コンタクトセンター最前線(第3回):顧客満足度の向上とセンターのプロフィット化を目指して

キヤノン販売(株)

1968年の設立以来、キヤノン製品の国内販売、およびそれに付帯する業務を担うキヤノン販売 (株) 。 同社お客様相談センターでは、顧客満足度の向上を目指して、①利便性の高い電話対応の実現、②複数の受付チャネルによるお客様とのコミュニケーション強化、③お客様の声の有効活用の3つに取り組んでいる。今回は、その具体的な取り組みと今後の展開について話を聞いた。

お客様相談センターを統合

 現在キヤノン販売(株)では、幕張と秋田の2カ所にお客様相談センターを設置。電話、eメール、FAX、手紙といった複数のチャネルを用いて、全国のお客様から寄せられるキヤノン製品に関する各種問い合わせ、および修理相談などに対応している。
 同社がこの受付体制を整えたのは1998年7月。以前は、全国9カ所(札幌、秋田、仙台、三田、大阪、名古屋、高松、広島、福岡)の支店にお客様相談センターを設置し、近県のお客様を対象に対応業務を行っていた。
 単なる一次受付機能しか持たないコールセンターであれば、高度な専門知識や応対スキルより、コールを迅速に的確なセクションに振り分けることが重視されるが、同社お客様相談センターの場合、キヤノン製品の購入を検討しているお客様からの込み入った質問をはじめ、修理相談など対応内容が広範囲に及ぶ。 加えて、プリンター、スキャナ、デジタルカメラなど同社の取扱製品が多岐にわたるため、オペレータには幅広い知識が不可欠とされる。一方、センター間の繁閑の開きが、オペレーションスキルのばらつきと運営効率の低下につながる。そこで同社では、受付業務を集約することでオペレーションスキルの均一化を図ると同時に、ローコスト・オペレーションへの切り替えに乗り出したのである。
 同社では、1995年よりNTTが公専接続サービスを開始したことをきっかけに、幕張本社と秋田支店間に専用線を引いた。このインフラを活用して、いったんコールを幕張で着信してから秋田に転送するかたちで受付業務を行えるよう受付体制を整備。1996年、秋田県に問い合わせ受付業務を専門に行う日本レスポンスサービス(株) (キヤノンソフト100%出資)を設立し、同社レスポンスセンターにお客様相談センター業務を委託することとした。これに伴い、順次、9カ所のお客様相談センターを閉鎖。1997年7月に最後に残った大阪センターを閉鎖して統合を完了した。さらに2002年1月、同社では日本レスポンスサービス(株)を完全子会社化。組織上の統合も図った。
 現在では、バブルジェットプリンターをはじめとする コンシューマー向け製品に関する対応業務を秋田お客様相談センターで、法人関係や販売台数の少ない製品に関する対応業務を幕張お客様相談センターで実施。また、電話、eメール以外の手紙やFAXへの対応業務や、コールセンターシステム全般の運営管理はキヤノン販売幕張本社内のレスポンスセンターが担っている。

ナビダイヤルを活用した新システムを構築

 コールセンターを集約したことにより、お客様の地域によって負担する通話料金が大幅に異なってしまったことを鑑み、同社では、1998年7月、全国にほぼ均一の料金でサービスを提供することを目的に、NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを活用した新システム「キヤノンお客様サポートネット」を構築した。
 ナビダイヤルとは0570ではじまる電話回線で、通話料金は基本的に発信者側が負担することになっているが、チャージ機能(迂回時差額負担機能)を利用すれば発信者(お客様)と契約者(企業)の双方で負担することができる。同社では、このチャージ機能を利用して、 全国の営業所、支店、本社の計64カ所にあるアクセスポイントまでの通話料金をお客様に負担していただいている。具体的に見ると、支店・営業所の同一地方局番からのコールは市内通話料金のみ。それ以外の地域からのコールは最も近いアクセスポイントまでの通話料金で済むように設定している。アクセスポイントからは、幕張もしくは秋田のお客様相談センターに自動転送される仕組みだ。
 また同社では、ナビダイヤルの付加サービスのひとつである全国共通番号サービスを利用することにより、効果的な告知を実現。併せてお客様が覚えやすく手軽に電話をかけられるなどの利便性も高めることができた。
 一般的にお客様相談センターではフリーダイヤルなどの着信課金サービスを導入する傾向が強いが、同社では「情報は有料」との考えから、通話料金をお客様に一部負担していただいている。また同社の場合、周辺機器の取り扱いが多く、パソコンに比べると商品単価が安いため、1対応当たりのコストが限られていたこともナビダイヤル採用の一因とな った。

約270名がお客様対応に従事

 ではここで、具体的な受付体制について見てみたい。
 まず秋田お客様相談センターでは、ワードプロセッサ、ファクシミリ、パーソナル複写機、レーザショットプリンタ、バブルジェットプリンタ、デジタルカメラなどの問い合わせに対応。受付時間帯は、平日9:00~12:00、13:00~18:00、19:00~21:00、土日・祝日は10:00~12:00、13:00~17:00までとなっている。
 次に幕張お客様相談センターでは、総合案内、複写機、カメラ、ビデオ、DTP、TV会議システム、液晶プロジェクタなどの問い合わせに対応。受付時間帯は、平日9:00~12:00、13:00~17:00で土日・祝日は休業となっている。
 スタッフ数は、幕張と秋田を合わせて約270名。このうち、オペレータとして実際の対応に当たるのは約200名となっている。
 前述の通り、対応内容が広範囲に及ぶため、オペレータにはオールマイティーな知識が要求される。そのため、新人の研修期間がおよそ2カ月と長期に及んでおり、同社ではこれを短縮することを課題としている。
 コールセンターシステムには、同社が独自に開発した「RC2000」を導入。主な機能として、①図表などの情報も含んだQ&Aの検索、②受付履歴、③修理受付の3つがある。システム全体のフローは図表1の通り。受付状況を見ると、1カ月当たりのコール数は約10万件。このうち、秋田が94%、 幕張が6%となっている。同社がセンター運営において留意している点は3つある。そのひとつ目は、クイックレスポンスを実現すること。2つ目は、個々のオペレータが自分の対応に責任を持つこと。例えば修理相談の場合、できることとできないことがある。どちらの場合でもきちんと説明し、納得してもらうと同時に、お客様が次のアクションを起こせるようにすることが大切だとしている。そして3つ目には、お客様のレベルに合わせて話をすることを挙げている。

0203-a図1

Webコールセンターの立ち上げ

 インターネットユーザーの増加に伴い、同社ではお客様自身による問題解決を推進するために、2001年3月よりWebコールセンターを始動した。これは、RC2000の機能をWeb上でも実現したものとなっており、Q&Aの検索、eメール問い合わせ受付、修理受付の3つの機能を、順次付加していった。
 まず最初に立ち上げたのが 、Q&Aの検索である。まず、2001年2月に「用途別ガイド」を作成した。これは「簡単活用ガイド」と「テクニックガイド」の2つに分かれており、前者には30件、後者には数件のQ&Aが掲載されている。現在、前者には月間1万件のアクセスがあるという。同社では2003年までに内容の充実を図る意向だ。
 次に、2001年5月より「サービス&サポート」というコンテンツを設けてQ&Aを掲載。現在同社では約2万件のQ&Aを保有しているが、お客様相談センターに寄せられるコールの80%が保有しているQ&Aの20%で対応できていることから、この20%に当たる4,000件をWeb上に公開することで、かなりのコール数が削減されることを期待している。
 現在、Q&Aへのアクセス件数は、1カ月当たり35万件に達している。Q&Aの効果は確実に表れており、これまで15%増ほどの比率で伸びていたコール数を前年比93%に抑えることができた。また、WebにQ&Aが掲載されている製品に関しては、前年同期比91%となった。
 続いて、同年10月末より、eメール対応をスタート。お客様がQ&Aを閲覧した後、Web上で解決できたか否かを問いかけ、「できない」のボタンを押すとeメールで問い合わせをするかしないかを選択する画面に切り替わり、「する」のボタンを押すとメールフォームが表示される仕組みになっている。
 スタート1カ月後には、1,200件のeメールが寄せられた。この対応は、幕張お客様相談センター内で専属スタッフが行っている。返信には電話の倍ほどの時間を要しているため、対応のQ&Aをベースに、より早く返信できる仕組みを構築中である。
 さらに、同年12月からは修理受付を開始し、現在に至っている。

写真1 NQ_G-1

左が秋田、右が幕張のお客様相談センター。実際に行う業務の違いによって、同じコールセンターでも随分と雰囲気が違うところが興味深い

さらなるお客様自身の自己解決を目指して

 このようにWebコールセンターへの誘導を促進する一方、同社では電話対応の効率アップを図るべく、2001年5月から既存のIVRの精度向上に着手。自然言語対応の導入に取り組んでいる。
 電話対応を人にゆだねている限り、これ以上のコスト削減を実現することは難しい。また、販売台数の増加に伴いコール数が増えることによって対応キャパシティーを超えてしまった場合には、顧客満足も損なわれてしまう。そこで同社では、Webコールセンターに加えて、電話対応の無人対応により、お客様自身が解決できる仕組み作りに注力しているのである。
 音声認識システムにはフィリップス社製のSpeech Maniaを採用。キヤノン(株)製の音声合成エンジンPure Talkと組み合わせて、合成音声で回答する仕組みになっており、バブルジェットプリンター、 スキャナ、デジカメ、ホームファックスの4種類に対応。受付時間外のみに利用している。現在、製品機種の認識率は90%。95%の認識率を目標にチューニングしている最中だ。2003年上期には、終日IVRによる対応をスタートしたいとしている。

プロフィットセンターになるためには…

 お客様相談センターでは、お客様とのコミュニケーションの中で得られた情報を各商品の開発・製造・品質保証、営業・技術などの関連部門にフィードバックすることで、より一層、ユーザー・フレンドリーな商品の開発とサービスの提供に役立てている。具体的には、RC2000に入力した受付履歴を、毎朝キヤノン(株)が導入している品質管理・分析ツール「CATS」に転送。このデータは品質本部で分析され、各事業部に伝達されるほか、開発部門や生産部門などが各自分析を行い必要なデータを抽出している。一方、お客様相談センターでは、問い合わせ内容に基づき対応Q&Aを作成。これをベースに、Webに掲載するQ&Aや、IVRに入力するQ&Aに活用している。(図表2)
 今後、同社では、お客様相談センターをコストセンターからプロフィットセンターへ転身させていく計画。インハウスコールセンターとしてだけではなく、他社の製品に関する問い合わせも受け付ける受託業務を行っていく予定だ。現在、短期間で終わるスポット業務に限って受託業務を実施しているが、今後はさらに事業規模を拡大していきたいとしている。

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月刊『アイ・エム・プレス』2002年3月号の記事