1日平均100件前後のアクティブサポートで顧客コミュニケーションを強化

アスクル(株)

オフィス用品通販サービス「アスクル」を展開するアスクル(株)では、東日本大震災をきっかけにTwitter上でアクティブサポートを開始。当初は同社への不満や意見への対応が中心であったが、その後、軸足をサポートからコミュニケーションに移し、ユーモアを交えたやり取りで“アスクルファン”の拡大を図っている。

東日本大震災を契機にアクティブサポートを開始

 1993年3月に大手文具総合メーカーであるプラス(株)の一事業部としてオフィス用品通販サービス「アスクル」をスタートした後、プラスグループの一員として1997年5月に分社・独立したアスクル(株)。スタート当初、数百点であった取扱アイテム数は、最近では26万アイテム以上にも及んでおり、業績面でも2012年5月期の売上高(連結)が2,129億3,200万円と創業以来初めて2,000億円を突破。中小事業所を主なターゲットとするオフィス用品通販サービスという業態を日本のマーケットに定着させている。
 同社がアクティブサポートに取り組むきっかけとなったのは、2011年3月の東日本大震災であった。
 同社では2011年2月にTwitterの運用を開始。お得な情報やキャンペーンなどを発信する「アスクル公式Twitterアカウント」(@askul_com)と問い合わせを受け付ける「アスクルお問い合わせセンター」(@askul_cr)の2つのアカウントでの運用を始めていた。ところが、東日本大震災によって配送体制などが大きく混乱したことに加え、顧客対応のメインチャネルである電話(「アスクルお客様サービスデスク」)やeメール(Webサイトの「お問い合わせフォーム」)に問い合わせが集中したため、Twitter上でも問い合わせを受けることにしたのだ。
 このように緊急事態への対応というかたちでスタートした同社のアクティブサポートは、当初はイレギュラーな体制で運用されていた。しかし、震災対応がある程度落ち着いた2011年7月には「アスクルお客様サービスデスク」を管轄する「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント」部門の社員2名が担当となり、他の業務との兼務ではあるものの、平日の9 ~ 18時に常時1名が対応に当たる体制を整え、現在に至っている。
 アクティブサポートの対象としているツイートは、“アスクル”や“ASKUL”という単語を含み、かつ前後のツイートなどから判断して、何らかの対応を望んでいると判断されるもの。そのほか、同社がTV番組「カンブリア宮殿」に取り上げられた際には“カンブリア”という単語を含むものなど、その時々のトピックスに関連するツイートも対象としている。
 なお、ツイートを抽出するためのツールとしては、現在、(株)プラスアルファ・コンサルティングが提供する「カスタマーリングス」を使用。このツールにより対応履歴を蓄積することで、より中身の濃い対応を実現している。

「SNS 共通ガイドライン」に沿ったコミュニケーションを展開

 “アスクル”“ASKUL”といったキーワードで抽出されるツイートは1日平均300件前後。その中で、重複するアカウントや、例えばIR情報に関するものなど対象としてそぐわないものを除いた約100件前後のツイートを対象に、アクティブサポートを行っている。なお、前述の通り、アクティブサポートの開始当初は震災対応という側面が強かったため、同社に対する不満や意見など、ネガティブなツイートへの対応が大半を占めていたが、その後、震災対応がある程度収束して以降は、ネガティブなツイートの件数自体が減少したことから、同社に対する何気ない“つぶやき”への対応が相対的に増加。これに伴って、アクティブサポートの主な目的も、不満や意見に対応する“サポート”から、やり取りを通じて親近感を醸成し、ファン化を図る“コミュニケーション”へと軸足が移っており、現状ではコミュニケーション目的の対応が7 ~ 8割を占めている。
 アクティブサポートにおけるコミュニケーションは、独自に策定したガイドラインに沿って行われており、言葉遣いは基本的に敬語をベースとし、対応相手に合わせて多少フランクな表現を用いることもある。また、Twitterのタイムライン上では個人情報を含むやり取りは行わないようにしており、配送状況の確認など個別対応が必要な場合には、Twitterのダイレクトメッセージで「お問い合わせ番号」を知らせてもらうか、「アスクルお客様サービスデスク」やWebサイトの「お問い合わせフォーム」に誘導するといったかたちで、クローズドなチャネルでの対応を行っている。
 また、SNSを通じて発信した情報は、同社の“公式見解”としてとらえられ、広く世間に流布される可能性が高い。そこで、例えば “環境問題”などといった“専門的な”内容のツイートには、担当者が単独で判断して投稿せずに、担当者間、または上長と相談して投稿を行うようにするほか、やり取りが長期化しそうな場合にはTwitterの140文字のコミュニケーションの中では十分に対応ができないことを伝え、必要に応じて前述したようなクローズドなチャネルへの誘導を図っている。
 なお、対応主体については、架空のキャラクターを設定するようなことは行っておらず、固有名詞(氏名)は明らかにしていないものの、実在の女性社員が対応していることを明確化。ビジュアルも本人の写真(顔の下半分を同社のカタログで隠している)を使うことで、リアリティを演出している。

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「アスクルお問い合わせセンター」(@ askul_cr)では、実際に応対に当たっている社員の写真をアイコンに使用

ユーモアを交えたやり取りで“アスクルファン”を拡大

 アクティブサポートの効果については、特にコミュニケーションを目的とする対応が増えた現在では、定量的な検証は難しいと感じている。例えば、フォロワー数などについても、いたずらに増やすことはコミュニケーションの密度を薄めることにつながると考えており、あまり重要視していない。
 一方、定性的な部分では、Twitter上で飛び交う同社に関連する情報の有効活用という点でさまざまな効果が表れつつある。
 同社ではもともと、「アスクルお客様サービスデスク」やWebサイトの「お問い合わせフォーム」に寄せられるVOCを社内にフィードバックする仕組みを持っていたが、アクティブサポートをきっかけとするやり取りについては、その概要をこの仕組みに乗せるほかに、やり取りをそのままのかたちで社内ポータル上に掲載し、全社で共有する体制を構築。各部門の担当者は、それを日常的に閲覧している。
 また、お客さまとのコミュニケーション強化という面でも一定の効果が表れつつある。例えば、「アスクルのカタログがデスクトップPCのディスプレイの台としてちょうどいい」といった、一見、同社にとってマイナスとも思えるツイートに対して、「やってみました」というツイートとともに、実際に複数冊のカタログをディスプレイの下に敷いた写真を投稿した際には、ユーモアのある対応が共感を呼び、多くのリツイートにつながったという。同社では今後もTwitterをコミュニケーション・ツールとして活用することで、“アスクルファン”を拡大していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年10月号の記事