大正11年に創業した酒販店、(有)ワイナリー和泉屋は1999年、楽天に出店。見る間に売り上げを増大させ、2002年は年商4億3,000万円を達成した。同社のメルマガ活用術と、そこに込められた「思い」とは・・・。
まぐまぐでのメルマガ配信が第一歩
インターネット・ブームに乗ってオンラインショップを立ち上げたものの、伸び悩んでいるという企業は多い。しかし、1999年2月、楽天にワイン専門店を開設した(有)ワイナリー和泉屋のオンラインショップによる年商は、同年6,000万円、2000年2億7,000万円、2001年3億7,000万円、2002年4億3,000万円と、驚異的な伸びを示してきた。ワインのチャネル別売上構成比は、店舗5%、Web95%。総売上のチャネル別構成比は店舗25%、Web75%となっている。
同社は酒販店のみを経営していた当時から、代表取締役の新井治彦氏が自ら商品を詳しく紹介したパンフレットを月1回のペースで発行。店頭で収集した約200名の顧客リストに対し、DMとして郵送していたという。しかし、印刷代や郵送費がかさみ頭を痛めていたところ、ワイン会を主催する友人からメルマガ配信サービス「まぐまぐ」を紹介された。1998年11月から「まぐまぐ」を通した情報配信をスタート。約2,000名に対して週1回のペースで送信したメルマガは、驚くべき効果をもたらした。何と、送信開始1カ月で200万円を売り上げたのある。「メルマガで商品が売れる」。店舗経営に限界を感じ始めていた新井氏は、メルマガというツールの力を確信。1999年2月に楽天にワイン専門店 「ワイナリー和泉屋」を出店した。
メルマガ送信日に売り上げの75%が集中
オンラインショッピング会員は現在、約8万人。まぐまぐ読者は約1,800人だ。会員向けメルマガを担当し続けている新井氏は、「Web上にページを用意して待っているだけでは購入してもらえない。しかし、メルマガといわゆる“買い物カゴ”があれば商品を販売することができるのでは」と話す。この、同氏が作成する「メルマガ」は、半端ではない。プリントアウトするとA4版10ページ分にもなるメルマガを、週に3回、発行し続けているのだ。1回当たりの紹介アイテム数は7~10品程度。楽天に出店して間もないころ、「メルマガは銘柄、価格、URLを中心にシンプルに作成したほうがいい」とのアドバイスを受けたが、長年、DMを顧客に向けて発信してきた同氏はこのようなアドバイスに納得できず、コンテンツに思いのたけを込める自己流にこだわり続けた。
ワイン販売で大切なことは、①商品のクオリティー、②適正な価格、③情報案内だと同氏は言う。購入前の顧客に対し、これら3条件を満たすために販売サイドが最大限の努力をすることが大切なのであり、その成果のひとつである“商品のクオリティー”を伝える情報案内ツール、メルマガの果たす役割は大きい。
メルマガの中で、新井氏はワインのテイストだけでなく、生産者の哲学や、生産法を詳しく説明している。作り手は、何を思い、何を考えながらこのワインを作ったのか――。ワイン生産にはさまざまな規制があり、1ヘクタール当たりの収量も決められている。利益を上げるためにぎりぎりまで収量を伸ばす生産者もいれば、収量を抑えて品質を上げようとする生産者もいる。同社では工業製品ではない、作り手の思いが込められたワインを、顧客に届けたいと考えている。このほか、インポーターから得た情報や、自ら試飲した感想をストレートに表現、顧客に伝えている。
こうしたメルマガが、「わざわざWebを見なくても情報が届いてから購入を検討すればいい」という風土を顧客の中に育て、今ではメール送信日に売り上げの75%が集中するようになった。
ワイナリー和泉屋のオンラインショップ
(http://www.rakuten.co.jp/wine/)
悩みの種は新規顧客の獲得
しかし、退会者も当然ながら出る。会員数は最大で12万人を記録したが、現在は8万人で推移。毎月だいたい1万人くらいのメンバーが入れ替わっている。しかし、同社では「ある程度の退会は仕方がない。退会防止のために妙な仕掛けを作ることで純粋にワインの情報が欲しいと考えている顧客との関係を壊したくない」と考えている。同社が紹介するワインなら安心して購入できる、しかも早く購入しないと売り切れてしまうといったイメージを顧客に抱いてもらうこと、そして、高品質な商品を紹介し続けることが、優良顧客の維持につながるとの考えだ。
現在の顧客ひとり当たりの購買額は月平均1万5,000円。2カ月で5万円購入する顧客は「優良顧客」と位置付けられ、最優良顧客になると年間100万~200万円の購買がある。同社が提供する商品、価格、情報。これらに信頼を寄せる顧客は多く、売り上げの75~80%はリピート顧客によるものだ。
悩みの種は、いかに新規顧客を獲得するかだ。オンラインショップ上にプレゼント企画を用意し、集客を狙っている。提携企業200社を集め、各社が「友達ショッププレゼントコーナー」を設置して提携15社のプレゼントを紹介。1日ごとに紹介企業を変えるシステムを構築した。同社はこのシステムを提供する見返りとして、200社すべての同コーナーで紹介してもらえる仕組みになっている。
このほか年に1回、大規模な「ワイン会」を開催。2002年11月に行われた第4回目には、およそ400人が集まった。「私どもは普段、お客様の顔を見る機会がありません。同時にお客様も、我々のことを『どんな人たちだろう』と思っていらっしゃいます。年に1度の顔合わせの場なので、同会にはスタッフ全員が参加しています」(新井氏)。さらに、月1回程度、小規模なオフ会を開催。海外から招いた生産者との会食会なども行っている。
2002年夏にはレストランなどとの提携によるプロモーションの共同開催もスタート。新たな「クリック&モルタル」の模索が始まっている。
情熱が顧客を呼ぶ
急成長を遂げた同社だが、顧客との関係作りのポイントについて、新井氏は次のように考えている。①事業規模が小さくとも、しっかりと利益を上げる仕組みを築きながら、マイナーチェンジを繰り返す。②自らが「こうしたらいい」と思うことは、すべて実行する。③ユーザーサイドに立ってサービス内容を改善し、顧客満足度を上げるよう努力する――同社では午後1時までに受注した商品は翌日発送、到着を確認するeメールを送信している。また、スケールメリットを顧客に還元しようと試みている。④想像力を働かせ、顧客に満足してもらうために何をしたらよいのかを考え、ねばり強く時間をかけて理想実現に向けた努力を重ねる。
同社がオンラインショップを立ち上げた頃、スタッフはわずか3名、宅配便の手配やカードの決済はすべて手作業だった。「しかし夢があった」と新井氏は振り返る。自らが選んだ質の高い商品を揃え、売り手の情熱を伝えていく。そんなことも、成功要因のひとつと言えそうだ。