リテンション強化に向けて営業戦略を拡大 「おまかせサポート」をスタート

(株)ジュピターテレコム

ケーブルテレビ局統括運営会社の(株)ジュピターテレコムは、アクイジションに加えてリテンションを重視する「守りの営業」の強化へと、営業戦略を拡大。解約の遠因となる、ネガティブな評価を得がちなコールセンターの電話対応などを洗い出し、電話と訪問でPCトラブルなどを解決する「J:COMおまかせサポート」の展開を開始するなど抜本改革を推し進めている。

多チャンネル放送の国内市場はすでに飽和状態に

 ケーブルテレビ局統括運営会社の国内最大手である(株)ジュピターテレコムは、1995年の設立。全国のケーブルテレビ会社と経営指導サービス(MSO)契約を結び、ケーブルテレビ各社が「J: COM」ブランドで多チャンネル放送サービスを提供する一方、同社では番組や設備機器の一括購入を行うかたちでビジネスを展開。1997年から固定電話サービスを、1999年からは高速インターネット接続サービスを提供している。
 既存契約者や加入を検討中の見込客に対応するコールセンターは、全国7カ所(札幌市、東京都豊島区、さいたま市、神奈川県藤沢市、大阪市、神戸市、福岡市)にあり、総スタッフ数は約2,700人。このうちインバウンドを担う「カスタマーセンター」業務としては、電話、Webサイトの問い合わせフォーム経由のeメールなどに全国7拠点で対応しており、月間の受付総件数は約50万件。一方でアウトバウンドの「コンタクトセンター」業務には、札幌市と福岡市の2拠点で対応しており、月間の総発信対象件数は約10万件となっている。
 同社が提供するケーブルテレビ、固定電話、インターネット接続の3サービスのいずれか、もしくは複数サービスの既契約世帯は、2013年12月現在、全国約382万世帯となっており、漸増傾向にある。しかし、国内人口が減少傾向にある近年は、契約世帯の伸び率が鈍化。特に多チャンネル放送の国内市場は、すでに飽和状態にあるとの見方も出ている。また、競合サービスを提供する電気通信系や電力系の大手との間でも、激しいシェア争いが繰り広げられているのが現状だ。

PCの各種設定やソフトの使い方など家庭におけるITの困りごとを一手に解決

 多チャンネル放送をめぐる厳しい事業環境などを背景に、これまで営業やプロモーション活動の中心だったケーブルテレビの新規契約獲得が難しくなってきているとの現状認識から、同社では2012年以降、既契約世帯の解約防止といったリテンション施策を強化。これに当たり、同社が注目したのが、カスタマー・エクスペリエンスである。
 既契約者の解約には、サービスエリア外への転居に伴ってサービスの継続利用が困難になるなど、いわゆる外部要因による不可避的なケースもある一方で、サービスに対する不満や同社側のアフターケアが不十分であったことに起因するケースも少なくない。そこで、お客さまへのアンケート結果などを踏まえて解約理由の分析や業務分析を行い、コールセンター、営業、テクニカルサービスのそれぞれの顧客接点でネガティブな評価を招きがちなシチュエーションを洗い出し、ポジティブな評価が得られるよう、従来のカスタマー・エクスペリエンスの“設計”を見直したのだ。
 従来、「カスタマーセンター」において、顧客の不評を買っていた典型的なシチュエーションは、インターネット接続などPC端末の各種設定や使い方に関する問い合わせに対応するテクニカルサポートにおいて、例えば、「eメールアドレスのアカウント設定方法を教えてほしい」というように、内容が同社の提供サービスの範囲外に及ぶケース。お客さまの立場からすると、同社のインターネット接続サービスを通じて、自分のPCでインターネットに接続でき、eメールが使える状態がゴールとなるが、コミュニケータは規定上、同社サービスの範囲外のサポートは行えなかった。お客さまが、第三者からeメール設定についてサポートを受けられる環境にあればよいが、そうした環境になければ、結果的にお客さまはゴールに到達できない。
 そこで同社では、こうした自社サービスの範囲外である、PCの各種設定や市販ソフトの使い方、PC操作など一般家庭におけるIT関連の困りごと全般を解決する、契約世帯対象のサービス「J: COMおまかせサポート」をスタート。2012年10月からの試験提供を経て、サービス内容を順次拡充させてきた。現在のサービスは、専用電話番号で利用者の相談を受け付け、コールセンター側のリードで、利用者のPC端末に遠隔サポートの専用ソフトをインストールし、コミュニケータが利用者と同じ画面を見ながらの遠隔操作でトラブルを解決。さらに、電話や遠隔操作では完結できない機器設置や配線接続などは、各地のテクニカルサービス担当者がお客さま宅を訪問し、対応する。
 サービス利用料金は月額525円で、マイクロソフト社のoffice製品の使い方の説明などの「プレミアムサポート」は別途2,100円/回。訪問サービスは月3回が上限で、内容によって一部は別途料金がかかり、2,100~ 1万5,750円/回。「J: COMおまかせサポート」は2013年12月現在、中高年層の世帯を中心に15万世帯に利用されており、「プレミアムサポート」は提供開始直後の2013年11月の月間利用が約1,100件に上った。

営業やアフターサービスの担当者も情報を共有できるCRMシステム

 また従来、「カスタマーセンター」の対応で、お客さまにネガティブな評価を受けがちがったのが、いわゆるエスカレーション。ケーブルテレビ、インターネット接続といった複数サービスがあり、電話対応に必要なスキルが広範に及ぶため、コールの途中で当該サービス担当のコミュニケータに交代するケースなどだが、そうすることによって対応時間は長くなり、ともすればお客さまに、たらい回しにされているという印象を与えかねない。そこで同社では、エスカレーションを避けるため、複数サービスに対応できる“マルチスキル”化に向けたコミュニケータ教育を推進。併せて2012年1月からセンター運営のKPIに一次解決率を加えたところ、この数値が当初の40%程度から、2013年12月現在では90%に迫る状況となっている。
 カスタマー・エクスペリエンスに着目したこうしたサービスの見直しは営業部門にも及んでおり、従来、新規獲得を担当していた営業スタッフの一部をアフターケアの担当に配置転換。既契約世帯を訪問し、トラブル発生に先がけて、同社サービスに対する困りごとや不満がないか、問題を発見して対処する“御用聞き”のサービスの提供を始めた。これと並行して、「コンタクトセンター」でも同様に、既契約世帯に対し、困りごとなどを積極的に聞き取るアウトバウンド・コールの取り組みを活発化させている。
 なお、コールセンター、営業、アフターサービスの3部門の担当者が連携し、従来以上に既契約世帯との接点を増やし、顧客満足の向上につながる一貫したカスタマー・エクスペリエンスを提供できるよう、CRMシステムの大規模改修も進めている。2014年には、営業とアフターサービスの担当者全員にタブレット端末の配布を完了し、個別の既契約世帯の情報をコールセンターも含めた各部門の担当者間で、リアルタイムで共有できるようにする計画だ。
 同社では以前から、コミュニケータが解約手続きのコールを受けた際に、お客さまに適したサービスを案内するなどにより、解約防止に一定の効果を上げてきた。2012年以降の一連の改革は、こうした対策を“水際”に限定せず、解約の検討段階に至っていない既契約世帯をも対象に、カスタマー・エクスペリエンスを向上させる試み。今後どのような効果が得られるか、注目される。

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既存契約者のカスタマー・エクスペリエンスを高めることによってリテンションを強化する、ジュピターテレコムの「カスタマーセンター」


月刊『アイ・エム・プレス』2014年2月号の記事