O2Oの究極の姿としてリアルとネットのシームレス化を目指す

(株)東急ハンズ

「東急ハンズ」「ハンズ ビー」などの小売店舗を運営する(株)東急ハンズは、ソーシャルメディア施策との連動によりスマホを活用したO2Oを展開。今後は「Online からOffline へ」というベクトルとは反対の、「Offline からOnlineへ」の取り組みにも注力していく。

“クリック&モルタル”の時代からネットとリアルの融合に注力

 1976年8月に設立。同年11月開店の藤沢店(2006年12月閉店)を皮切りに全国各地で「東急ハンズ」を展開し、住まいと住生活・手づくり関連の製品・道具・工具・素材・部品の総合専門小売業という新たな小売業態を日本に定着させた(株)東急ハンズ。「ここは、ヒント・マーケット。」をキャッチフレーズとする同社では、2013年3月現在、東急ハンズ28店舗(FC店舗含む)のほか、「ハンズ ビー」(提案型ライフスタイルショップ)21店舗、「アウトパーツ」(カバン、革小物・トラベル用品専門店)1店舗などを展開している。
 店舗小売業を展開する同社では、そもそもインターネットのマーケティング活用自体が店舗への集客を主目的にスタートしたもの。“クリック&モルタル”が注目を集めた時代から、オンライン店舗とリアル店舗に物流システムを組み合わせ、相乗効果を図る同様の施策を積極的に推進してきた。
 その中で同社では、O2Oを広義では“リアルとネットのシームレス化”であるととらえている。この考えに基づき、例えば2012年12月に実施したオフィシャルネット通販「ネットストア」のリニューアルにおいては、ネットストア内の在庫情報だけではなく、リアル店舗の在庫も確認可能にしたり、リアル店舗での売れ筋商品をリアルタイムで表示し、ネットで詳細を見ながらそのまま購入できるシステムを導入したりといった施策を展開してきた。
 一方、ネット上でのコミュニケーションをいかにリアル店舗の集客につなげるかという狭義のO2Oにおいては、いかにスマートフォン(以下、スマホ)を活用していくかが大きなテーマとなっている。
 一般的にO2O施策におけるスマホの活用としては、スマホをデバイスとして展開される顧客とのコミュニケーションの中でクーポンを配布し、主に価格面での訴求を行うかたちが主流になっているが、同社ではこのような形態でのスマホ活用には注力していない。その理由としては、店舗数が限られているため、クーポンの効果が発揮されるエリアが限定されることに加え、もともと東急ハンズという店舗自体が価格訴求型ではなく、面白い商品と出会ったり、商品について店舗スタッフに相談したりできる点が顧客に評価されていることが挙げられている。同社では今後も、あくまでもコミュニケーションの充実に軸足を置いて、O2O施策を展開していく方針である。

ソーシャルメディア施策との連動によりスマホを活用したO2Oを実現

 スマホを通じた顧客とのコミュニケーションという意味で同社が注力しているのが、ソーシャルメディア施策との連動である。
 同社では、従来からソーシャルメディア施策に積極的に取り組んできた。2009年7月にTwitterの公式アカウントを取得して運用を開始。その後、2010年12月にはFacebookページを開設、さらに2011年8月には(株)ミクシィがサービス提供を開始したばかりのmixiページも開設するなど、精力的な活用を続けている。2013年3月現在、Twitterについては4万3,000人以上のフォロワーを集める公式アカウントのほか、広報アカウント、ネット通販「ハンズネット」のアカウントを運用。これとは別に札幌、銀座、梅田、広島、博多などの各店舗も独自アカウントを運用している。また、Facebookページにおいても18万人以上のファン(「いいね!」)を獲得。最もスタートが遅いmixiページでも7,500人近くのフォロワーを獲得している状況だ。
 そうした中、ソーシャルメディアでのコミュニケーションを活発化させる施策の代表例としては、Twitter上を舞台に2010年3月にスタートした「コレカモ.net」が挙げられる。
 コレカモ.netとは、ソーシャルメディアからふと思いついたモノや欲しいモノを投稿すると、在庫検索カモ型ロボット「コレカモさん」が、おすすめ商品の在庫状況を答えてくれるTwitter連動型ネットサービスである。ソーシャルメディア時代におけるユーザー・コミュニケーションのあり方を模索する中で、Twitterの公式アカウントに寄せられるツイートの約7割が「○○がありますか?」といった商品在庫への問い合わせであったことから、「いっそ、在庫情報の開示をしてしまえばよいのでは」という発想で開始したもの。2012年7月にはFacebookを経由して利用できる新アプリケーション「フェイスブック de コレカモ.net」も公開されている。
 コレカモ.netの最大の特徴は、公式アカウントとは異なり、あくまでもソーシャルメディア上で展開されるコミュニケーションとして“フランクさ”を基本にしていることだ。ユーザーからの“気軽な”問い合わせに対して、なるべく的確な回答ができるようデータベースの整備などは随時行っているが、もともとの問い合わせに「こんな感じのものはないかな」といった曖昧なものも多いため、その精度には限界がある。しかし、仮に的外れな回答になってしまったとしても、それがユーザーと同社、さらにはユーザー同士のコミュニケーションのきっかけになればよいという観点から運用を続けているのだ。
 主にスマホをデバイスとして展開されるこのようなコミュニケーションが、顧客の商品への興味・関心を深め、リアル店舗への来店を促進していることは想像に難くなく、その意味でスマホを活用したO2Oが効果を上げていると評価することができるだろう。

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ネット通販「ネットストア」のトップページ(2013年3月現在)

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オンラインでの“接客”を目指すTwitter@TokyuHands

「OfflineからOnlineへ」のO2Oにも注力

 このような取り組みに加えて同社が注目しているのが、「OnlineからOfflineへ」という一般的なO2Oとは反対のベクトルの、「OfflineからOnlineへ」というO2Oだ。
 もともと、同社のネットストアは店舗展開をしていないエリアの顧客をターゲットにスタートした。しかし実際の利用状況を見ると、顧客は店舗立地エリアの居住者が多く、重い・かさばるなど、持ち運びが不便な商品などを中心に、リアル店舗で商品を確認して、ネットストアで商品を購入するといった動きも顕在化している。
 このような動きが同社内のリソースの中で完結すれば望ましい状況であると言えるが、今後は同社店舗で商品を確認した後に、ネット上で価格比較などを行い、外部のネットショップから商品を購入する、いわゆる“ショールーミング”といった現象が増加するリスクも考えられる。そこで同社ではこのリスクの回避を図るため、2013年夏に、店頭での商品確認を経てネットストアで購入する購買スタイルをサポートするスマホアプリの提供を開始する予定だという。
 さらに、いわゆるC2C(Consumer to Consumer)のプラットフォームとして、2012年2月から渋谷店で展開している、プロからアマチュアまで多くの作家の作品を展示・販売する「ハンズ・ギャラリー マーケット」などの取り組みについても、Webでの展開を加えて重層化していくことを検討。このような動きを通じて、同社の目指す広義のO2Oである“リアルとネットのシームレス化”を加速していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年5月号の記事