通信ネットワーク最前線(第60回):顧客情報を集約・分析・発信する仕組みを強化 お客さま価値の創造を推進

大阪ガス(株)

大阪ガス(株)では、1年3カ月を要して6カ所のお客さまセンターを2カ所に統合した。これにより、応対品質を高めるとともに、お客さまの声を業務改善に活かす機能を強化。より一層の顧客満足度向上を目指している。

お客さま価値の創造を目指してセンターの統合に着手

 大阪、和歌山、奈良、京都、滋賀、兵庫の6県、計630万戸にガスを供給している大阪ガス(株)。同社では、1999年に大阪ガスグループの10年後の指針となる2010年ビジョンを策定し、経営基本理念として「価値創造の経営」を掲げた。
 そのなかの大きな柱のひとつに「お客さま価値の創造」がある。同社では、お客さま対応の第一線であるお客さまセンターの品質を向上させることが、お客さま価値の創出・向上につながると判断。従来より注力していた迅速、かつ的確な対応をさらに強化する、対応レベルの均一化を図る、お客さまの声を一元的に集約することの3点を目的に、大阪、北東部、南部、京滋、兵庫の5事業本部・6カ所のお客さまセンターを統合。大阪と京都の2拠点に広域お客さまセンターを開設した。
 統合の最大の狙いは、3つ目のお客さまの声の集約だ。お客さまの声が分散することにより見過ごしてしまう事柄も、集約することで察知することが可能になる。お客さまセンターを統合することでお客さまの声を一元的に集め、その内容を分析し、業務の改善に役立つ情報発信をすることが経営の大きな狙いなのである。同社では、今回の統合に当たり、お客さまセンターを本社機能に吸収、本社お客さま部 お客さまサービス室とした。
 統合は、まずはじめに、大阪・北東部・南部の3地域から着手。1999年10月に大阪広域お客さまセンターを開設し、大阪事業本部の業務をスタート。次いで2000年8月に北東事業本部、2001年1月に南部事業本部を統合し、2001年1月より本格稼働に至った。その一方で、大阪広域お客さまセンター開設から7カ月後の2000年5月より、京滋・兵庫の統合に着手。京都広域お客さまセンターを開設し、京都事業本部の業務をスタート。同年11月に兵庫事業本部を統合し、京都広域お客さまセンターの統合が完了した。
 当初は1拠点とする考えもあったが、阪神大震災を経験しているため、災害対策を考慮。関西で地震が起こっても、同時に被災することはないと言われている大阪と京都を選定した。
 現在同社では、大阪広域お客さまセンターで390万戸、京都広域お客さまセンターで240万戸のお客さまからの電話に対応している。

4つの留意点

 同社では、以下の4つに留意して、広域お客さまセンターを開設した。
 まずひとつ目には、スキルアップ体制の確立が挙げられる。同社では、オペレーション品質を向上させるために、スーパーバイザーは教育に徹するというスーパーバイザー制を採用した。これは、コミュニケータ10人にひとりのスーパーバイザーが付き、常時モニタリングを実施。敬語の使い方や的確な回答がなされているかなどの品質をチェックし、改善点があればコミュニケータと1対1でアドバイスを行うというもの。同社ではスーパーバイザー、コミュニケータともに関連会社からの契約社員を採用しているが、企業の顔であるお客さまセンターの全スタッフを当初からアウトソーシングしてしまうのははばかられる。そこで、当面は統合前のお客さまセンターで受付業務を担当していた社員を出向させ、スーパーバイザー業務を担わせるというかたちをとった。
 2つ目には、新システムの導入による業務の効率化が挙げられる。以前、ピーク時においては、電話がつながらずお客さまにご迷惑をおかけすることがあった。そこで同社では、ネットワークACD(富士通(株)との共同開発)を導入。一方のセンターの回線がふさがった場合には、もう一方のセンターの空き回線にコールを転送することで、お客さまをお待たせしない環境を整えた。また、ネットワークACDの導入は、コミュニケータの稼働率の向上も狙いとしている。
 併せて、これまで使用していた独自開発の顧客管理システム「ハローシステム」を一新。新ハローシステムでは、より迅速な対応を実現するためにナンバー・ディスプレイを活用。着信とほぼ同時に、お客さま情報をコミュニケータ端末にポップ・アップさせる仕組みを整えた。加えて、お客さまとのコンタクト履歴一覧表示機能を付加することで、同社とお客さまのこれまでの接点はもちろんのこと、今後予定されている業務までわかるため、どのテレコミュニケータが対応しても馴染みのお客さまのように対応することができるようになった。
 3つ目は、防災対策である。1995年に起こった阪神・淡路大震災の経験があるがゆえに、建物耐震性・保安電源・保安空調・免震床・消火ガス設備など地震対策には注意を払った。
 そして4つ目は、セキュリティ対策の強化。お客さまセンターでは個人情報を扱うため、ICカードで入退室管理を行っているが、たとえ社員であっても、IDが登録されていなければ入室することができないようになっている。加えて、個人情報へのアクセスには、ACDのIDとパスワードの入力を必要とし、ACDのIDをもとにログ管理も実施。さらに、ブース内へのコートや大きなバッグの持ち込みを禁止しているなど、厳重なセキュリティ体制が敷かれている。

【図表1】

豊富な業務知識が必要な問い合わせには専門受付が対応

 両広域お客さまセンターの受付体制を紹介しよう。席数は、大阪・京都あわせて230席。大阪の方が若干多くなっている。スタッフ数は、コミュニケータが340名、スーパーバイザーが19名、専門スタッフが25名。受付時間帯は、8時から20時までとなっている。
 前述の通り、広域お客さまセンター開設の最大の狙いはお客さまの声の集約にある。同社では2000年8月より、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを導入し、お客さまが電話をかけやすい環境の整備に努めた。導入回線数は、両広域お客さまセンターとも161回線となっている。
 告知媒体には、新聞、テレビCM、検針表、インターネットを活用している。
 広域お客さまセンターには、料金、開・閉栓、機器修理、定期点検などに関する問い合わせが寄せられる。これらすべての電話には、まずはじめにコミュニケータが対応するが、同社では、ガス器具の使い方や故障診断、料金の仕組みなど、より専門的な問い合わせについては専門スタッフが対応する専門受付という方法を採用。現在、全コールの95%をコミュニケータが、5%を専門スタッフが対応しているという。同社ではCTIを導入することにより、コミュニケータから専門スタッフへの画面転送も容易に実現。専門スタッフはコミュニケータがどこまで回答したかが一目瞭然のため、その後の対応をスムースに行うことができる。
 サービス・レベルは、10秒(3コール)以内の応答率を95%、放棄率を2%以下に設定している。

最適な要員配置の秘訣は受付状況の正確な把握にある

 両広域お客さまセンターに寄せられる年間コール数は、220万件。内訳は、料金に関することが29%、閉栓が13%、開栓が11%、定保(3年に1度の定期点検)に関する日時変更などが9%、機器修理が7%、ガス工事が3%、その他が28%となっている。このほか、サービスショッ プには年間280万件の問い合わせが寄せられるという。つまり、同社に寄せられる年間コール数は500万件という膨大な数に及ぶ。
 受付状況を時間別に見ると、9時から10時までが圧倒的に多く、1日の約20%を占めている。また、曜日別では月曜日が最も多く、週末になるにしたがいコールは減少。さらに年間を通して月別で見ると、引っ越しや転勤の多い3月中旬から4月中旬が最も多く、2001年の3月中旬から4月上旬のコール数は、23万5,000件となっている。これはもっともコールの少ない8月の160%、年間総コール数の10.7%に当たる。同社ではこのように受付状況を事細かに把握することにより、夏の閑散期には、教育を強化するほか、スタッフに有給休暇を取ってもらうなどして、最適な要員配置を実現しているのだ。
 また同社では、約2年前よりウェブ・サイトを立ち上げ、ガスの開・閉栓、料金調べサービスを提供しているが、2001年5月におけるこれらの利用件数は、前者が480件、後者が350件で計830件。電話に比べればまだまだ少ないのが現状だが、年々増加しているという。
 インターネットでの受付状況も電話での受付状況もハローシステムに登録。現在は、電話、インターネットともに、コミュニケータが受付内容をハローシステムに入力し直しているが、将来的には、ウェブ・サイトからお客さまが入力した情報についてはダイレクトに登録されるようにし、作業の効率化を図る意向だ。

重要情報は早急に経営幹部にフィードバック

 お客さまからの電話の中には、クレームや要望もある。これらは、本社の代表電話に寄せられることもあるため、同社では、古くから本社にもお客さまセンターを設け、それらの対応に当たってきた。
 また、数年前よりお客さま満足度調査を開始。ガスの開栓、機器修理、広域お客さまセンターでの電話受付といったお客さまとの接点業務の後に応対態度、業務品質、お客さまの要望などについて電話でヒアリングを実施している。ヒアリング項目は、約20項目に及ぶ。
 以前同社では、これらの情報を個別に管理していたが、2001年2月、お客さまサービス室に集約する体制を整えた。なお、広域お客さまセンターで受け付けたクレームや要望については、コミュニケータや専門受付が端末に入力すると、自動的にお客さまサービス室に集約される仕組みになっている。
 お客さまサービス室ではその重要度を判断し、重要情報については即座に、社長を含む経営幹部からマネジャークラスまでの管理者に速報メールを配信。重要情報への対応は地区事業本部が行い、その結果を知らせる報告メールを配信している。重要情報以外のものは、お客さまの声データベース「C-VOICE」に蓄積され、全社員が閲覧できるようになっている。社員は、自分が担当している業務についてお客さまが感じていることや要望を知ることで、日々の業務改善に役立てているという。

西日本ダイキンコンタクトセンターのオペレーション風景 西日本ダイキンコンタクトセンターのオペレーション風景

広い長方形のフロアに百数十のブースが設けられている大阪広域お客さまセンターの様子。
ピンクとブルーのパーティションがセンター内の雰囲気を明るくしている


次なるステップへ邁進

 現在、両広域お客さまセンターは順調に稼働している。しかし、まだまだ課題も多く抱えているのが実際のところだ。
 今回のお客さまセンターの統合により、お客さまの声を一元的に集約し、「C-VOICE」を活用して情報発信していく仕組みはできた。同社では、次のステップとして、この有益な情報をもとに業務の改善を図るよう、関係部署に働きかけていくサイクルを作り上げていきたいとしている。
 お客さまセンターの統合にともない実現したことがもうひとつあった。それは、設備費・人件費の削減だ。しかし、売り上げや具体的な効果が見えにくいお客さまセンターは、コストセンターであることに変わりはない。現在、平均業務処理時間は通話時間とサービスショップや社員の出動手配などの後処理時間を含めて約5分となっているが、同社では、用件に見合った処理時間を実現して業務効率を向上することで、より一層のコスト削減を図る意向だ。加えて、インターネットの利用を促進したり、FAXなど他の受付チャネルを拡大するほか、IVRを導入するなどして、コミュニケータの業務を軽減していくことも必要であると考えている。
 また、応対スキルについては、コミュニケータ、専門スタッフそれぞれの弱い点を重点的に指導することで、全体の応対品質向上を目指していくという。コミュニケータにおいては、基本的な言葉使いや応対マナーはかなりのレベルにまで達しているため、今後は、お客さまとのコミュニケーションを深めて、よりよい提案をするために必要なコミュニケーション・スキルの向上に注力する方針。一方で、専門スタッフにおいては、ソリューション対応は優れているものの、基本的な言葉遣いや応対マナーに指導の余地があるという。
 さらに同社では、お客さまセンターの機能の拡充を課題に挙げている。現在、お客さまからの相談については、各地区の担当部署に電話を転送して対応を依頼する場合もあるが、JIS規格に沿って早急に広域お客さまセンターに相談機能を付加し、お客さまからのすべての用件に対応できる体制を整える意向だ。
 課題を挙げたらきりがないという同社ではあるが、2010年のあるべき姿に向かって一歩一歩確実に前進していると言えよう。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年9月号の記事