2019年12月28日
早いもので本連載も最終回を迎えることになった。これまでの連載を振り返ってみると、まずは第1回で日本におけるお客さま相談窓口の変遷をまとめた上で、第2回ではお客さまのペルソナ作り、第3回では顧客接点の開発・改善、第4回ではお客さまとの価値の共創、そして第5回では社内へのお客さま視点の醸成という観点から、お客さま相談窓口による消費者志向経営推進への取り組みを追ってきた。最終回となる第6回では、お客さま相談窓口と社内各部門との連携について考えてみたい。
そもそもお客さま相談窓口は、それ単体ではお客さまが抱える課題を部分的、あるいは一時的に解決するに止まってしまいがち。例えば通信販売会社のお客さま相談窓口がいかに優れた応対を行ったところで、購入希望商品の在庫が切れていたのでは、売り上げに貢献しないばかりか、お客さまの不満を招くことにもなりかねない。また、お客さまからの問い合わせ・クレームに直接的に対応するだけで、これらを招いた原因を放置すれば、同じことが何度となく繰り返されることになるだろう。つまり、お客さまが抱える課題を本質的に解決するためには、お客さま相談窓口のみならず、全社レベルでこれに取り組んでいくことが不可欠なのである。
数カ月前のこと、私はこれを改めて痛感させられる事態に遭遇した。ある日、インターネットを眺めていると、とある食品宅配会社が特別価格での“お試しセット”を販売するネット広告が目に飛び込んできた。詳細を確認すると、申し込みの締め切りまであと1時間しかない。急いで申し込みフォームに必要事項を入力して送信ボタンを押すのだが、何度、トライしてもエラーになり、申し込みを完了することができなかった。そこでお客さま相談窓口に電話をかけたところ、このキャンペーンは週替わりで展開されており、締め切り間際にはシステムがエラーになりがちなので、時間を変えて再度、申し込んでもらえないかというまさかの回答が返ってきた。
世間一般にブランドイメージの高い企業だっただけに、この対応が私の逆鱗に触れたのは言うまでもない。しかし、怒りを横に置いて考えてみると、そこにはスタッフの教育などお客さま相談窓口内部の問題のみならず、広告出稿部門やWebサイト構築・運用部門との連携が取れていないというより本質的な問題が浮かび上がってくる。
申し込みが締め切り間際に集中してトラブルが発生しがちなら、システムをパワーアップできれば理想的だが、これが難しいとしても、締め切り間際には広告出稿を控えることで申し込みの集中を避ける、あるいは関係部門と協議して万一の場合の対応をあらかじめ取り決めておくことで、見込客である私の心証は違ったのではないだろうか。
以上、私自身が最近、経験したケースに基づき、お客さま相談窓口と社内各部門との連携の重要性に言及したが、私が編集長を担う「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」に公開している企業事例の中にも、社内連携に注力している企業は少なくない。味の素 ※1 や花王 ※2、資生堂 ※3など、大手消費財メーカーのお客さま相談窓口は軒並みと言って良いほど、社内各部門を巻き込んでVOC活動を展開しているし、大和ネクスト銀行 ※4 などインターネット企業の問い合せ受付窓口では、お客さま相談窓口に寄せられる問い合せをきっかけにWebサイトのデザイン変更やシステム改修、コンテンツの修正・追加などを行っている。
消費者志向経営は、口で言うのはたやすいものの、一朝一夕で実現できることではない。その本質は、お客さまの視点に基づき企業が自己組織化し続けることへの組織を挙げてのコミットメントであり、そこでは日々、お客さまと対峙し、収集した情報を組織の隅々に伝えていくお客さま相談窓口が大きな役割を果たすと言えるだろう。
最後に本連載をご購読いただいた皆さまに心から御礼を申し上げる。
<注>
各社の事例は「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」上の下記ページをご参照ください。
※1 味の素の事例はこちら。
※2 花王の事例はこちら。
※3資生堂の事例はこちら。
※4大和ネクスト銀行の事例はこちら。
初出:消費と生活社『消費と生活』2019年5・6月号に若干加筆