コンタクトセンター最前線(第44回):お客様の声の活用は永遠のチャレンジ

日本コカ・コーラ(株)

1957年に米国ザ コカ・コーラカンパニーの全額出資により、日本飲料工業 (株)として設立した、日本コカ・コーラ (株) 。日本におけるマーケティング、 企画、 原液の製造・供給を行う同社では、 ダイレクトにお客様の声を聞き、 事業活動に活かす取り組みに力を入れている。

企業イメージの向上からリスク回避までを担う

 日本コカ・コーラがお客様相談室を開設したのは1991年8月のこと。それまで、担当地域別に製品の製造、および販売を行うボトラー社ごとに行っていたお客様対応を1カ所(東京・渋谷)に集約するかたちでスタートした。当初は、消費者情報室という名称だったが、2001年にお客様相談室に名称を変更し、現在に至っている。
 日本コカ・コーラ(株)とボトラー社とのビジネスの仕組み全体をコカ・コーラシステムと呼んでいるが、お客様相談室(以下、相談室)と各地域のボトラー社のお客様担当と連携して対応することが、強みのひとつでもある(図表1)。

0508-a1

 相談室の役割は次の3つである。ひとつ目は、電話、eメール、手紙を通じてクオリティの高いサービスと情報をお客様に提供することによって、コカ・コーラの企業イメージとブランド・ロイヤルティを高めること。2つ目は、重要で信頼性の高いお客様の声をデータ化して、関係各部署にレポートし、既存商品の改良や新製品の開発などコカ・コーラシステムのビジネスの進捗に貢献すること。そして3つ目が、お客様接点の最前線という特徴を活かして潜在的リスクを発見し、回避することである。
 以上のことからわかるように、相談室は単なる問い合わせ対応の場ではなく、お客様とのコミュニケーションの要となり、企業イメージの向上からリスク回避までを担う、重要な存在として位置付けられている。

話すより“聞く”

 相談室の開設から十数年が経ったが、この間、相談室を取り巻く環境は大きく変化してきた。
 まず、商品が変わった。機能性飲料が加わるなど多様化するとともに、容器も新たな形態のものが使われるようになった。そして、お客様の意識が変化した。食品メーカー全体への不信感や情報開示への要求が高まると同時に、気軽に相談したい、もっとよく、かつ早く知りたいと考えるお客様が増えている。インターネットの普及や消費者基本法や個人情報保護法の施行など、社会環境も変化した。
 加えて、コカ・コーラシステムのお客様は子どもからお年寄りまで年齢層が幅広く、相談室には老若男女を問わず、さまざまなお客様からの問い合わせが寄せられることから、より柔軟なコミュニケーションが必要だが、相談室では話すことよりも、お客様の話を聞くことを重視。コミュニケーションを通じてお客様の真意を汲み取り、お客様に合わせて対話することに努めている。
 また、相談室では、前述のようにコカ・コーラシステムを取り巻く環境の変化に合わせて、受付体制を強化してきた。
 相談室を開設した1991年には、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入。広くお客様の声を収集することを目的に、全国どこからでも通話料無料で電話をかけられる体制を整えた。1998年にはCTIを導入してコミュニケータのオペレーションをサポートすると同時に、受付状況をリアルタイムで把握、効果的な運営に向けた取り組みを強化した。また、ボトラー社と電話受付システムを共有することで、ボトラー社に寄せられたお客様の声も漏らさず入力できる体制を実現した。
 2003年には、携帯電話しか持たない若者が増えたことから、フリーダイヤルによる携帯電話対応を開始。2005年には、eメール対応を開始し、コンタクトチャネルを拡大した。

志気を高める秘訣はパートナーとの関係とコカ・コーラブランド

 相談室の受付時間帯は、土日・祝日を除く月曜から金曜日の9時30分から17時まで。25名のスタッフが対応に当たっている。
 このうちの3名はeメールと手紙の対応を担当しているが、コールが多い時間帯は電話応対を行い、取り逃しを最小限にとどめている。
 また、ご指摘など訪問が必要な場合は、地域のボトラー社へ連絡。密な連携を図りながら、対応している。
 取扱製品の特徴から、春と夏に問い合わせが多く寄せられる(図表2)。そのため、管理職以外はテレマーケティング・サービス・エージェンシーからの派遣スタッフを起用することで、業務の繁閑に応じたフレキシブルな受付体制を実現している。

0508-a2

 アウトソーシングには、テレコミュニケーションのノウハウがあり、適切な人材をアサインしてくれるというメリットがある反面、ノウハウが社内に蓄積しにくいとか、モチベーションの維持・向上が難しいという懸念も聞かれる。しかし相談室では、アウトソーシング先にニーズを明確に伝え、ともにひとつの目標に臨むことで、これらの負の要素をクリア。アウトソーシング先=パートナーとして、いい関係を築くことに成功している。現在のパートナーと仕事をするようになって約3年が経過した今も、当初からのメンバーが大勢勤務していることが、これを証明していると言えよう。
 また、相談室はコカ・コーラブランドを背負っているという意識がコミュニケータのモチベーションの向上に一役買っている。ブランドイメージや企業イメージに関する数々の調査で、常に上位にランキングされる同社だからこそ、お客様の「コカ・コーラだから」「コカ・コーラだったら」という期待値は高く、逆に、期待に応えられなかった時にお客様が感じる失望も大きい。相談室ではお客様応対がいかに大切なものかを指導しているが、そのことはコミュニケータ自身が日々の応対を通じてひしひしと感じてもいる。他社のコールセンターで勤務経験のあるコミュニケータはなおのことその重みを実感しており、これが誇りにつながっているという。
 相談室の運営は順調だ。受付チャネルの中でも、電話はかかってきた時に対応できなければ、お客様の満足は得られない。現在、相談室の応答率は約90%以上であり、お客様満足度調査でも良い結果が出ているという。

コンタクトのピークは春夏の半年

 同社では、年間約100種類もの新製品を市場へ投入している。中でも、大型製品はマスメディアやインターネットを駆使して大々的にキャンペーンを展開する。キャンペーン専用の問い合わせ窓口を設けているものの、お客様相談室にも問い合わせが寄せられる。問い合わせ件数は年々増加傾向にあり、相談室ではブランドの強み、そして新製品の手応えを感じているという。
 相談室に寄せられる総コンタクト数は、1日平均約300件。前述の通り、春から夏にかけてコンタクト数が増え、ピーク時には冬の2倍に及ぶ。
 問い合わせ内容の内訳は、製品に関することが45%、容器に関することが9%、その他が46%となっている。
 さらに詳細を見ると、製品については、製造方法や名前の由来、価格といった一般情報に関する問い合わせが最も多く、大半を占めている。また、容器については材質や安全性、その他についてはキャンペーンに関する問い合わせが比較的多い。
 相談室では、2003年からフリーダイヤルへの携帯電話からの着信を可能にしているが、その割合は総コール数の20%弱と、当初の予想通りとなっている。これまで、取り込めていない可能性のあったお客様の声をキャッチすることができるようになったと言えよう。

111

チームを組んで対応に当たっている。リーダー席からはコミュニケータの様子が見渡せるようになっており、コミュニケータが対応に困っている場合はスムーズに助け舟を出すことができる

製品の改善からキャッチコピーまで提案

 受付内容はすべて、データベースへ登録。相談室ではそれを精査して、マンスリーレポートとして社長をはじめ役員、関連部門、ボトラー社へフィードバックすることで、新商品の開発や既存製品の改善などに役立てている。同レポートは、アイテム別、ブランド別にまとめられ、改善が行われた場合は、その内容も盛り込んで報告される。
 これまでにお客様の声がきっかけとなって製品が改善された例は多々ある。
 例えば、製品ラベルへの成分とカロリーの表示が挙げられる。これは成分やカロリーに関する問い合わせが多く寄せられたことから、その情報へのニーズが高いと判断し、スタートした。
 また、ペットボトルのラベルを剥がすための点線を2本にしたのも、お客様の声を反映した結果だ。ペットボトルを捨てる際にラベルが剥がしやすいよう以前から点線が入れられていたが、それでも剥がし難いという声が寄せられたことから、より剥がしやすくするために改善したのである。
 このほか、お客様情報を分析し、CMや広告のキャッチコピーなどを提案するケースもあるという。

目的の達成に向けて

 同社にとって、相談室に集まったお客様の声を新製品の開発や既存製品の改善に結び付ける取り組みは永遠のチャレンジである。マーケティング部門や製品開発部門から求められていることでもあるため、今後もお客様情報を自社のビジネスに役立てていきたいと考えている。これにより、お客様のニーズを満たすことができれば、ひとつ目の目的であるコカ・コーラに対するロイヤルティが今以上に高まるに違いない。
 また今後は、より多くの情報が欲しいというお客様のニーズに応えるべく、Webサイトに掲載しているFAQを半年ごとに見直して充実を図る一方、パンフレットを作成・配布することで、受け身でない情報発信を積極的に展開していく意向だ。
 コカ・コーラお客様相談室は、お客様との重要な接点。これからもファンを裏切ることなく、製品のファンを会社のファンへと昇華できるよう、日々の業務に励んでいきたいとしている。    

111-2 HP

お客様の声の活用例。製品ラベルへの成分、カロリー表示(左)と、Webサイトに掲載されているFAQ画面(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2005年8月号の記事