてくるメールは、確かに効果的である。しかし、同社ではそういった属性情報は本来の顧客情報にはなり得ないという。初めて顧客にアプローチするには、顧客の属性情報が必要であるが、同社が継続的に追い続ける顧客情報は、「購買行動」である。購買事実のデータベース化が、顧客情報なのだ。1,419億円に相当する購買行動は、膨大な顧客情報になるが、そのデータベースからは、明らかな購買者の意志や嗜好が読み取れるという。
 その背景には、顧客はアクティブな存在であるという認識がある。「時にはほかの店も覗いてみたいというのが顧客本来の姿」という認識だ。したがって、同社では、店舗における顧客の購買行動のテリトリー管理にもデータマイニングを活用している。競合企業が出店すると、業績にも影響は出るが、その原因を逸早く把握することができる。その原因となった商品に絞り込んだ顧客へのプロモーションを強化することで、競合企業に取り込まれた顧客を、再度同社に呼び込んで、顧客のライフタイムバリューを高め続けている。一度同社で購買行動をとった顧客を継続的に観続けていくことがポイントである。同社でのデータマイニングの活用は、顧客情報の定義を変え、質を変えたと言っていい。

「クリック&モルタル」戦略の効果

 同社ではデータマイニングを活用したCRMを展開するに当たり、幹部社員全員がマーケティング、統計解析、およびITに関する講習を受けた。それらの領域を統合して考えることが、今後の同社のビジネスに必要不可欠の要素だという考えからだ。同社が目指すCRMの実現という大きな目標のために、各専門性を統合し、相乗効果を発揮させる必要があるのだ。
 「クリック&モルタル」戦略の効果を示す数字がある。従来の店舗販売では、ひとり当たりの売上高は10万円で、平均6回の来店である。また、インターネット販売は、ひとり当たりの売上高は8万4,000円で、2.4回のアクセスである。しかし、店舗、およびインターネットの両方を活用する顧客は、ひとり当たりの売上高が、23万8,000円で、実に12.4回、同社との接触をもっており、相乗効果が現れている。また、1999年に数億円を投資したEC事業は、今年の4月には投資額を回収し、単月黒字となった。売上高経常利益率も上昇させ、収益性も大きく改善させている。
 同社の課題は、さらに強化した「クリック&モルタル」戦略の実践であり、アクティブな顧客ニーズに応えるために、何を、どういったタイミングでレコメンドするかという顧客第一主義の徹底である。その結果、同社はまったく新しいビジネスモデルを確立しそうな勢いである。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年7月号の記事