通信ネットワーク最前線(第8回)

(株)資生堂

新コミュニケーションシステムの一環として、 本社「お客さま窓口」にフリーダイヤルを導入した(株)資生堂。その活用方法と今後の展開について話を聞いた。

新コミュニケーションシステムとフリーダイヤル導入の背景

 (株)資生堂がはじめて「お客さま窓口」を設けたのは戦後まもなくのこと。以後、営業部門・消費者課、広報室・消費者課を経て、 1987年消費部として独立。 1988 年にコンシュマーズセンターと改称。業務を拡充し、今日に至っている。
 現在同社では本社を東京に設け、本社コンシューマーズセンターおよび、全国 92支社に「お客さま窓口j を設置している。
 コンシューマーズセンターは、お客さまの立場に立って考え、お客さまの意見や要望をお客さまに代わって社内に伝える情報発信基地。同社とお客さまとのつながりをより深めるために、電話による相談に対応するほか、刊行物やセミナーを通じて美容・健康などの情報提供を行うコミュニケーション活動を推進している。一方各支社には、消費者担任と呼ばれる専任者がおり、それぞれの地域に密着したお客さまとのコミュニケーション活動に当たっている。それらの活動を取りまとめているのが、本社のコンシューマーズセンターである。
 本社「お客さま窓口」に寄せられる相談件数は、毎年約 20% ずつ増加してきた(図表1) 。その理由のひとつに、同社が市場へ送りこむ新商品が年間数百アイテムを上回ることによる、商品数の増加が挙げられる。もうひとつの理由は、お客さまの安全志向、ナチュラル志向の高まりによって、「成分」や「安全性」についてなど専門的な問い合わせが増加しているためである。
 このような中で、同社では、お客さま満足の向上、つまり、ひとりでも多くのお客さまの意見や要望に耳を傾け、対話を深め、店頭機能とお客さま窓口機能のより一層の充実を図る目的で、お客さま相談を支援する新情報システム「ボイスネットC」を開発した。それに合わせ、お客さまの負担を軽くし、お客さまに喜ばれる情報をより多く提供するために、 1996年4 月、本社の「お客さま窓口」にフリーダイヤルを導入。 1996年6 月、今までのお客さま情報の蓄積・分析システムをさらに強化した「ボイスネットC」のもうひとつの機能である、お客さま情報解析システムを導入した。

お客さま本位をさらに強化したシステム

 「ボイスネットC」は、①さまざまなお客さまの問い合わせに、スピーディーかつ的確に回答し、お客さまの満足を得ること、②お客さまから寄せられた相談や商品の評価を多角的に分析し、次期商品開発やサービスに生かすこと、③東京本社と全国 92支社で情報を共有化し、お客さまに喜ばれる商品・情報の提供に反映することを目的として開発されたシステムである。
 同システムには、お客さまから寄せられるさまざまな問い合わせに回答できるように、 「商品情報」「色調情報」「宣伝」「類似商品比較」「成分」「在庫状況」 から、 「A ファンデーションケースには、 B ファンデ一ションと Cファンデーションのレフィルが入るのでケースを買い換えずに使用できます」というようなことまで、あらゆる情報がデータベース化されている。お客さまからの問い合わせに応じて必要な情報を瞬時に引き出すことができ、お客さまからの電話に応対しながらリアルタイムで情報を入力することも可能だ。さらに、データベース化されたお客さま情報を 「属性」「件数推移」「件数順位」などさまざまな角度から分析、検索、加工できる機能を備えている。

よりスピーディに、より確実な情報提供を実現

 「お客さま窓口」に寄せられる問い合わせ・相談には、専任のオペレーター23 名がシフトを組んで対応している。以前は、お客さまからの問い合わせには、社員 10名が対応していたが、問い合わせ件数の増加とともに、スタッフすべてを社員でカバ ーするのは難しくなった。しかし、オペレーターには高度な商品知識と対応スキルが求められる。そこで、同社では、近隣の支社のビューティーコンサルタントの OGの中からスタッフを募集。改めて新商品の知識などについての研修を実施するとともに、「ボイスネットC」の導入によって、これまで経験や伝承によって培われてきた個人のスキルを均質化したばかりでなく、すべてのオペレーターがこれまで以上にお客さまの満足が得られる情報を提供できる環境を整えた。
 今から約 3 年前は大代表のみの受け付けで、 10名のオペレーターが午前9時から午後5時まで営業時間内で対応していた。しかし、相談件数の増加とともに回線数を増設し、現在の受付回線数はフリーダイヤル 15 本、一般加入回線の大代表3本、直通 l本の計 19本。受付時間も平日の午前9時から午後7時までに延長された。
 問い合わせ内容は、ブランド比較、効果、使用手順、成分、取扱店の情報など商品に関するものが大半を占めるが(図表2)、最近ではサンプル請求が増加している。これは、商品購入前に詳しい商品知識を得て、なおかつサンプルを試用した上で購入したいというお客さまが多くなったためである。
 平均通話時間は約 200秒。 「ボイスネットC」 の導入によって、これまでの問い合わせ履歴を見ながら「前回お試しいただいたサンプルはいかがでしたか?」などと問いかけができ、お客さまとのパーソナルなコミュニケーションが可能となった。また、フリーダイヤルはお客さまに通話料金の負担がかからないので、時間を気にせずに話をすることができる。そのため、商品の問い合わせをきっかけに、話題が美容相談にまでおよぶこともあり、相対的にみると通話時間は長くなってきているという。特に地方のお客さまからは「フリーダイヤルにしてくれてありがたいわ」という声がよく聞かれるという。
 問い合わせをしてくるお客さまの年齢層は、 10代から 60~70代までと幅広いが、20代~ 30代が最も多く、 約5割を占める。問い合わせが集中する曜日は月曜日。時間帯は午前中、 および、午後2 時~ 4時となっている。夕方午後6 時以降も比較的多いという。
 「ボイスネットC」の導入により一層レベルアップされたお客さまへの情報提供は、同社への理解とお客さまとの関係をより深めるだけでなく、商品購入の動機付けにもなり、結果として、チェインストア 2万 5,000店、これ以外にも同社の商品を取り扱うコンビニエンスストアなどを含めると、トータルで約 6 万店にもおよぶ店舗のサポート機能も果たしているのである。

図表1 図表2

フリーダイヤルの告知方法

 同社では、フリーダイヤル番号を一斉に全商品のパッケージに記載したり、テレビCMで告知することを避け、新商品、リニューアル商品から徐々にフリーダイヤル番号を記載するという方法をとった。これは、コール数が急増して対応しきれない場合に、かえってお客さまに迷惑をかけてしまうといった事態を防ぐためと、従来の電話番号を記載した商品が店頭で販売されているため、お客さまの混乱を招かないようにとの配慮からであった。同社の商品数は約 3,000アイテムを数えるが、現在では一部の旧来商品を除いたほとんどの商品にフリーダイヤル番号を記載している。
 商品以外の告知媒体としては、新聞、雑誌、テレビ、インターネットを利用。雑誌は女性誌に限らず、商品のターゲットや、新商品の告知か企業広告かなど目的に合わせて、男性誌や総合情報誌も利用している。また、同社がインターネットにホームページを開設したのは 1995 年 10月。コンシューマーズセンターからの情報発信やお客さまから E メールで寄せられた問い合わせに応える場としても活用している。アクセス件数は 1 日当たり約5万件。月に数日は10万件を超えることもあるという。

“お客さま窓口”のオペレーション風景

“お客さま窓口”のオペレーション風景

お客さま情報の有効活用

 同社では、オペレーターが日々の電話応対の中で、お客さまにアンケートや新商品のモニター協力を依頼している。これを承諾してくださったお客さまを「ボイスネットC」に登録。現在、登録者数は約 1,500名を上回るという。この中から 2 カ月に1回程度、お客さまの好みや肌の悩み、現在使用している商品などの条件によって対象者を絞り、改良品や新製品のサンプルをアンケートと同送し、使い心地などの感想を聞いている。アンケートの回収率は非常に高く、 7割を超える。また、回収したアンケート用紙には、 回答欄からはみ出すほど、びっしりと意見を書いてあるものも多いという。
 同社におけるお客さま情報の収集方法は、電話での 「お客さま窓口」に加え、店頭でビューティーコンサルタントが収集する 「お客さまの声カ ード」 、消費者セミナーでアンケートはがきを配布して収集する「ボイスメール 」 、モニターを核に1,500 人の評価を収集する 「セルフ商品評価」、「インターネット」の合計5つ。これらから年間に収集できる情報件数は、順に 8万件、 11 万件、 1万件、 5,000件、 1,000件である。
 これらの方法で集められたお客さま情報は毎月集計、分析され、トップをはじめ研究部門、商品開発部門、 生産部門などの関連部門にフィードバックされる。その中で、改善、改良が必要とされるものについては、コンシューマーズセンターが主催する CS打合会や関連部門の会議で検討される。
 お客さまの声が実際の商品に反映された例のひとつとして、「箱や容器の表示をわかりやすく」というお客さまの声に応え、エリクシールスキンケア商品の表示を大きく見やすくしたことが挙げられる。また、「無添加の自然化粧品を使いたい」という要望から、自然化粧品 「ナチュラルズ」が開発された。お客さまの声をもとに既存商品に改良が加えられたり、新商品が誕生した例は数えきれないほどあるという。
 また、「お客さま窓口 」 と「お客さまの声カード」から収集された情報は、①問い合わせ、②提案、③プラス評価、④マイナス評価、⑤その他に区分され「ボイスネットC」に蓄積。社内で共有化しており、各関連部門に設置された端末を通じて、いつでも、誰でもが検索、加工して活用することができる仕組みになっている。
 同社では、現在のところ本社、研究所、工場に導入している 「ボイスネットC」を、全国の支社にも導入する予定である。 これにより、各支社においても今まで以上に親密なお客さまとの対話が可能となる。
 今後も同社では、お客さま情報を積極的に収集し、より質の高い商品やサービスの開発につなげる「お客さま発」 のマーケティングを目指し、店舗活動を支援するお客さま情報の蓄積・分析システムのさらなる強化に努め、 お客さまにとって価値のある商品と情報の提供を実施していく方針である。

ボイスネット


月刊『アイ・エム・プレス』1997年5月号の記事