インターネット上でいかにOne to Oneを実現していくか

(株)エムタウン・(株)富士銀行エムタウン支店

ショッピング・モールと決済が融合したポータルサービス

 2001年1月31日、インターネット専業のバンキングサービスを組み込んだ会員制総合ポータルサービス、エムタウンが開業した。
 エムタウンは、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行のみずほファイナンシャルグループを中心に、金融機関、事業会社、計47社が出資する(株)エムタウンとインターネット専業の富士銀行エムタウン支店が提携してスタートしたものである。エムタウンには、前記の47社を含めた約70社が出店しており、グルメ、ファッション、インテリア、家電、スポーツ、旅行、書籍、ゲーム等、さまざまな買物ができるショッピング・モール、各種の金融商品を検索できる金融ポータル、実店舗並みのインターネットバンキング・サービスが用意されている。代金の支払いは、エムタウン内のインターネット銀行・富士銀行エムタウン支店(以下エムタウン支店)やグループのインターネットバンキング・サービスを利用すれば、クレジットやオンライン上での振り込みに加え、SET方式のデビット決済によるワン・ストップショッピングも可能になる(現状ではクレジットでの決済が一番多く、以下、デビット決済、振り込み)。またショッピングにはエムタウン支店専用のクイックローンも利用することができる。
 エムタウンのサービスを利用するには、会員になり、月額210円の会費を支払う必要がある。この会費がエムタウンの主要な収入源になるが、エムタウン支店に口座を開けば、毎月の会費は無料になる。

会員ひとりひとりの専用ページ「My em-town」

 会員登録をすると、ひとりひとりのライフプランに応じた将来のキャッシュフロー診断や、保険・年金等各種企業シミュレーションによる、トータルなマネープランのアドバイスが受けられるほか、すべての金融資産を一元管理することもできる。また多様化する顧客のニーズに対応するためのOne to Oneサービスとして、会員ひとりひとりの専用のページ「My em-town」が用意されている。これは、商品やサービス、金融相場などの最新情報、季節情報の中から、それぞれの会員の趣味や嗜好、ニーズに合わせてパーソナライズされた情報を提供するものである。誕生日、卒業時期といった予定表の提供や、そのタイミングに合わせた金融・非金融サービスの提供はユニークだ。情報は、Eメールやiモードにも通知してくれる。
 エムタウンの会員は現在約1万人。エムタウンでは、特に20代から30代の会員の獲得に力を入れている。25歳までに会員になると口座開設の手数料が無料になるというサービスもその一環である。1日当たりのトップページ・ビューは、エムタウンが約3万8,000、エムタウン支店が約12万5,000にのぼる。
 エムタウン支店はインターネット上のバーチャルな銀行であるがために、付加価値の高いサービスの提供が、リアルな銀行に比べ難しい。しかし同社では、手数料や住宅ローンの金利をディスカウントすることでエムタウンならではの利点を打ち出している。

エムタウンHP

エムタウンのホームページURL:http://www.em-town.com/svc

2つのコールセンターを設置

 エムタウンとエムタウン支店では業務内容が異なるため、それぞれ個別のコールセンターを開設している。対応メディアは、電話・Eメール・ウェブのメールフォーム。コールセンターにはコミュニケータだけでなく、一般支店の課長経験者も数名配属しており、電話での肉声による顧客の資産運用相談にも十分対応できる体制を整えている。またEメールの返信は現在手作業で行っているが、Eメールの自動処理システムの導入も検討している。
 エムタウンのコールセンターはアウトソーシングしており、コミュニケーターは10〜12名、フリーダイヤル5〜6回線で対応している。アクセス数は1日で、電話が約30、Eメールが約10。開業から2カ月が経った現在までの主な顧客からのコンタクトの内容は、操作方法に関する質問や「エムタウンについて詳しく知りたい」というもの、「エムタウンでなければ買えない、スペシャルメニューは何か」といったものが多い。
 一方、エムタウン支店のコールセンターは、富士銀行の横浜ダイヤルセンター内に設置されている。センター全体のコミュニケータは約200名。エムタウン支店専任のコミュニケータは約20名で、フリーダイヤルは10回線程度で対応している。エムタウン支店ではネットバンキングを利用する顧客は、銀行の窓口を必要としていない層と割り切って考えているが、そうは言っても最後にはフェイス・トゥ・フェイス的な要素も求められる。そこでエムタウン支店では、テレフォンバンキングの経験が豊富なコミュニケータを採用することで、こうした要求に応えている。また支店長みずからが顧客にメールを返送することもあるという。こうした工夫により、エムタウン支店では、バーチャルな取り引きをなるべくリアルなものに近付ける、ある意味ハイブリッド的な取り組みを強化している。
 顧客からのアクセス数は1日当たりで、電話が約100件、Eメールが約30件。問い合わせ内容は、エムタウンのコールセンターと同様の、操作方法に関する質問や「(株)エムタウンとエムタウン支店はどう違うのか」といった質問のほか(エムタウン支店はエムタウンで最大級の出店企業)、「今週の外貨定期の金利はいくらか」、「投資の利回りはいくらか」といった商品に関しての具体的な問い合わせが多い。
 こういった顧客からのアクセスの管理は、横浜ダイヤルセンター開設時に導入した、IBMの「RMDB(リレーションシップ・マーケティング・データベース)」で行っている。これは顧客の支店番号と口座番号を入力すると、顧客の基本属性やこれまでの取引履歴、コンタクト履歴が一目でわかるシステム。
 その他のエムタウン内の個々の商品の問い合わせについては、その商品を扱う個々の出店企業に対応が任されている。

同業との差別化が当面の課題

 コールセンター以外での顧客サービスとしては、会員がエムタウンでの買物の際に、前述のSET方式のデビット決済(エムタウンデビット)を利用すると、一定の金額ごとにポイントが与えられ、蓄積ポイント数に応じたキャッシュ・バックが行われる。加えて、エムタウン支店で発行するキャッシュ・カードには2001年の夏からICチップが搭載される。前述のポイント制も約1年後にはこのICチップを介したものとなり、キャッシュ・カードに蓄積されたポイントが各出店企業独自のポイント・システムでも使用可能になる予定だ。これはエムタウンだけではなく、リアルな店舗でも利用できるものになるという。
 また、アウトバウンドに関しては、エムタウンでは、不定期にEメールでのDM配信を行っているほか、会員の希望により、ポートフォリオ・シミュレーション・システム(財産のシミュレーション)のサービスも提供している。
 一方エムタウン支店では、顧客からのメールに返信する際に、それぞれの顧客に最適なサービスの案内を行う取り組みをしている。これは前述の「RMDB」に蓄積された顧客情報に基づいて、たとえば、教育ローンや住宅ローン、リフォーム・ローンを勧めるというもの。
 同社では現在、メールのさらなる有効な活用法を検討しており、近いうちに具体化される予定である。
 今後、エムタウンとしては現在47を数える出店企業数を100まで増やすことを目標にしており、同時にエムタウンならではのスペシャル・メニューをさらに充実させ、同業との差別化を図る考えである。
 エムタウン支店にしても「同業との差別化を図る」ことを意識している点はエムタウンと同様。そもそもインターネットバンキングとEコマースを融合させるという発想そのものが世界初の試みといえるし、インターネット上にあらゆる銀行サービスを網羅している点も、同社の大きな差別化ポイントだ。加えて今後は、ネット上でいかにOne to Oneを実現し、フェイス・トゥ・フェイスに近付けていくかが課題となっている。
 エムタウンのビジネス・モデルは会員の会費収入でペイすることを基本としており(エムタウン支店への口座開設者の会費はエムタウン支店が負担)、事業計画上は開始3年間で100万口座、100万会員を目指す意向。またエムタウンの売上高は5年後に約20億円を想定している。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年5月号の記事