Javaによるシステムの導入で営業活動の統合管理を実現

セゾン自動車火災保険(株)

「ごく普通」のドライバーを優遇

 セゾン自動車火災保険(株)の前身である米国オールステート保険会社日本支社は、1979年9月に設立された。1984年10月に現セゾングループ4社の資本参加を得て業界初の日米合弁会社となり、1997年11月にはオールステート社との合弁契約を終了、(株)クレディセゾンを筆頭株主に迎えた。そして1998年4月、社名を現在の「セゾン自動車火災保険(株)」に変更。同年12月には旅行業大手の(株)エイチ・アイ・エスと資本・業務提携を結び、自己資本の増強を図るとともに、事業基盤の拡大に乗り出している。
 同社は他社に先駆け、自動車保険分野で国内損保初のリスク細分型保険「セゾン自動車総合保険(A.P.S)」を1998年12月に発売。「ごく普通のファミリーユースのドライバー」の保険料を最大18%安くすることで差別化を図った。そのほかの新しい試みとしては1999年7月に、日常生活で起こるさまざまなリスクを補償対象とする暮らしの総合保険「あんしんチョイス」を発売している。
 1999年3月期現在の同社の元受正味保険料は160億6,400万円、経常利益は3億3,500万円となっている。

「中途採用」で即戦力を強化

 同社の販売チャネルは大きく分けて営業社員チャネルと代理店チャネルの2つから成る。収入保険料のうち3分の2を営業社員が、残りの3分の1を代理店が取り扱っている。
 同社は設立当初から「お客様に最も身近な損害保険会社であること」をモットーに、営業社員による対面・コンサルティング販売を営業展開の軸に据えてきた。首都圏近郊を中心に拠点を設け、地域に根差した営業活動を実現するため、営業社員はすべて各営業拠点ごとに採用している。
 営業部隊の即戦力の確保に重点を置く同社では、営業社員のほぼ全員が中途採用だ。さらにこれらの営業社員に対しては、入社後4年間にわたって、「ACDP(エージェント・キャリア・ディベロプメント・プログラム)」という初期研修用プログラムに沿った、商品や査定の知識の教育、営業の実践指導を実施。入社後、7カ月目と13カ月目には、各自の業績や経験度、適性に応じた研修を行っている。研修は東京・高田馬場にある「営業教育グループ」が担当している。

9業務を自動化

 生損保相互参入、保険料率の自由化、外資系や異業種の参入などにより経営環境が厳しさを増す中、同社は、中心的な販売チャネルである営業社員の日常業務の効率化と競争力の強化を目指し、1998年10月、営業支援システム「セールスシステム」(以下、SS)を稼動させた。顧客情報・契約内容などの情報管理、見積書兼申込書などの書類作成業務、活動予定やスケジュール管理など営業活動全体をまとめて支援し、自由化にともなう料率改定や新商品投入に迅速に対処することが狙いだ。1999年4月にはA.P.Sへの対応と全営業所への設置を終えている。
 企業規模が比較的小さい同社では従来、営業所から送られてきた書類の入力・審査・計上などの事務作業を本社で集約して行ってきた。しかし近年、インターネットの普及やIT(情報技術)の進歩、保険商品の複雑化にともない、業務の迅速性が求められるようになってきた。特に自動車保険では、車両入れ替えや転居などによる契約条件の変更が多く、細かいメンテナンスが必要となる。そのためには営業事務を各営業所で完結することが最も望ましいと判断した。
 SSの導入によって、①契約計上、②日計表作成、③成績管理、④契約照会、⑤顧客管理、⑥更改見積書作成、⑦新規見積書作成、⑧異動承認書、⑨事故の照会—の9業務が自動化された。
 SSの優れた機能として第一に挙げられるのは、自動車保険の見積書の作成と印刷のシステム化だ。同社では従来、申込書や見積書の作成は、営業社員が料率早見表やタリフ電卓をもとに手書きで行っていたが、SSにより、補償を拡大したタイプや前契約と同条件のものなど最大4つの契約パターンを自動的に試算し、見積書兼申込書を顧客に提示することができるようになった。
 第二は、見込客・既存顧客の管理強化。これまで営業社員が個別に紙ベースで管理していた見込客や顧客の情報を一元化し、タイムリーに引き出せるようにした。また、営業活動の履歴や契約内容の照会、提出した見積書の管理を、顧客や見込客ごとに行うこともできる。
 そして第三は、営業活動に必要な情報の個別提供が可能になったことだ。満期日が近い顧客や未入金のある顧客の情報をデータベースから自動的に担当者に提供し、その一覧を表示できる。
 SSを使う大きなメリットは、営業活動の統合的管理だ。これはSSが営業社員の基本活動を基に、彼らの意見を反映させて作られたことによる。顧客情報や契約内容など営業活動に関する情報や、見積書兼申込書などの書類作成業務を統合的に把握・管理することができるわけだ。
 そして事務処理の迅速性と正確さ。契約が締結された時点で、申込書(見積書)を作成したデータ(契約情報)を本社ホストに伝送することにより、契約計上処理に連動させている。これにより従来、本社事務サービスグループで行っていた申込書入力から計上処理業務がなくなり、事務処理の効率化・事務コストの削減と保険証券作成所要日数の大幅な短縮化が図られた。
 次に情報化(データ化)。営業プロセスを情報化(データ化)することで、営業担当者による多様な情報活用が可能となった。たとえば、更新手続時に最新の事故情報を取り込めるなどリアルタイムで情報を獲得できる。

【図表2】システム構成図

ネットで得た見込客情報を営業所に紹介

 営業支援のためのマーケティング活動として、同社の代理店であり親会社でもあるクレディセゾン(株)の会員にダイレクトメールで自動車保険「A.P.S」を紹介している。これに加え、今年2月からは、インターネットの自社サイトで、資料請求の受け付けを開始した。そこで得た見込客の情報を最寄りの営業所に自動的に送付することで、クロージングへの結実を目指している。すでに実績が出はじめており、今後はコンテンツのデザインを工夫するなどして、より一層資料請求を促進していく方針だ。このインターネットの仕組みとSSをリンクさせてセールス活動を促進することも検討している。

GUIの充実が課題

 一方、全営業所へのパソコン端末の設置台数は現在、約250台。4月には50台以上増設すると同時に、プリンターをデュアルにすることで、印刷の高速化を図る。
 システムは、アプリケーション・サーバにIBMの「RS/6000」、データベース・サーバに同社の「AS/400」、営業社員には携帯端末としてIBMのノートパソコン「シンクパッド560」を供与。保守の容易さから機種はIBMに統一している。そしてプログラミング言語にはサン・マイクロシステムズ社の「Java」を採用。3階層クライアント/サーバ・システムとなっている。
 これらの選定に当たっては、将来のモバイルでの利用を想定し、ダイヤルアップ接続に十分なレスポンスの確保も考慮された。
 SSは、金融基幹系の業務システムでははじめて、その開発・運用にオブジェクト指向のプログラミング言語「Java」を使用した。その理由は①開発・保守の生産性向上、②拡張性とポータビリティ、③3階層クライアント/サーバ開発の容易性—の点でJavaが優れていることにある。
 このシステムはIBMと共同開発したものであるが、この開発を通じてIBMより技術の移殖を受け、近い将来、同社システム部門のスタッフによる単独でのメンテナンスとシステム開発体制を目指している。
 インターネットを活用した営業支援システムの導入が広がる中、今後はネットワーク系のプログラム言語を扱える人材に対する需要が各社で強まると同社はみている。
 SSの今後の目標として同社は①使い勝手のさらなる向上、②メール機能の駆使、③モバイル環境の実現—を挙げている。
 同社は創業時から標榜してきた「カスタマーサービスをすべてに優先する」との経営理念の下、「お客様に選ばれる保険会社」を目指し、さらなる営業戦略の高度化を図っていく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年5月号の記事