「かざすクーポン」など先進的な取り組みで高い稼働率を実現

日本マクドナルド(株)

日本マクドナルド(株)では、近年、ケータイ/スマートフォンを活用したクーポン戦略に注力してきた。2008年5月から展開を開始した「かざすクーポン」など先進的な取り組みにより、総計約2,600万人近い会員を獲得。属性や購買履歴に見合うクーポンを提供することで、高い稼動率を実現している。

「見せるクーポン」から「かざすクーポン」へ

 1971年7月、東京・銀座にマクドナルド日本第1号店をオープンして以来、日本のファストフード業界をリードしてきた日本マクドナルド(株)。同社ではクーポンを重要な販売促進手段と位置付け、機動的な運用を行うことで、ユーザーの来店促進を図っている。
 外食産業、とりわけファストフード業界では、企業とユーザーの関係性は希薄である。特定のチェーン・店舗にこだわりを持って来店するユーザーは少なく、ケースバイケースで利用するチェーン・店舗を決めているユーザーが多い。同社ではこのような認識から、来店促進のためには恒常的な販促施策が必要だと感じており、特に近年ではケータイ/スマートフォンを活用したクーポンの展開に力を入れている。
 同社がケータイを活用したクーポンの展開に着手したのは2002年ごろのこと。同社ではそれ以前から新聞折り込みチラシや街頭配布などで紙媒体のクーポン付きチラシを活用していたが、それをケータイ向けに置き換えるかたちで、「トクするケータイサイト」登録会員に配信する新商品情報や開店・閉店情報などを伝えるメールマガジンに、商品の割引購入ができるクーポンを付ける施策を開始した。
 当時のクーポンは、ユーザーがマクドナルド店舗での商品購入時にクーポン画面を表示、あるいはクーポン番号を伝えると割引が適用される「見せるクーポン」であった。しかしその後、同社では2004年ごろから経営の刷新に着手。QSC(Quality=品質、Service=サービス、Cleanliness=清潔さ)を基本にさまざまなValue(価値)を提供することを目指し、「100円メニューの提供」「えびフィレオをはじめとする新商品の開発」「24時間営業店舗の拡大」などさまざまな施策を展開する中で、2007年からeマーケティングへの取り組みを強化。2007年7月には(株)NTTドコモと共同出資で会員向けプロモーションの企画運営会社としてThe JV(株)を設立し、翌2008年5月からは「かざすクーポン」の展開を開始した。
 「かざすクーポン」の基本的な仕組みは、マクドナルド店舗に設置されたリーダライタにマクドナルドの「トクするアプリ」をインストールした「おサイフケータイ」(FeliCaチップを内蔵したケータイ端末)をかざすと、アプリを通じて取得したクーポンが利用できるというもの。「トクするアプリ」は同社のケータイサイトから誰でも無料でダウンロードできる。利用可能店舗はスタート当初は首都圏を中心とする175店舗であったが、その後、全店に拡大。現在では全国約3,300店舗での利用が可能となっている。

総計2,600万人近い会員を獲得

 2011年10月末現在、「トクするケータイサイト」会員は約2,140万人。うち半数強の約1,130万人が「トクするアプリ」をダウンロードしている。なお、最近利用者が急増しているスマートフォンについては、FeliCaチップを内蔵していない機種が多いことなどから別運用を行っており、スマートフォン・ユーザーの会員が約410万人であることから、総計では2,600万人近くを会員化していることになる。会員の募集に当たっては大々的なキャンペーンなどは行っておらず、基本的にはクチコミを中心とした展開を進めてきた。2005年末に約20万人だった会員は2006年末には約124万人に増加。結果的にはこの前後がクリティカルマスとなり、その後2007年末には約783万人、2008年末には1,000万人を突破して約1,023万人に達するなど、爆発的な増加を見せた。さらに2008年5月の「かざすクーポン」の展開開始がこれに拍車を掛け、2009年末の約1,617万人、2010年末の約1,976万人を経て、なお順調に増加を続けている。
 なお同社では、比較的短期間で数多くの会員を獲得できた要因について、店舗数の多さが具体的な使用シーンの想起につながったことや、マニュアル不要で利用できるわかりやすさが大きく寄与しているものと分析している。
 会員の属性については、20~30代の若年層が多いという特徴があるが、性別、エリア別についてはほぼ人口分布通りとなっている。
 「トクするケータイサイト」会員には毎週金曜日にメールマガジンを配信。新商品/キャンペーン情報などを伝えるとともに、クーポンを配布するケータイサイトのURLを表示し、アクセスを促している。そのほか、会員登録時に取得する属性情報(居住エリア、性別、生年月日、職業など)や購買履歴により対象商品にヒットすると思われる層をセグメントした“号外”メールも随時、配信することで、迷惑と感じられない範囲でコミュニケーション機会の拡大を図っている。
 また、クーポンの内容についても、一定のロジックに基づき、会員の属性や購買履歴によってアレンジを施し、各会員に見合ったクーポンを提供することで利用促進を図っている。

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「トクするケータイサイト」を紹介する日本マクドナルド(株)のWebサイト。Webサイトからも希望商品のクーポンの発行が可能だ)

試行錯誤を続けながらユーザーにとって“より便利”なクーポンを提供

 クーポン利用時の提供価格(割引率)は戦略的かつ機動的に決定しており、例えば新商品やキャンペーン商品などについては利用促進の効果を上げるために高い割引率を設定するケースもある。なお、このような商品については当然のことながら利用が集中するため、各店舗にはあらかじめクーポン配布に関する情報を伝達。対象商品の仕込み量を増大することで品切れの発生を防止している。
 クーポンの利用状況についてはデータベース化しているが、そのデータの活用方法については、主に、プロモーションを担当する同社マーケティング部門とThe JVのスタッフが企画立案の際に必要な情報をその都度、抽出し、分析するかたちを採っており、その結果を新たなプロモーション企画に反映することで、精度の向上を図っている。
 クーポンの利用状況については公開していないが、期待通りの稼働率を実現していることから、少なくともクーポンの配布による来店促進効果がクーポンによる値引き分を差し引いても収益向上に寄与していると考えており、当面は現在の方向性を継続しつつ、運用面での試行錯誤を継続することで、ユーザーにとって“より便利”なクーポンの提供を実現していく考えである。
 なお、同社のクーポン施策においては、現在、ケータイ/スマートフォンを通じた配布が主流となっているが、一方で従来からの紙媒体でのクーポン配布も継続している。実際に現在でもクーポン利用の約15%が紙媒体によるものであり、高齢者などを中心にケータイ/スマートフォンを通じたクーポン利用になじまない層が存在すると考えられることから、これについても当面は継続していく方針である。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年1月号の記事