複合的にディーラーをバックアップ

ランドローバージャパン

フォード・モーター・カンパニーの高級車部門であるプレミア・オートモーティブ・グループ(PAG)に所属するランドローバージャパンでは、ブランドイメージを統合化し、なおかつエンドユーザーの個別の要望に応えるために、いくつかの組織で複合的にディーラーをバックアップしている。

ピー・エー・ジー・インポート(株)の一ブランド

 英国ランドローバーブランドの自動車および関連部品・用品の開発、販売、車両整備・サービス、保険業務の取り扱い等を手掛けるランドローバージャパン。同じPAGに所属するジャガー、ボルボとともに、フォード・モーター・カンパニーの子会社であるピー・エー・ジー・インポート(株)の一ブランドである。後述するが、ディーラー支援においては、ランドローバージャパンが独自に行うものと、ピー・エー・ジー・インポートが行うものとがあり、オペレーションはいささか複雑である。しかし、顧客の目に「ピー・エー・ジー・インポート」という社名が映ることはほとんどなく、あくまでも「ランドローバージャパン」というブランドを前面に出すのが同社の戦略である。
 では、同ブランドはディーラーに向けてどのような支援を行っているのだろうか。

エリアマネジャーとディーラー・マーケティング推進局

 ランドローバージャパンでは、エンドユーザー向けのお客様相談室は設けているものの、ディーラー向けの営業支援のためのコールセンターは持っていない。しかし、実質上のコールセンターとも言える、ディーラーへの営業支援を担う2つの組織を有している。
 ひとつは全国8カ所(ランドローバージャパンでは全国を8つのブロックに分けて管理している)に点在するエリアマネジャー(AM)。AMはディーラーに対して、ヘルプデスク的な役割を果たしている。また、マーケティング・キャンペーン/施策に関する説明や、新商品が発売された際の情報提供のために直接ディーラーに出向くといった活動も行っている。
 もうひとつは、ディーラー・マーケティング推進局。これはマーケティングに関する事柄を包括的に管理する部署で、ランドローバージャパンとディーラー全体の“掛け橋”として機能している。具体的には、各ディーラーとの商品情報のやりとりや、キャンペーン施策の案内、およびこれに関連した販促ツール等の提供を行っている。さらに受注や請求、ディーラー側からの情報や販促活動の成果の吸い上げも担当する。同局のような部署は、「ディーラーと一心同体」の自動車メーカーにとって、不可欠な存在なのだ。

事業部全体がひとつになってディーラーを支援

 しかし、実際のディーラーへの営業支援は、この2つの組織のみで行っているわけではない。後述するディーラー・マーケティング・サポート・チームや広報室など、各セクションが一体となって、実質的な支援を行っているのだ。具体的には、同ブランドのホームページや、一般向けのゴルフのタイアップ・イベントなどにより収集した見込客のリストや、フリーダイヤルやホームページに寄せられた資料請求者リストの近隣のディーラーへのフィードバックも行っている。
 これら2つの部署は、エンドユーザー向けのお客様相談室とは、“営業支援”という意味においては基本的にリンクしていない。というのは、お客様相談窓口に寄せられる問い合わせは「故障してしまった」「安価な商品が知りたい」などの内容が多く、ディーラーの支援につながる情報が少ないからだ。しかしもちろん、「商品をどこで購入したらいいか」といった問い合わせに対しては、その顧客の近隣のディーラーを紹介し、営業の活性化につなげている。

ディーラー・マーケティング・サポート・チームを編成

 ランドローバージャパンはこの2月に、ディーラー・マーケティング推進局が全国統一のディーラーのサポートを行っているのに対して、各ディーラーを個別にサポートする「ディーラー・マーケティング・サポート・チーム」(以下DMST)を創設した。現在は準備段階にあるが、間もなく始動する予定。
 ランドローバージャパンはこれまでの業務を通して、地域によって顧客層もニーズも違うこと、また、ディーラーのニーズも多様であることを痛感した。DMSTはそれらのニーズにきめ細かく応えていく目的で創設されたのだ(図表)。また、ディーラーごとに、販売における知識やスキルが一定でないことからも、画一的ではない、個別のサポートをする必要性があったのである。

0207-cs3図

 具体的な活動としては、DMSTのメンバーがそれぞれのディーラーに出向き、ディーラーが制作する広告や、開催するイベントのサポートを行う。ランドローバージャパンのキャンペーンには、メーカーが行うものと、個々のディーラーが独自に行うものがある。ディーラーに共通のキャンペーンの素材は前出のディーラー・マーケティング推進局が一括して提供するわけだが、DMSTは、ディーラー独自の広告やイベントについて個別に、効率的かつ効果的な方法をアドバイスしたり、広告の材料や情報を提供する。いわば、コンサルタントの役割を担うことになるという。
 一貫したブランド・イメージを保ちつつ、その地域に合わせてランドローバージャパンというブランドを演出することが主眼にあるが、ディーラーの教育という側面も併せ持っているわけだ。
 一方、ディーラーの技術的な事柄以外の教育は、ピー・エー・ジー・インポートの「フランチャイズ開発」が受け持っている。ちなみに、総務、経理、人事、システム等のバックオフィスも、ブランドごとに分かれていない。
 DMSTに対するディーラーの認知度はまだまだ低く、実績を作ることで、その認知度を上げるのが当面の課題である。また、地域・ディーラーごとの戦略を練る上で、データベース(DB)の効果的な活用は欠かせないが、同ブランドのDBとディーラー独自のDBをどのように有機的に結び付け、効果的な地域戦略を展開していくかということも、ランドローバージャパンの今後の課題となっている。
 個別のディーラーのサポート体制を整えた組織は自動車業界では珍しい。ディーラーとの信頼関係を築く新しい方法として、ランドローバージャパンの試みとその結果に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年7月号の記事