専用のWebサイトを開設し受注生産方式でビジネスを構築

桐平工業(株)

ボールペン、シャープペンを製造する桐平工業(株)は、収益構造の抜本的な変革を、自社オリジナル商品「キリタ」のネット通販に求めた。2004年12月に専用のWebサイト「ペン工房キリタ」を開設して、受注生産方式による通販を開始。こだわりの文具への反応は上々で、新客とともにリピーターも着実に増やしている。

エンドユーザーへの直販を決断しWebサイト「ペン工房キリタ」を開設

 1947年に創業した桐平工業(株)は、文具メーカーのOEMで、年間10万本以上のボールペン、シャープペンを生産している。商社からも、海外ブランドの文具生産を請け負っているが、バブル崩壊以降は全体的に受注数が減少していた。現在、売り上げはバブル期の3分の1に縮小。この規模のOEMでは十分な利益が出ない上に、景気回復がなかなか受注増につながらない状況だった。
 そこで、3代目の桐田勝弘氏がオリジナル商品を開発し、エンドユーザーに直販することを決定。2004年12月から、「ペン工房キリタ」の名でWebサイトを開設し、受注生産方式によるネット通販をスタートしたのだ。
 製造直販に乗り出した最大のメリットは、自社の判断で原価を決められること。例えば、部品に徹底的にこだわって、手が疲れない重さの真鍮製のボールペンを作ることもできる。ボールを紙に押し付けてインクを出す仕組みのボールペンは、ある程度重みがあったほうが手が疲れないというのが桐田氏の持論だが、OEM生産時には、「とにかく軽いものを作って」という要望が多く、プラスティックやアルミなどの軽い素材の使用を余儀なくされるようだ。
 もうひとつのメリットは、小売価格で販売できること。現在、5種類のデザインのボールペンやシャープペンを計10アイテム販売している。価格帯は、使う部品によって3,000円~2万7,000円と幅広い。
 Webサイトの製品紹介ページには、「8角ボディーが意外と使いやすい」(G2ダイアカット)、「深みと艶のラッカー塗装」(KWラッカー)、「縦ライン彫りと超硬金属メッキ」(KWロジウムエンジンタン)など、商品の作り手ならではのコピーが並んでいる(資料1)。一番の売れ筋は、本数ベースでは最も価格が安くシンプルな「キーファー」、金額ベースでは「KWロジウムエンジンタン」だそうだ。

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【資料1】Webサイト(一部)。製品の紹介では作り手ならではのコメントが光る

開設当初はWebサイト訪問者の9割がキーワード連動型広告経由

 現状、「ペン工房キリタ」の通信販売における利用媒体はWebサイトのみで、紙媒体は利用していない。そもそもネット通販は桐田氏がひとりでコツコツと開始したもので、サイトへの誘導のために行っているのはキーワード連動型広告と検索エンジン最適化(SEO)くらい。通販開始当時から「楽天市場」にも出店しているが、成果を上げるにはWebサイト上で高頻度にキャンペーンを実施するなどさまざまな仕掛けが必要なうえ、文具の単一カテゴリーという取扱商品の特性上、ポータルサイトの中で埋もれてしまいがちで、楽天市場経由での売り上げは多くないと言う。
 キーワード連動型広告は、手間をかけずにWebサイトへの集客を得られると評価している。立ち上げ当初は、訪問者の9割がキーワード連動型広告経由だったという。現在はこの割合が減って、6割くらいとのこと。今後は、自社サイトの作り込みを強化していきたいとしている。ほかのサイトからのリンクやアフィリエイトなど、まだまだ工夫の余地があると桐田氏は見ている。
 前述の通り、同社の「ペン工房キリタ」は受注生産の仕組みを採っているが、受注時に部品があればその日のうちに商品を製造し、早くて2日、通常でも1週間で届けることができる。
 また、注文を受けてから一本一本を手作りするため、ペンへの名入れはもちろん、天金の上部にイニシャルや星座マークなどお客様の好みで柄を入れるといったサービスも無料にて受け付けている。
 支払い方法は、クレジットカード、代引き、前払いの郵便振替の3つ。内訳は、クレジットカードが約50%で最も多く、代引きが25%くらいとのこと。
 なお、注文時にギフト用か自分用か選ぶ仕組みになっており、ギフト用では依頼されたメッセージ文をメッセージカードにプリントアウトして同梱している。受注数の半分程度をギフト用の注文が占める。

レターや手入れの説明書を同封 無償修理などきめ細かなサービスを実現

 エンドユーザーに直接製品を届けるだけに、顧客サービスにも万全の体制を整えている。それを裏付けるのが、クーリングオフ制度だ。一度送付した製品については、利用の有無にかかわらず、1カ月間にわたり返品を受け付けている。これは、安心して注文していただくためだが、スタートしてから今日までの約2年間でたった2件しかないと言う。このほか、無期限で無償修理も受け付けている。
 製品を発送する際は、写真付きのレターに加え、手入れの仕方などの説明書と、手書きによるお客様のお名前と梱包担当者の名前を同封している(資料2)。これにはお客様に対して検品済みの商品であることを保障する意味と、担当者に責任を持たせる意味の双方があるという。

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【資料2】ギフト用の商品。工房から直送していることが感じられる手の込んだ梱包になっている

 購入後は、自分用/ギフト用の注文別に、ステップメールを配信。購入後、7日、21日、30日、3カ月、6カ月、1年の間隔で自動的に配信している。これは、文具は使い続けるものであり、使っていただく限りは関係が続いていくという考えに基づいたもの。
 こうした姿勢が購入者に通じているのか、購入後にeメールでのお礼や感想が必ずといっていいほど寄せられるそうだ。同社では、実際にeメールで送られてきた購入者のコメントの中から一部をWebサイト上で公開している。「予想以上に評判が良く、ほっとするとともに手ごたえを感じている」(桐田氏)とのこと。

基本に忠実な姿勢で信頼を獲得 顧客の1割をリピーターに

 「ペン工房キリタ」を立ち上げて、この12月でようやく2年。売り上げは徐々に伸びており、当初は桐田氏がすべてひとりで行っていた受注、レター作成、梱包などの業務も、現在はスタッフがサポートするなど、一歩一歩規模が大きくなってきている。
 現在の1カ月当たり売上高は約100万円。受注数は、年間1,000件くらいで、年末から新学期にかけての3~4カ月間は注文が倍増するそうだ。
 また、修理保証も付いて長く使っていただける高級ボールペンが商材であるにもかかわらず、購入者の約1割はリピーターだ。
 今後は、「ペン工房キリタ」のさらなる認知向上と売り上げ拡大のために、新たなネットへの誘導メディアの開発と、サイトの作り込みに注力していく意向だと言う。製造業ならではの高度な技術力と商品開発力、さらには個々の顧客との1対1のお付き合いのノウハウを活かしながら、基本に忠実な売り方を心掛けていく構えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年1月号の記事