米国本社においてグローバルなソーシャルリスニングを展開

デル(株)

デル(株)では、米国Dell Inc.が2010年10月に設置した「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター」を中心に広範囲なソーシャルリスニングを展開。グローバルで約2万5,000件/日に及ぶ同社関連の投稿をトラッキングし、ビジネスの質の向上に役立てている。

リスニング専門組織を米国本社内に設置

 1984年、当時19歳だったマイケル・デル氏が1,000ドルの資金と、テクノロジーはどのように設計、製造、および販売されるべきかについての革新的なビジョンに基づき創設したPC’s Limitedを礎として、今や世界でも有数のグローバルIT企業としての地位を確立しているDell Inc.。その日本法人であるデル(株)は、1993年1月に営業を開始、今年で20周年を迎えた。同社では、Dell Inc.が、2010年10月に米国テキサス州の本社内に設置した「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター(Social Media Listening Command Center)」で実施しているソーシャルリスニングの結果を、ビジネスのさまざまな場面で活用している。
 デルはもともと、ソーシャルメディアのマーケティング活用に熱心な企業である。
 創業者のマイケル・デル氏がその草創期からソーシャルメディアを通じた情報発信に積極的であったことなどから、日本法人でも2009年4月にはTwitterの公式アカウントを取得し、このアカウントによるユーザーとのコミュニケーションを開始。翌2010年9月にはFacebookページの運用もスタートした。さらに2011年11月には社内向けのソーシャルメディア運用資格講習「Social Media & Community University(SMaC U)」をスタート。2時間×4コマに及ぶこの講習を受講し、資格を取得した社員は、誰でもデルの代表としてソーシャルメディアでの情報発信や顧客との対話を行えるようにするなど、全社的にソーシャルメディアを積極的に活用する体制を整えている。
 一方で、デルは、顧客の声の活用に積極的な企業でもある。
 そもそも、同社独自のビジネスモデルである「デル・ダイレクト・モデル」は、メーカーであるデルが顧客とダイレクトな関係を築くことにより、製品の品質・性能・価格・納期・サービスなどあらゆる面において常に最高の「バリュー(価値)」を提供することを基本思想としており、いわば顧客志向を体現するものである。その中でさまざまなチャネルを経由して集まる顧客の声は、同社のビジネスの方向性を示す羅針盤的な役割を担っており、同社の成長の礎となっている。
 このような背景を持つ同社がソーシャルリスニングに積極的に取り組むのはいわば当然のことであり、ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンターの設立・運用はその象徴であると言えるだろう。

グローバルで約2万5,000件/日に及ぶ 同社関連の投稿をトラッキング

 ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター設立の目的は、ソーシャルメディアを活用して顧客とのつながりを深め、ビジネスの品質を向上させること。具体的には、TwitterやFacebook 、ブログ、ビデオ共有サイトなどに寄せられる同社に関連する投稿を日々トラッキング。投稿数や投稿者数、投稿者のフォロワー数などを分析するとともに、その内容を会話のトピックやポジティブ/ネガティブなどの傾向、地域や言語などをベースにセグメントし、その結果をグローバルで、製品づくりや広告効果検証など、ビジネスのあらゆる場面で活用していこうというものである。
 ソーシャルリスニング実践のためのツールとしては、ソーシャルリスニング/分析プラットフォームとして定評があるSalesforce社の「Radian6」を活用。検索キーワードは自社、競合企業、関連企業の「企業名」「製品・サービス名」などで、対象となるソーシャルメディア上の投稿数は、センター設立当初は約2万2,000件/日であったが、その後徐々に増加し、最近では約2万5,000件/日に及んでいるとのことである。
 ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンターで収集した投稿の内容は、特に日本語での投稿を中心に日本法人のマーケティング部門、広報部門などに伝達される体制が構築されており、マーケティングや広報宣伝の施策を策定する際の参考とするほか、ソーシャルメディア運用担当者にもフィードバックされ、必要に応じてアクティブサポートの対象としている。
 ただし同社におけるソーシャルリスニングは、ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンターのみで実施されているわけではない。さまざまな部署のソーシャルメディア運用担当者が、必要に応じてトラッキングを行い、日本語のネイティブ・スピーカーでなければなかなか理解しにくいニュアンスなどを含め、投稿内容を精査している。特に製品やサービスに関するネガティブ情報の把握に努め、製品やサービスの改善などに役立てているという。
 なお、ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンターはあくまでも同社のビジネスの質の向上を目的に運用されているものだが、その運用効果が高かったことから、現在ではリスニング・サービスとして、外部企業への提供も行っている。

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米国テキサス州の本社内に設置された「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター」

ソーシャルリスニングを通じてより広範囲なユーザーの意識を確認

 同社ではソーシャルリスニングの成果について、マーケティングの展開方法や広告における訴求内容などに関するユーザーの反響に、直接触れることができる点が大きいと認識している。同社では以前からカスタマー・ケア、テクニカルサポート部門などがいわゆるVOCを収集し、商品開発につなげるなど、ビジネスへの活用を行ってきたが、これらのVOCは顕在化した苦情や要望であり、感想レベルのユーザー意識を把握することは難しかった。こうした中、気軽に投稿できるソーシャルメディア上で発信内容を把握することで、より広範囲なユーザー意識の確認ができるようになったのだ。その結果、例えば同一ジャンルの自社製品と他社製品が、それぞれどのような位置付けで語られているかなど、これまでは得られなかった新たな視点が獲得できるようになっている。また、情報の質という点からは、VOCが全体として論理的・具体的であるのに対し、ソーシャルリスニングで得られる情報は感情的・断片的という傾向が強く、後者は前者の補完的な情報と位置付けられているようだ。
 なお、ソーシャルリスニングの実施には一定のリソースやコストを要するものの、その効果を明確化するのは困難であることから、ソーシャルリスニング自体の具体的なKPIは設定していない。むしろ、同社が実施しているさまざまなマーケティング施策が、インターネット上でどのような波及効果を発揮しているかを検証するためのKPI指標として活用しており、今後も同様の運用を継続していく方針である。
 また、ソーシャルリスニングでもたらされる情報は膨大な量になることもあり、現状では時系列的にデータベース化することは行っていない。また、現時点においては、同社が持つ顧客データベースなどとひも付けた分析を行うことなどは考えていない。ただし、ネガティブな情報については、データとして蓄積し、社内共有することで、顧客満足度向上のための参考資料として活用していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年7月号の記事