カジュアルでリーズナブルな日常着を「個人」が買う新たなきもの市場を創出

東京山喜(株)

1924年に京都で呉服問屋として創業した東京山喜(株)では1999年9月、千葉県船橋市に「たんす屋」1号店を開店し、リサイクルきもの事業に本格的に参入。2008年8月現在、関東、北海道、東北、甲信越、東海、北陸、関西、中国、四国で110店舗を展開している。カジュアルでリーズナブルな日常着を「個人」が買うという、新たなきもの購買パターンの定着に努めてきた同社では、今後もこのようなかたちでの販売を進めていく意向だ。

従来のきもの古着販売とは一線を画するビジネスモデルを構築

 東京山喜(株)では1999年9月、千葉県船橋市に「たんす屋」1号店を開店し、リサイクルきもの事業に本格的に参入した。
 当時、きもの業界では、ピークであった1970年代半ばに約2兆円だった市場規模が約6,000億円にまで縮小していた。一方で、エンドユーザーのアンケートでは、「きものが好き」「きものを着たい」という人が8割存在するにもかかわらず、直近の1年間で「きものを購入した」人は5%以下にとどまるという結果が出ていた。つまり、ニーズはあるのに売れないという“ねじれ現象”が起きていたのである。その背景には、バブル期にきもののフォーマル化、高級化を進めたことによって形成された「きものは高い」という既成概念があった。
 同社は1924年に京都で呉服問屋として創業。1961年に法人化されてからメーカー・卸業を営んでおり、1993年に中村健一氏が3代目社長に就任して以降、生産拠点を中国に移し、よりよいきものをより安く生産する体制を整えたことなどで、1994年から1997年の4年間で売上高を76%増大し、1997年の売上高は37億4,000万円にまで達していた。しかし、きもの業界全体の不調の影響は同社にも波及し、1998年の売上高は30億円に減少、利益的にも一気に赤字に転落してしまった。このような状況の中で、中村氏が偶然入店した新古書店「BOOKOFF」を参考に開始したのが、リサイクルきもの事業である。
 きもの業界でも従来から古着の売買は行われていたが、これは買い取った古着をそのままで販売するというもの。コストの掛かる丸洗いを行うところはなかった。しかし、同社ではメーカー・卸として販売する商品の品質に責任を持ちたいと考え、買い取った品をすべて洗いにかけて、殺菌、抗菌、消臭加工、しみ抜き、検針、プレスをしてから販売するという、従来のきもの古着販売とは一線を画するビジネスモデルを構築した。この新しいビジネスモデルは、2000年に中小企業金融公庫の“新規性が高く収益性が十分にある事業”への融資対象に選ばれ、さらに2001年には、第11回ニュービジネス大賞で優秀賞を受賞している。
 2008年8月現在、関東のほか、北海道、東北、甲信越、東海、北陸、関西、中国、四国に店舗展開しており、その数は110店舗にも及ぶ。うち、74店舗が直営、36店舗がフランチャイズ店だ。2007年度の売上高は約48億円となった。

月間買い取り件数は1,800~2,000件

 きものの買い取り方法としては、「出張」「店舗持ち込み」「宅配便」の3チャネルがある。
 「出張」は首都圏および関西圏で実施。基本的に絹のきもの・帯10点以上の場合を対象としている。「店舗持ち込み」については、各店舗で品物を預かり、本社に移送して査定を行い、後日、見積もり結果を連絡。また、「宅配便」については、着払いで品物を受け取り、査定後に見積もり結果を連絡する(見積り金額に納得がいかない場合は元払いの宅配便で返送)というかたちだ。「出張」については最近、業務提携を行っている生活協同組合を通じた引き合いが増加している。例えば、女性の1人暮らしなどでは、見知らぬ企業を自宅に呼ぶことに抵抗を感じるという向きが多いが、加入する生協への信頼感がこの抵抗感の払拭につながっている模様である。
 買い取り件数は月間1,800~2,000件前後。1件当たりの買い取り点数は22~23点前後となっている。買い取り価格は、例えば丸洗い、殺菌、抗菌、消臭加工、しみ抜き、検針、プレスなど再商品化作業後の再販売価格が1万円の場合1,000円で、買い取り1件当たりの平均金額は1万円前後になっているとのことだ。なお、再商品化作業コストを含めた原価率は20%前後となっている。
 買い取り顧客のプロフィールとしては、40~60代の女性が中心。特に最近では、亡くなった義母のきものを処分するといったケースが目立つとのことである。
 販売については、全国110カ所の店舗のほか、インターネットでの販売、さらには外部会場における催事販売なども随時実施している。
 店頭での品揃えは店舗により多少異なるが、新品50%、ユーズド品50%が基本となっている。なお、顧客側は新品かユーズド品かをそれほど意識しておらず、色・柄・価格などを吟味し、新品とユーズド品を組み合わせて購入するケースも多いようだ。
 購入顧客は、40~60代の女性が多いが、東京・原宿やJR千葉駅ビル内などで展開する若年層向け店舗「Tokyo135°」を中心に、税込1万8,900円という低価格で、きもの、帯、草履、小物を組み合わせた独自の「きものデビューセット(KDS)」を販売。10代後半から20代後半の顧客の開拓を進めた結果、これらの層も増加しつつある。なお、2008年9月からは男性向けのKDSの販売を開始する予定であり、今後は男性層の開拓も進めていく意向である。

たんす屋1 たんす屋2

査定金額を2倍にするという付加価値を付けた“お買い物券”

“和”ブームを追い風にきもの文化の普及に努める

 これまで、買い取り顧客は買い取りのみ、販売顧客は販売のみということが多く、特に買い取り顧客については1回の取引で完結してしまうケースも多かった。このような状況の中、買い取り顧客の販売顧客への移行、ひいては恒常的な「買い替え」による循環型ビジネスの確立を目指して2008年8月から開始したのが、「査定金額倍付けキャンペーン」である。
 これは、買い取り顧客が買い取り料金について、現金で受け取るか、同社店舗(百貨店など一部店舗を除く)で利用できる“お買い物券”で受け取るかを選択できるというキャンペーン。“お買い物券”で受け取る場合は査定金額が2倍となる。“お買い物券”の有効期間は発行後6カ月間。
 キャンペーン開始から間もないが、これまでのところ“お買い物券”での受け取りは全体の5%程度。同社ではこれを将来的に30%程度にまで増大する考えで、今後、倍率や有効期間などについて検討を行った上で、恒常的なキャンペーンに移行していく可能性もあるとのことだ。
 きもの市場では、近年でも大手事業者が倒産するなど、市場の縮小傾向は収まっておらず、2007年度の市場規模は、同社が「たんす屋」事業を開始した当時からさらに1,000億円程度減少し、約5,000億円となっている。しかし、きものリサイクルについては市場規模も微増傾向にあり、きもの市場全体の1割に迫る勢いだ。同社ではこれを、フォーマルで高級な晴れ着を「家」が買うという旧来のパターンとは異なる、カジュアルでリーズナブルな日常着を「個人」が買うという、新たなきもの購買パターンが定着しつつあると捉え、今後もこのようなかたちでの販売を進めていく意向だ。特に近年では、日本文化の見直しが進み、“和”ブームとも言える状況にあることから、これを追い風に、きものを日常的に着用する文化の普及に努めていく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年10月号の記事