顧客データに基づく販促に加え顧客ごとの付加価値提供を目指す

(株)東急百貨店

(株)東急百貨店では、1999年から「東急TOPカード」にポイント機能を加えた「クラブ キュウポイント」TOPカードを導入した。これは、東急百貨店での年間の買上額に応じた累進的なポイントサービスである。会員を5つのグレードに分け、それぞれのグレードに合わせた販売促進を展開。また、売場ごとではなく店舗レベルで上顧客をとらえることで、維持・再来店を促す施策を実施している。

プロジェクト発足と同時に「クラブ キュウポイント」TOPカードを導入

 (株)東急百貨店では、「事業改革計画」を2000年に発表すると同時に、東急版CRM「CSP(Customer Service Program)」を導入した。これを顧客起点での事業改革の中心的施策として位置付け、戦略的に推進している。
 同社の顧客戦略の根幹であるCSPの目的は、上顧客を拡大すること、および「ポスト上顧客」を増やすことだ。これをCSPの概念式に表すと、「上顧客数×来店頻度×購買頻度×購買単価=売上高」ということになる。売上高の伸長は、上顧客の満足度を高めて来店頻度、購買頻度、購買単価の向上を図り、他店への流出を防止すること、また一般顧客の共感を獲得して上顧客を増やすことにより達成されるというわけだ。
 CSPは、システムありきではなく、コンセプト主導で進められてきた。プロジェクト発足は、1999年10月に遡る。
 同社では、プロジェクト発足と同時に「クラブキュウポイント」TOPカードを導入した。2000年には、顧客情報システム「CSPシステム」を全店に導入すると同時に、CSP推進の体制を社内横断的に整備し、CSP実行のインフラを着々と整えた。一方で、DMを活用したプロモーションや、コスメティックフェアやインナーフェアといった顧客データを活用した取引先との共同プロモーションの実行と検証をスタート。
 また最新のトピックスとしては、東急グループでは百貨店利用はもちろんのこと、グループ各社において最大の顧客満足が得られるように、2006年春からTOKYUポンイントカード「TOP&(トップアンド)」としてのサービスを開始する。同時に、百貨店のポイントカードも「TOP&ClubQ(トップアンドクラブキュウ)」と名称が変り、TOKYUポイントも貯まるようになる。

前年の年間買上額によってグレードを5つに設定

 「クラブ キュウポイント」TOPカードは、1999年10月に発行。これはそれ以前に発行していた「東急TOPカード」に東急百貨店の利用に応じた累進性ポイントプログラム(リワードプログラム)を付加したもの。現在、会員数は約56万人に上る。
 このプログラム導入の目的は、「上顧客」「ポスト上顧客」を発見・顕在化し、維持・育成する活動を行うこと。そして、そのことにより総顧客数の増加および上顧客への育成スキルを身に付けることを目的としている。
 「クラブ キュウポイント」TOPカードのグレードの区分けは、前年の年間買上額によって、10万円未満の“ワンスター”から、500万円以上の“ファイブスター”まで5つ。ポイントは100円の利用から付与され、1,000ポイントで1,000円のお買い物券と交換できるが、還元率はグレードによって異なる。例えば、“ワンスター”は3%、10万円以上50万円未満の“ツースター”は5%、50万円以上100万円未満の“スリースター”は7%、100万円以上500万円未満の“フォースター”と500万円以上の“ファイブスター”は8%といった具合だ。こうしたグレードの設定は、上顧客への集中的で効率的なコスト投下による顧客維持と、下位顧客のランクアップ意欲の向上などを狙っている。
 導入当初は、“スリースター”以上の顧客を対象に、ロイヤルカスタマーサロンや駐車料金のウィークデー優待をスタート。その後、2001年には、東急グループならではの宿泊プランなどの「ドリームメニュー」へのポイント交換を開始、2003年にはJALマイレージバンクのマイルとのポイント交換を開始した。また同年には、“フォースター”以上の顧客へサンクスポイント(グレード・アップ時のプレゼント)の提供も始めた。

0604-cs3

来店の機会に最高の対応で満足を最大化

 同社では、いくつかの売場で、顧客との関係強化に向けた「顧客計画」を実践している。これは売場ごとに上顧客の名前と顔を覚えることから始まる。それぞれの上顧客の顔や嗜好がわかってこそ初めて、接客場面で顧客に合った付加価値を臨機応変に提供できるようになるからだ。また、売場での下位顧客でも、店舗レベルでは上顧客というケースもあることから、会計時のレシートには、グレード区分を示す星マークを印字している。これにより、店舗レベルで顧客との関係強化を図っていることを意識させているのだ。
 各店舗では、顧客の購買実績データが完備され、専門の分析担当者が存在しているうえ、売場にて顧客データの概要が確認できる仕組みを導入している。売場スタッフは、顧客データを基に、上顧客を意識し、接客やタイムリーなDM発送、イベント招待などにつなげることができる。
 同社では、こうした活動をベースに、年間トータルでの来店購買頻度向上を目指し、顧客の固定客化を進めている。同時に、テナントの顧客志向も強まり、同社への協力体制の拡充にもつながっているという。
 そのほか、2004年下期から、これまでは外商顧客中心だった全社上顧客対象のセルリアンタワー招待会を、“スリースター”以上の顧客にも開始。期間限定ではあるが、買い物をした場合のアップポイント(2%)も実施している。
 これらの結果、同社では、上顧客を年間80%近い高水準で維持しているという。

TOKYU

2006年春から「TOP&ClubQ」カードと名称が変更となり、百貨店はもちろん、TOKYUポイントも貯まるようになる

顧客データと接客から得られた実例を活かし顧客への付加価値を店舗で構築

 こうしたポイントシステムの活用のほかに、同社では、2005年9月から東急本店(東京・渋谷)において、一人ひとりのお客様への最良のおもてなしを追求する「ゲストソリューションズ」サービスを開始した。これは、豊富な経験と知識を備えたコンシェルジュが、買い物の要望をきめ細かく伺い、その上で、売場やショップをまたぐかたちで、好みに添った買い物の提案をするというもの。このサービスをスタートしてから、“ワンスター”だった顧客が“ツースター”以上に一気にグレードアップするなど、導入効果が表れ始めているという。
 今後は、ポイントプログラムにより収集した顧客データに加え、「ゲストソリューションズ」サービスの接客から得られた実例を活かして、「顧客への付加価値」を店舗全体で構築し、提供していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年4月号の記事