1%の顧客が売り上げの25%を構成。経費と手間を存分に掛けた催事でお客様満足を獲得

(株)川久

今年で創業80年を迎える、千葉県松戸市の呉服専門店(株)川久。千葉県の主要都市の狭間という立地を逆手に取って、営業担当者の訪問と、他社に類を見ない大掛かりな催事を開催して集客に成功。確実に売り上げを伸ばしている。

ユニークな催事開催により来場を促進 呉服の売り上げが年商5億円超に

 千葉県松戸市。東武野田線沿線の駅を降りて数分のところに、売り場面積約170坪の店舗を構える(株)川久(代表取締役・川上道久氏)はある。半径10km圏内に、市川市、松戸市、鎌ヶ谷市、柏市、船橋市、我孫子市、流山市などの都市に囲まれるように位置しており、商圏内に130万人もの人口を擁している。今年で創業80年を迎える同社は、川上氏の祖父が、総合衣料店として創業した当初から、洋品と呉服を扱っていたという。
 川上氏は、大学卒業後、修行のつもりでニチイに入社し、婦人服売り場を担当した。隣の呉服売り場の経営効率が悪いのを目の当たりにしてきた川上氏は、呉服はやるまい、と思っていたと言う。25年前に家業を継ぐことになった川上氏は、当然呉服の商売を辞めるつもりでいた。ところが、社長就任の際、諸々の事情から呉服を手掛けることになったのだ。
 呉服全体の市場が2兆円と言われていた時代、同社の年商は、呉服の3,000万円に対し、洋品は1億円だった。この25年間で、呉服市場は4,500億~5,000億円と縮小しているが、同社の呉服の売り上げは5億~5億4,500万円の年商を誇るまでに成長している。その秘訣はなにか。
 「そもそも営業が苦手な性分なことに加え、店舗が県の主要都市の狭間にあることから、来店客が限られています。呉服における営業は、店頭で買っていただくための接客といった販促活動が一般的ですが、お客様は、まずうちへは来ない。この前提があって、どうやって来ていただくかと考えて、こだわりの催事を開催することにしました」(川上氏)
 川上氏が「私の道楽です」と楽しそうに話す催事(イベント)は、集客の要。古典芸能を中心に、ありとあらゆる趣向を凝らし、そのための投資も惜しまない。通常は売上目標の5%を販促費に投じるところを、10%から20%も掛ける理由を、川上氏はこう説明する。「家賃が掛からない分、お金をかけて手の込んだ催事を企画し、お客様に足を運んでいただきたい。高額商品のきものを買っていただくためには、お客様を遊ばせないとならないし、そうした工夫が必要です。そして、遊ぶならとことん遊ぶのが粋なのです。レベルが高い遊びをすると、レベルの高い客が集まります」

10%のVIP客へは営業担当者が招待状を持参

 同社の優良顧客層は、いわゆる2:8(ニハチ)の法則とは大きく異なっている。全顧客中、約1%の超VIP客が売り上げの25%を占め、これに次のランクである約2.6%のVIP客、約6.1%の準VIP客を合わせた上位3ランクの約10%の顧客で、売り上げの75%を占める。このVIP客を中心に、購入金額によってランク分けされた約3,000名を対象に、催事の案内を行っているのだ。
 顧客管理は、顧客データベースと、営業が個々に管理する顧客台帳の2種類で行う。台帳管理を並行する理由は、「このお客様は購入意欲があるか」「どのくらい可能性があるか」という感触やちょっとした会話の中から聞くことができた家族の近況などを個々が台帳に書き込むことで、顧客のプロフィールをよりきめ細かく把握できるとの考えからだ。
 顧客の属性は、以前は中小企業経営者や農業従事者が多かったが、最近は公務員や教員、夫婦共働き世帯が多いと言う。
 ちなみに、売り上げのうち4分の1は、成人式がらみ。また、新規顧客獲得の7割が成人式がきっかけであることもあり、ここで徹底的にサービスをする。まず、営業担当者が各担当エリアで翌年に成人式を迎える女性がいる世帯へ訪問する。きものを購入いただいた方への写真撮影は、同社の特徴的なサービスだ。プロのヘアメイクやカメラマンを雇い、敷地内の日本庭園やお茶室、室内のスタジオなどで、3時間かけて150枚近い写真を撮影。お客様満足を最優先しているため、破格の値段で提供している。これが母親層の口コミを呼び、さらなる新規顧客の拡大につながる格好だ。

社長自ら企画する年10回の催事で顧客に徹底的に楽しみを提供

 優良顧客向けの施策としては、年10回の催事の招待が中心。他店では数年に1回行うのがせいぜいといった大掛かりな催事を、同社では年に2回も行い、中規模のものを加えるとほぼ毎月、催事を催しているのだ。ちなみに今年は、8月に「青森・ねぶた祭」、9月には店内で「太夫道中と祇園舞妓の世界」と題した公演を開催している。
 各催事の準備には、2~3カ月前から取り掛かる。まず、社長自らが豊富な人脈を駆使して催事の出し物や食事を企画。決定後、催事の案内状と特別招待客向けの招待状の制作に入る。招待状は、催事への期待感を高めるよう各回の企画にからめたものを社員25名で手作りする(写真1は、島原の太夫道中と舞妓さんによる招待状)。催事開催の2~3週間前に、15名の営業担当者が、これらの招待状を持参し、1名当たり約200人を受け持つ顧客へ直接訪問している。また、70~180人ほどの特別招待客向けの招待状は、1通2,000円ほどの経費が掛かるそうだ。

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【写真1】創業80年を記念した催事「太夫道中と今日の花街のにぎわい」 の案内状(招待客用)。すべて社員の手作りだ

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【写真2】これまで開催した催事の景物の数々

市場縮小の見通しに対しインターネットにより商圏拡大を図る

 顧客は、催事もさることながら、毎回違ったアイデアの招待状が届くのを楽しみにしているという。特別招待では、半数~3分の1の方が来場し、そのうち30%が購入に至るそうだ。催事の平均客単価は、30万~40万円である。
 市場の縮小や、個人情報保護法の全面施行などの逆風の中、今後は新規顧客の獲得が最大の課題だと川上氏は言う。フォーマルな場の激減、つまり冠婚葬祭での着物着用の習慣が、都市部を中心に減ってきている。こうした中で新規顧客の獲得は至難の業。そこで同社では、インターネットで商圏を全国に拡大することも検討しているという。例えば、8年前、川上氏が企画・運営に携わり、日本きものシステム協同組合が主催した「きものデザインコンテスト」で約1,000枚のデザイン画が集まった経験を生かし、インターネット上で再びデザインコンテストを開催する計画が進行中だ。
 「お客様にきものを通してワクワクする和の文化を提供し、川久とあえてよかったと言ってもらえるよう最高の満足を与える」ことを経営理念とする同社。中でも、超VIP(超ごひいき客)の徹底的な満足を追求する同社の取り組みに今後も注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年10月号の記事