2010年末からTwitterのマーケティング活用に取り組んでいる(株)ニッセンでは、2012年4月、新たなTwitterアカウント「ニッセンカスタマーサポート(@nissenCS)」の運用を開始。同アカウントによるアクティブサポートにより、お客さまの不満解消に努め、離反防止を図っている。
コミュニケーションに軸足を置いたTwitter活用で高い成果を獲得
わが国を代表する通信販売企業の1社として、婦人服を中心とした衣料品、インテリア雑貨、和装品などのインターネット・カタログ通信販売を手掛ける(株)ニッセン。同社では2012年4月、新たなTwitterアカウントとして「ニッセンカスタマーサポート(@nissenCS)」を立ち上げ、アクティブサポートへの取り組みを開始した。
同社がTwitterへの取り組みを開始したのは、日本国内でTwitterの普及が本格化しつつあった2010年末ごろ。当初はプロモーションを目的に商品情報やセール情報の配信などを行っていたが、期待していたほどの反応が得られなかったことから、2011年1月に検討チームを発足し、2011年6月から大幅に方針を転換して、見込客を含むお客さまとの中長期的なコミュニケーションの確立を目指した展開へと軸足を移した。その結果、Twitterを介した同社とお客さまとのコミュニケーション量は徐々に増大。現在、公式アカウントである「ニッセンオンライン(@nissen)」は4万7,000人以上のフォロワーを集めるまでになっており、双方向の活発なコミュニケーションが展開されている。ちなみにこのアカウントでは、運用担当者の“スミス”氏(33歳・男性)が、同社や同社商品とは直接関連のないツイートにも応対することが話題となっている。例えば、「ラピュタ(スタジオジブリ作品『天空の城ラピュタ』に登場する空中都市)への行き方を教えてください」というツイートに対して、「ラピュタに行くには空から女の子が落ちてくるのを待つか、特務に入って青二才呼ばわりの大佐になるか、空賊になるかです。どれも安易な道ではありませんが、そんなあなたの決断をカタログ通販のニッセンは全力で応援します」といったユニークかつ真摯な返信を実施。お客さまの問いかけに耳を傾け、これに正面から向き合って、お仕着せのない対話を心がけている結果としてこのようなツイートが生まれたのだが、これが4,200以上のリツイートを促し、情報の拡散による話題づくりにもつながった。
このように、わが国における企業のTwitter活用の成功例を生み出してきた同社が、新たな活用方法として2012年4月からスタートしたのがアクティブサポートである。
お客さまの不満の把握・抑制と負の拡散の防止を目的にアクティブサポートをスタート
同社におけるこれまでのTwitter活用の目的は、前述の通り、お客さまとのコミュニケーションであったが、アクティブサポートにおいては、お客さまの流出防止が大きな目的となっている。
通信販売において、離反防止は言うまでもなく大きなテーマだ。新規顧客の獲得には多大なコストがかかり、顧客を獲得しても一定期間・回数の利用がなければ採算性の確保が難しいという現状の中で、いかに離反を防止して長期間にわたって利用を続けてもらうかが収益性を大きく左右する。そのカギを握るポイントとして、いかに早い段階でお客さまの不満を解消するかが挙げられる。
従来、同社ではこの点について、電話やWebサイトのお問い合わせフォームを通じて寄せられるお客さまの声や、独自に運営する商品レビューサイト「ハピテラ」に寄せられるレビューコメントに、直接または間接的に対応するといった対処を行ってきたが、このようなかたちで同社に直接コンタクトするお客さまは全体からするとごく一部である。一方、Twitterをはじめとするソーシャルメディア上には同社に関連する情報が数多く流通しており、その中でも特にネガティブな情報については、そのお客さま自身の不満に加え、拡散してマイナスの波及効果につながる可能性も考えられる。
このような認識から、同社では、ソーシャルメディアの中でも特に多くのユーザーを持ち、情報の拡散効果も高いTwitterを対象にアクティブサポートを行い、Twitterユーザーであるお客さまの不満の解消に努め、負の拡散を防止することとしたのだ。
このような経緯から、同社のアクティブサポートは、従来からTwitterアカウントの運用を行っているマーケティング部門のスタッフではなく、同社のコンタクトセンターであるコミュニケーションサービスセンター(CSC)のスタッフが担当している。
コールセンターと同様、営業時間と担当者名を明らかにし、丁寧語で対応する「ニッセンカスタマーサポート」のアカウント
施策効果検証のための指標設定が今後の課題
CSCのスタッフは、電話やeメールなどを通じたお客さまとのコンタクトを数多く経験しており、高いレベルのコミュニケーションのスキルやノウハウを保有している。従って、Twitter上でのコミュニケーションについても大筋において問題はないが、Twitterにはソーシャルメディアとしての特有の文化や雰囲気があり、電話やeメールでのOne to Oneのやり取りがそのまま通用するわけではない。そこで同社では、CSCのスタッフの中でも個人的にTwitterを頻繁に利用しているなどソーシャルメディアとの親和性が高い人材を選抜。さらに、CSCのルールやガイドラインをアレンジしたソーシャルメディア用の詳細なルールやガイドラインを作成。これに基づいて、Twitter上で実際にやり取りのシミュレーションを繰り返す“100本ノック”などを実施するなど、入念な準備を行った。
このような経緯を経て、現在、アクティブサポートはスタッフ5名体制で、平日の10時から17時まで行っている。なお、対応時間を平日の昼間に限定しているのは、現状ではユーザーのツイートに対応する投稿を行う際に、上長の承認を得ているためだ。今後は難易度の低いものから現場への権限委譲を進めていく方針で、現場裁量を拡大することでパーソナリティを生かしたファンづくりを一層強化する。
サポートの対象とするツイートを抽出するためのツールとしては(株)プラスアルファ・コンサルティングの「カスタマーリングス」を導入。“ニッセン”“nissen”のほか、発行している各種カタログ名などをキーワードに月間1万5,000 ~ 2万件程度のツイートを抽出し、その中で前後のツイート履歴などから対象となると判断された1,000 ~ 1,500件程度のツイートに対して、アクティブサポートを実施している。なお、対象となるツイートについては「苦情」から「賞賛」まで、シチュエーションを6つ程度に分類し、それぞれのシチュエーションに合わせた対応を行っているとのことだ。
同社マーケティング本部 CRM推進部 ソーシャルメディアチームのセクションマネージャーである柿丸繁氏によると、アクティブサポートの開始から数カ月という短期間ながら、これまでCSCにはなかなか寄せられなかった「賞賛」の声や、商品以外のサービス面への不満・意見を把握できるなど、すでにいくつかの成果が発揮されているという。今後の課題は、施策効果を検証するための指標をどのように設定するかだ。具体的な方法論については検討中であるが、PDCAサイクルの下、定量的・科学的なデータの把握・検証をベースにビジネスのブラッシュアップを図るというダイレクトマーケティングの基本原則に則って、施策がブランド価値にもたらす影響度などを把握し、最終的には、再購入率や離脱率、注文金額、LTVなど、財務面への効果についても検証する仕組みを構築していく考えである。