誠実な対応で信頼されるブランドを確立

(株)紀伊國屋書店

既存の資産を最大限に利用

 1927年の創業。クリック&モルタル(仮想店舗と実店舗)で成功を収めている(株)紀伊國屋書店。
 既存の店舗の売り場の棚を「在庫」と呼び、注文の75%をそこから出庫する。実店舗に置いてある商品をそのまま仮想店舗に回せるのは大きな強みだ。Eコマース専業企業では多くの場合、在庫・物流システムを1から構築する必要があるのに対して、同社ではこうした既存の資産を最大限に活用することで、業務をスムーズに進めることができる。
 同社が本格的にインターネット書店ビジネスに参入したのは、1996年の“紀伊國屋BookWeb”の立ち上げから。その後、1999年には大学や研究機関向けの“BookWeb Pro”と大型店舗ごとのネット在庫検索と通販を組み合わせた“Hybrid Web”をスタートさせた。“紀伊國屋BookWeb”のトップページ・ビューは1日当たり約40万。取り扱っている商品は、和書・洋書・DVD・ビデオ。会員数は2001年3月末現在で約19万人。新規会員も毎月4,000〜4,500名前後のペースで増え続けており、地方・海外の会員も多い。
 会員になると、仮想書棚での書店の仮想体験や、データベース検索を使っての350万件を上回る国内外の書籍出版情報、同社の QRS(Quick Response System)を通じた世界中の取り次ぎ、出版社からの取り寄せが可能になる。和書は最短4日間、洋書も最短1週間で取り寄せが可能だ。 洋書についてはインターネット、海外直輸入のメリットを最大限に引き出した、実勢レートに基づく画期的に安い価格体系を採用している。送料は全国一律1回380円。何冊購入してもこの金額は変わらない。決済は現状クレジットカードのみである。客単価は4,000〜5,000円。都市在住者に比べ、地方在住者の方が1回当たりの単価は多少高い傾向にある。地方のリアルな店舗ではなかなか手に入れることのできないものをまとめ買いすることが多いからであろう。
 年商は約40億円と、同社の総売上高1,150億円の3.5%に当たる。これは1,000坪クラスの実店舗1店舗分の売り上げに匹敵する。

カタログ通販のノウハウをEコマースに活かす

 同社では10年ほど前にパーソナルセール部を創設、カタログ通販を開始した。これは、従来の店舗販売やルートセールスではカバーしきれない顧客を対象としたもの。カタログでは書籍だけではなく、ステーショナリーなども扱っていた。
 こういった通販システムのノウハウがあったため、ネット通販への参入もスムーズだったという。今までカタログ通販が担っていた役割をインターネットに置き換えるだけ、という気負いのない速やかな移行であった。ちなみにカタログ通販もしばらくはインターネット通販と並行して続けていたが、現在ではインターネット通販のみに絞られている。
 “紀伊國屋BookWeb”の利用者は男性が全体の約7割。年代別に見ると、30代が約4割を占め、20代と40代がほぼ同じ割合で続く。これはインターネットを扱える世代に比例した割合だと思われるが、最近では実店舗と同様に老若男女、また、さまざまな年代に利用されてきているということだ。
 実店舗ではベストセラーの書籍が売れているのに対し、ネット通販ではデータベースによる検索が容易であるがゆえか、実店舗ではあまり売れないようなものが売れるのが特徴となっている。

紀伊國屋

紀伊国屋 Book WebのホームページURL:http://bookweb.kinokuniya.co.jp/

「ヘルプ・デスク」に特化したコールセンター

 同社のこのような事業形態をスムースにしているのが、カスタマ−サポートを担うコールセンタ−である。
 現在は、東京都世田谷区にインハウス・センターを構えており、約20名のコミュニケータで対応している。対応メディアは主にEメールと電話である。
 B to CのEコマースにおいて、カスタマ−サポートは非常に重要であり、かつコストがかかるものである。前述のように、同社は以前から通販業務に携わっていたこともあり、かなりしっかりしたサポート体制を備えている。
 同社では、コールセンターの役割を、「ヘルプ・デスク」、「リファレンス・サービス」、「苦情承り係」、「事故処理係」などを中心に考えている。したがって、コミュニケータの業務はそれらに準じた、インバウンド的なものが主であり、アウトバウンドについては後述する「自動メール」「半自動メール」により行っている。顧客からのアクセスはEメールと電話が多い。Eメールは1日平均200通ほどがコールセンタ−に届く。内容は、納期関係の問い合わせや、「IDを忘れたので教えてほしい」といったことが中心。電話でのアクセスは、苦情やインターネットの操作方法に関する質問が多い。顧客への電話での対応は、Eメールでの対応の補足や、インターネットのオペレーションに慣れていない方へのフォローの意味合いが大きい。こういった顧客とのコミュニケーションの際にもっとも大切なのは、「誠実に対応すること」。これは信頼されるブランドを確立する上で非常に重要な意味をもつと同社では考えている。インターネットを通じての苦情なども、こうした誠実な対応をすることで、大半は円満解決に至り、時には「言い過ぎた」と謝ってくる顧客もいるという。
 また、コールセンターを通じて、顧客の反応は非常にダイレクトに伝わってくるので、どこに問題があり、何を改善すべきなのかを考える上で、とても参考になるのだという。この部分は、意外と実店舗ではわかりにくいので、Eメールや電話を媒体としたコールセンターならではの利点と言えるだろう。

自動メール・半自動メールで効率的に会員に情報を提供

 同社では、顧客への連絡の、またプロモーション等のアウトバウンドのツールとして「自動メール」システムを主に使用しているが、その内容は以下の4つである。
(1)注文受付
(2)在庫切れにともなう取り寄せ
(3)品切れ・絶版・キャンセル
(4)発送案内
 顧客が商品を注文すると、商品発送のお知らせ、入手が可能か不可能か、商品到着の遅延といった連絡が随時Eメールで通知される。また会員であれば、ウェブの画面に自分のIDを入力することで、フルフィルメントの途中経過を確認することができる。さらに、このIDを入力することで見られる会員専用のカスタマイズド・ページでは、その会員の趣味趣向(事前に登録が必要)にあったリコメンド・サービスを受けることも可能だ。
 また同社では、前記の(1)〜(4)に当てはまらない、イレギュラーな事態をスピーディーにフォローする目的で、「半自動メール」システムを導入している。
 これはあらかじめ30ほど用意された定型文を選択した上で、可変項目のみを入力すると、自動的にEメールが発信されるものである(たとえば、版元からきた「予定搬入日」をもとに、コミュニケータが、「注文No」や「予定納期」を入力すると、自動的にEメールが顧客に向けて発信される。また、状態の悪い本が入荷した場合、納品の可否を顧客に尋ねるわけだが、この際も「注文No」と「状態」を入力すれば、定型照会メールが発信される)。
 顧客がインターネットを利用する際のフォロー、また、時代・メディアに関係なく重要な、「誠実さをもって消費者と接する」という意味において、同社のコールセンターの役割は大きい。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年5月号の記事