顧客や販売のデータ分析から取り組むべき課題を“発見” DMを全面的に改善

(株)長坂養蜂場

養蜂業を営む静岡県浜松市の(株)長坂養蜂場は、顧客や販売のデータを分析することで課題を“発見”し、従来のDMの全面的な見直しに踏み切った。リピート対策や離反防止という課題に対し、DMをクリエイティブ面から抜本的に改善することで、大きな効果を上げつつある。

データ分析から現状を把握 課題やタスクを洗い出す

 静岡県浜松市で養蜂業を営む(株)長坂養蜂場は、1935年に創業者の長坂喜平氏が、栄養価が高く滋養強壮にも効果のあるハチミツに注目し、養蜂場を開設したのが始まりで、その後、ミツバチの巣箱を全国各地に運んでハチミツを生産する転地式養蜂にも着手。1985年には、二代目で現社長の長坂光男氏が法人化を果たし、ハチミツ製品を販売する直営店舗を浜名湖畔に開設するなど事業を拡大。生産したハチミツを原料に、「はちみつ&マーガリン」「レモンはちみつ漬」といった加工食品のほか、ローヤルゼリーやプロポリスなどの健康食品を製造し、現在は、直営店舗のほかに電話やネットによる通信販売も手掛けている。
 同社は以前から顧客管理やDMによる販促にも取り組んできた。直営店舗と通信販売でそれぞれ会員制のポイントプログラムを運営しており、総会員数は約3万人。販売データは、会員データにひも付くかたちでデータベース化しており、販促のDMは、主に直近1年間に購買のあった会員を対象に送付している。年間を通じて5回にわたるDMを実施。3月の「ミツバチ感謝祭」をはじめ、6月から7月にかけての「夏ギフト」、8月は「はちみつ感謝祭」、10月は「創業感謝祭」、年末は「冬ギフト」と、それぞれ季節性のある製品訴求で一定の効果を上げてきた。
 しかし、さらなる事業の拡大には、より高度なデータ活用やDMのクリエイティブ面での改善が不可欠と考え、2011年からデータ分析やDM企画制作を手掛けるマーケティング会社のフュージョン(株)に委託して、DM展開の本格的な見直しに着手。従来の施策や会員動向について、現状把握のデータ分析を行った上で、取り組むべき課題やタスクを洗い出し、プライオリティを設けて改善に取り組むことを決めた。

将来の業績を左右しかねない問題の構図が明らかに

 現状把握のためのデータ分析は、直営店舗と通信販売の顧客と販売のデータすべてを対象に、直近の過去3年間に限って実施した。従来は把握し切れなかった販売状況を数値データによって「見える化」する狙いで、「売上高」を「客数」と「客単価」に分解することを手始めに、前者の「客数」を「純人数」と「来店回数」に、後者の「客単価」を「購入点数」と「点単価」にそれぞれ分解。売り上げの全体像を時系列で俯瞰できるようにした後、販売チャネルや製品といった分析軸をクロスさせ、徐々に詳細な分析へとドリルダウンしていくオーソドックスな手順で分析を進めた。
 販売している製品カテゴリやSKU(Stock Keeping Unit:在庫管理単位)の月別構成比といった集計データは、季節ごとのDMを制作する上での基礎資料となるものだ。こうした分析はこれまで、同社の販売責任者が日ごろの業務や長年の経験を通じて培ってきた認識を数値データで裏打ちするために使われてきたが、今回の現状分析のクライマックスとなったのは、特に顧客の動向に関する分析だったという。業績面では好調の続く同社の将来を左右するであろう、ひとつの課題が浮き彫りとなったのだ。
 顧客の動向を分析する作業では、実際に継続的な購買を行っているアクティブ状態の顧客セグメントと、購買行動が一定期間認められないスリープ状態の顧客セグメントを区分する条件をどう設定するかがひとつのポイントとなる。しかし実際には、業種や業態、製品構成などによって、顧客の購買頻度が異なることから、アクティブやスリープの条件は一律ではない。こうした顧客の動向の把握は、かねてから重要だと考えられてはいたものの、分析作業の技術的な難易度が高く、自力では踏み込めなかった領域だった。
 今回は、同社製品の消費実態や優良顧客の購買パターンを参照して、アクティブやスリープの条件を独自に設定。3年間にわたる顧客の動向を追跡的に解析したところ、次の年も継続的に購買を続け、アクティブとして維持された顧客が過半数を超える水準に達してはいるものの、スリープ化する比率も予想以上に高く、近い将来、新規顧客の流入が大きく減少することにでもなれば、アクティブ顧客が減少に転じる可能性のあることが見て取れた。幸い、同社の評判はクチコミなどを通じて広がっており、店舗での新規獲得は維持できている。そのため、当面は既存顧客の維持率アップのため、初回の購買だけでリピートのない顧客への対策をはじめ、DMのレスポンス率を左右するクリエイティブ面の全般的な改善などに重点的に取り組む方針が確認された。

リピート促進や離反防止へ定期購入コースを開発

 クリエイティブの改善は、2012年春のDMから取り組みを本格化。見直し項目は、DMの形状や封入物の構成から、デザインやコピーワークなどにまで及んだという。
 例えば、中元ギフト用の製品を掲載したカタログ冊子を送付する「夏ギフト」のDMは、形状自体も見直している。以前は封入物が見える透明のプラスチック製の封筒を使用していたが、これをオリジナルのA4判の封筒に切り替えた。封筒の表面には、まず、このDMが何を伝えるものなのかが一目でわかるように、「夏のギフトカタログをお届けしました!」と明記。会員向けに提供する特典内容の紹介や「保存版」といった表示も目に付くようにし、封筒の全面に直営店舗と自然豊かな浜名湖一帯のイラストをあしらい、夏らしい、明るく楽しい雰囲気を演出した。同社のマスコット・キャラクターで、ミツバチを擬人化した「ぶんぶん」のイメージは踏襲し、封筒裏面に開けた透明の窓から、カタログ表紙にあしらった「ぶんぶん」の愛くるしい表情が垣間見えるギミックも施した。
 さらに、内容物の構成も見直し、以前はカタログのコンテンツにすぎなかった情報発信の「ぶんぶん新聞」を別紙化。当時、開発途上にあった「ローズマリー蜂蜜」の調査のため、同社幹部がフランスを訪れた旅の道中を写真入りの記事として掲載することで、新製品に対する会員の関心を高めることを狙っている。
 一方、今回の現状分析で課題とされたリピートや離反防止の対策としては、ローヤルゼリーやコラーゲンを配合した栄養ドリンク「女王のしずく」の定期購入促進を狙ったパンフレットを同梱。同製品を決まった本数、毎月届ける定期購入のコースは、リピート対策として開発したもので、30本、20本、10本の3コースの申し込みを送料無料の特別価格で訴求した。
 こうしたきめ細かな改善を施した結果、DMのレスポンス率は前年よりも平均で2ポイントアップして18.2%となり、レスポンス件数は対前年比112%、DMにレスポンスした会員の客単価は前年比104%、DMによる売上高は対前年比116%を達成している。同社では施策のPDCAサイクルを継続的に回し、さらに改善を重ねていく方針。近く、初回購入者などを対象としたお礼のDMや、会員の誕生日に合わせて特典を提供する新企画のDMをスタートさせる準備も進めており、DMの効果による会員組織の活性化に期待を寄せている。

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クリエイティブの工夫の一例(2012年の夏ギフト)。①②マスコット・キャラクターの「ぶんぶん」が開封を呼び掛け。③独立した申込用紙のほかに、カタログ裏面にも申込欄を設けて、カタログ単体でも申し込めるようにした。④カタログとは別立ての“ぶんぶん新聞”で新商品開発の過程を紹介


月刊『アイ・エム・プレス』2012年12月号の記事