宣伝ではなく、“共感”を大切に商品の世界を楽しめるコンテンツを提供

サントリー(株)

商品ごとに、遊び心あふれるホームページを用意

 充実した内容で、高い人気を博しているサントリー(株)のホームページは、1995年9月のスタート。当初は同社広報部が中心となり、ニュースリリースなどを掲載していたが、96年4月より情報化推進部が運営を担当。広報部、宣伝部など関連部署の社員を集めてインターネット委員会を設置し、製品関連の各事業部門がコンテンツを企画するようリードしてきた。現在はウイスキー、ワイン、ビール、清涼飲料など、それぞれの事業部門がホームページを制作。しかも各部門のほとんどの商品にオリジナル・ホームページがあるという、非常に充実した作りとなっている。
 商品ホームページの内容も単なる商品紹介ではなく、商品のオリジナル壁紙やクイズなど、遊び心あるコンテンツを企画。さらに、ワインの買い方、選び方など、ワイン周りの情報を楽しくまとめた「e-WINE」、サントリーグループ企業の量飲店を1,000件ほどの中から検索できる「グルメガイド」、バーチャルでバーテンダーがお好みのカクテルを作ってくれる「WEB NiGHT BaR」など、商品の宣伝から離れ、純粋に顧客の楽しみを追求したページも数多く揃えている。
 そうした中でも今回注目したいのは、ウイスキーの魅力を紹介する「WHiSKY on the Web」と、ウイスキーの人気商品「無頼派」ホームページ。これらは、B to Cの意見交換を一部公開するなどのかたちで、コミュニティ機能を備えているのである。

イメージに直接訴える、説得力ある顧客の言葉

 「WHiSKY on the Web」は、新製品情報、キャンペーン&プレゼント情報のほか、専門家がウイスキーの楽しみを語るコーナーなど、6つのコンテンツを揃える。その中のひとつ「コミュニケーション」コーナーでは、テーマを設けて意見を聞く「私のウイスキーストーリー」、日常的に意見・質問を受け付ける「ウイスキーの広場」という2つの企画を用意している。
 これらはEメールで送られた顧客の声の中から、同社側で代表的なものをピックアップ、コメントを添えて紹介するもの。以前、同社では新製品が出る度に、同社の顧客リストに向けて案内メールを送っていたが、質問や感想が返信されてくるケースも多かった。そこで、双方向コミュニケーションのしくみをホームページ上で正式に構築すると同時に、価値ある顧客の生の声を、他の顧客にフィードバックすることを実現したわけである。
 特に、テーマを設けてウイスキーにまつわる体験を聞いた「私のウイスキーストーリー」は高い人気を博し、同社に大きなメリットをもたらした。
 企画を開始したのは2000年10月。ウイスキーとの出会いを聞く「出会い編」、好きになったきっかけを聞く「転機編」、楽しみ方を聞く「お付き合い編」と、1カ月ごとにテーマを変えて顧客の声を募った。その結果、ひとつのテーマにつき数百〜数千件もの応募が殺到。しかも1件1件が感動的な、非常に内容の濃いストーリー。ひとりひとりのウイスキー体験は、味、香り、雰囲気といったウイスキーの魅力を、ストレートに伝えてくるものだったのだ。「企業がその魅力を伝えようとすると、『熟成○年』など、どうしても専門的な内容に偏りがち。しかし、顧客自身の言葉はスペックなどでは説明できない“思い入れ”である分、強い説得力があります」(洋酒事業部 稲鍵恵美氏)。
 この点で、「私のウイスキーストーリー」は、ウイスキー愛好者に楽しみを提供すると同時に、製品のファンをつくる格好の宣伝ともなった。製品開発や広告のクリエイティブなどに役立つことは言うまでもない。

サントリーのトップページ(http://www.suntory.co.jp)。非常に多数のページを分かりやすく紹介している

サントリーのトップページ(http://www.suntory.co.jp)。
非常に多数のページを分かりやすく紹介している

「WHiSKY on the Web」のトップページ。ウイスキーの魅力を楽しめる6つのコンテンツを用意

「WHiSKY on the Web」のトップページ。
ウイスキーの魅力を楽しめる6つのコンテンツを用意

上の画面の「コミュニケーション」をクリックすると、ウイスキー体験や、ウイスキーに対する意見・質問を受け付けるページに

上の画面の「コミュニケーション」をクリックすると、ウイスキー体験や、
ウイスキーに対する意見・質問を受け付けるページに

「私のウイスキーストーリー」。顧客ひとりひとりの思い入れあるストーリーを丁寧なコメントとともに紹介

「私のウイスキーストーリー」。顧客ひとりひとりの思い入れあるストーリーを
丁寧なコメントとともに紹介

「無頼派」のコンセプトを存分に楽しめるコンテンツ

 一方、「無頼派」も、月平均で約20万ページビューを記録するほどの人気ページだ。特徴的なのは、商品自体の情報にはあまり触れず、「無頼派」のコンセプト、世界観をアピールしたエンターテインメントを中心としていること。
 たとえば、「無頼派度チェック」というチェックゲームや、「無頼派」的な生き方を面白おかしく説く「無頼派のススメ」、また「無頼派道場」というコーナーでは、利用者の「悩み相談」も受け付けており、ひとりひとりにハードボイルドでユーモアたっぷりのコメントを返信。正に「無頼派」の世界で遊べるようなコンテンツを揃えているのだ。
 実際の企画・運営は複数のメンバーで行っているが、あたかも強烈な個性をもったひとりの人間が、ページ上に存在するかのような作りもポイントだ。企業が主催するホームページと言えども、ネット上での関係はOne to One。顧客にとって相手が“企業”ではなく、顔の見えるひとりのパーソナリティとすることで、ホームページ、また同社に対して、親近感を抱いてもらいやすくしているわけだ。
 「無頼派共和国」という会員制サイトも存在する。利用するには、商品(無頼派)についているリーフレットに記載された“入国パスワード”かバーコードの数字が必要。つまり買った人だけが入れる、という顧客の特別感を高めるページとなっている。掲示板方式で顧客がメッセージを掲載し、気の合う顧客同士で専用メールを交換し合える仕組みもあるなど、より凝った内容だ。
 また、集客のしかけとしてバイラル・マーケティング(ウイルスが次々と感染するように、爆発的にサービスなどの利用者を増やすマーケティング手法)を採用していることも見逃せない。「B-Mail」というコーナーにおいて、顧客がホームページから友人などに絵葉書メールを送ると、送信者、受信者の双方にプレゼントが当たるチャンスを付与。また、興味をそそるファイルを用意し、それを友人などに送って受信者が開くと、自動的に「無頼派」ホームページに飛べる、といったものも用意している。
 宣伝ではなく楽しみを提供し、インターネット上の口コミも上手く活用した「無頼派」。発売は98年10月だが、インターネット上のみの告知・宣伝で、現在は年間6万ケース、72万本を売り上げる人気商品となっている。

ネット自体はハイテクだが、運営はアナログで人間的なもの

 以上のように、同社のホームページは、あくまで「お客様に楽しんでいただけるコミュニティを築くことが主目的」。それだけに費用対効果の測定は特に行っていないが、サントリー全体のホームページへのアクセス数は月間約600万、各ホームページも数万単位のアクセスを記録する。商品への関心を高めていることは、前述した「無頼派」の成功からもうかがえよう。情報化推進部 インターネット推進担当 坂井康文氏は同社ホームページについて次のように語る。
 「単なる広告ではなく、楽しみを提供して多くのお客様に喜んでいただくことがテーマです。しかし最も大切なのは、継続的にコミュニケーションが図れる仕組み作りだと思います。ネット自体はハイテクですが、その企画・運営はアナログであり人間的なものです。One to Oneのネット上で、サントリーの“顔”が見えるような『親近感』、また意見や質問を送ると、すぐ返事がくる『信頼感』を醸成することは、ブランディングにもつながるものではないでしょうか」
 実際、寄せられる意見・質問等には、同社を企業ではなく、ひとつの人格としてとらえたようなフレンドリーな文面が多い。同社はこれに応え、返信には必ず回答者の名前を記載しているという。
 顧客参加型のエンターテインメントで、継続的な双方向コミュニケーションを図る同社。顧客の声の製品開発などへの反映はもちろんだが、何より顧客の“共感”を大切に、今後はグループ企業も含めた、オールラウンドなサントリーの世界をアピールしていく意向だ。

人気商品「無頼派」のトップページ。オンザロックの動画をバックに「無頼派」のロゴが浮き上がる凝った作り

人気商品「無頼派」のトップページ。オンザロックの動画をバックに「無頼派」の
ロゴが浮き上がる凝った作り

「無頼派」的な生き方を楽しく説く「無頼派道場」。その「無頼派」ぶりが、思わず笑える

「無頼派」的な生き方を楽しく説く「無頼派道場」。
その「無頼派」ぶりが、思わず笑える

「無頼派」度をチェックするゲームのページ。うまくクリアすると「無頼派共和国」の“入国パスワード”がもらえる

「無頼派」度をチェックするゲームのページ。うまくクリアすると
「無頼派共和国」の“入国パスワード”がもらえる

楽しい絵柄を用意した「B−Mail」。メールの送信者、受信者ともに、プレゼントが当たるチャンスがもらえる

楽しい絵柄を用意した「B−Mail」。メールの送信者、受信者ともに、
プレゼントが当たるチャンスがもらえる


月刊『アイ・エム・プレス』2001年2月号の記事