「kabu.ask」で口座増=コール増の常識を覆す

カブドットコム証券(株)

カブトッドコム証券(株)の口座数は、4年間で2倍以上に増加した。にもかかわらず、コール数はほぼ横ばいを維持している。その背景には、Q&Aの充実と、必要な回答をスピーディーに検索できるシステム「kabu.ask」の導入があった。

Q&Aでオペレータとお客さまをサポート

 カブドットコム証券(株)は、イー・ウイング証券(株)と日本オンライン証券(株)との合併により1999年11月に設立された、オンライン専業の証券会社である。開業は、設立から1年半後の2001年4月。年に数回から月に数回の取引を行うアクティブ投資家層に照準を合わせて事業を展開している。こうした明確なターゲット設定と好景気の後押しもあって、合併時には6万件ほどだった証券口座数は順調に増加。2009年4月30日現在、66万8,746件を保有している。
 口座を持つお客さまからの問い合わせや取引、まだ口座を開設していない見込客からの問い合わせに、電話とeメールで対応しているのが「お客様サポートセンター」だ。営業本部営業推進室が運営・管理しており、祝日を除く月~金曜日の8~17時まで対応している。営業推進室が運営・管理を担っていることからもわかるように、同センターは同社にとって重要な営業拠点である。また、その業務内容は問い合わせ対応にとどまらず、取引やVOC(Voice of Customer)活動にまで及ぶことから、社内ではプロフィットセンターと位置付けられている。
 スタッフ数は、オペレータ22名、スーパーバイザー(以下、SV)8名、営業推進室室長1名と営業推進室長1名の計32名。1日当たり約1,300件のコールに対応している。
 同センターでは、放棄率10%未満、3秒以内に応答するというセンターとしてのサービスレベルのほかに、オペレータの目標値(管理指標)として通話時間を1コール3~4分、1日当たりの応対件数を60件に設定している。個々のオペレータに与えられた目標値をクリアし、サービスレベルを維持するためには、教育によりオペレータのスキルを高めることに加えて、オペレーションサポートツールの活用も不可欠となる。数々のサポートツールの中でも、よくある問い合わせとその回答をまとめたQ&Aは、オペレータとお客さまの双方をサポートするツールとして活用している。

「kabu.ask」で的確にかつスピーディーに知りたい情報を検索

 現在、同センターのナレッジデータベースに蓄積されているQ&Aの数は約2,000件。「kabu.ask(カブアスク)」は、Webサイト内や数あるQ&Aの中から質問内容に最適と思われる回答の候補を話し言葉で検索し、表示する仕組みだ。2003年に、トランスコスモス(株)のサイト内ナビゲーションツール、Webダイレクトアンサーを利用して構築した。当初の「kabu.ask」はQ&Aデータベースと完全連携していなかったが、2005年にシステムを再構築し、Webサイト・Q&Aの双方の検索ができるようになった。
 オペレータが「kabu.ask」を利用する際は、同社Webサイトと顧客情報を1画面で閲覧できるサポーター画面からアクセスする。一方、お客さまが利用する際は、同社Webサイトの上部に表示されている検索スペースに知りたい内容を入力して検索ボタンをクリックすれば、回答の候補が案内される。
 「kabu.ask」の特徴は、回答の候補を複数表示することにある。例えば、「手数料について知りたい」と入力すると、「信用取引手数料をご確認ください」「株式の手数料に関するQ&Aをご確認ください」「カブドットコム証券の低コストかつリスク管理に優れた手数料体系をご覧ください」など、瞬時に5つの回答候補が表示される。このように、お客さまが知りたい可能性があると考えられる回答を複数選び出すことによって、ヒット率の向上が期待できる。
 さらに、回答の候補にはプルダウンメニューが用意されるケースがあることも特徴のひとつだ。ひと口に株式の手数料といっても、現物取引手数料、信用取引手数料、先物取引手数料などがある。そのため、「信用取引手数料をご確認ください」という回答の候補の「信用」の部分がプルダウンメニューになっており、株式の種類を選択できるようになっている。こうした工夫により、知りたい情報にたどり着くまでの時間短縮を図っているのである。
 2,000件のQ&Aは、同社Webサイトに、よくある問い合わせとしても掲載されている。Webサイトの上部に記載されている「Q&A」の文字をクリックすると別ウインドウが立ち上がり、キーワード検索とカテゴリー検索ができる。このほか、よくある問い合わせのアクセストップ10を表示することで、あらゆる切り口から必要な情報を探し出せる環境を整えている。

オペレータがQ&Aを作成しSVが精査

 同センターでは、Q&Aの作成はオペレータとSVが行っている。Q&A作成の流れを紹介しよう。
 まず、オペレータが日々の応対を通じて必要性を感じたQ&Aを作り、エクセルベースのQ&Aファイルに入力する。1週間に入力されるQ&Aは10~20件。それを週に1度、SVがチェック。既存のQ&Aとの重複を確認したり、文章を推敲したりして内容を精査する。次に、SVのチェックを経て正式なQ&Aとなったものを、SVがあらかじめ用意されているフォームに入力し、(株)NTTデータ テクノマークが提供するテクノマークメール(eメール対応パッケージ)のメール機能を利用して新規Q&Aとしてアップ。するとバッチ処理の後、Webサイトにアップされる。
 一方、サービスが終了した商品のQ&Aやお客さまへの周知が進んだと思われるQ&Aは削除。常にお客さまのニーズにこたえるQ&Aであるために、ブラッシュアップを行っている。

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同社WebサイトのQ&A よくあるお問い合わせ画面

口座数が増えてもコール数は5年前とほぼ同数を維持

 「kabu.ask」を再構築する前の、2005年時点の口座開設数は約30万口座であったが、冒頭で述べた通り、2009年4月現在の口座開設数は66万件。約4年で2倍を上回る拡大を遂げたことになる。口座数が増えると、コール数も増加するのが一般的だが、同センターでは、2005年当時も1日当たりのコール数は1,300件程度で、現在とほぼ同じコール数を維持している。
 同社では、その背景にはQ&Aの効果があると見ている。週単位で行うQ&Aのアップロードによるナレッジデータベースの充実と、「kabu.ask」の導入によるインターフェースの改善により、セルフサービスによる問題解決が容易になった。その結果、コール数が抑制されているのではないかと分析しているのだ。
 お客さまにとっても、オペレータにとっても、価値あるQ&Aを提供し続けるには、必要なQ&Aを追加する、利用されないQ&Aは利用されない理由を探り、利用されるように改善する、役目を終えたQ&Aは削除する、といったブラッシュアップが不可欠であることはいうまでもない。そこで同センターでは、このところQ&Aが増加傾向にあることを踏まえ、今後は量・質ともに見直しを図っていきたいとしている。
 さらに同社は、社内に本格的な放送スタジオ「kabu.studio」を設置し、Q&Aだけではわかりづらい部分を動画でわかりやすく解説している。
 今後、新たな取り組みとして、IVRを利用した音声でQ&Aを提供するシステムを構築しているところ。完成時期は未定だが、これが現実のものとなれば、よりお客さまの利便性が高まるに違いない。早期完成が望まれるところだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年7月号の記事