健康をテーマとしたECサイトを運営するケンコーコム(株)では、創業当初からレコメンデーションに取り組んできた。2009年からはASPサービスと自社システムを併用するかたちでレコメンデーションを拡充。お客さまに不快な思いをさせることなく健康に役立つ商品をお薦めし、自然なかたちでお客さまの購買意欲を促進しようと、細心の注意を払っている。
1日18万人が訪れる 健康ECサイトに成長
ダイレクトメールによる単品通販を経て、2000年5月に健康をテーマとしたECサイト「ケンコーコム」を立ち上げたケンコーコム(株)。以来、同社ではお客さまの健康づくりに貢献するために、豊富な品ぞろえを追求してきた。
現在では、健康食品から医薬品、化粧品、ベビー&キッズ、家電、ホーム&キッチンに至る14カテゴリー、約12万点を取り扱い、取扱商品数を増やすことで全体の売り上げを底上げするロングテール戦略を軸にリテール事業を展開している。
取扱商品が幅広いため特にターゲットを定めてはいないが、実際にECサイトで商品を購入している顧客の属性を見ると、平均年齢40歳、男女比は4対6で女性客の割合が多いという。
また直近の年度における出荷件数は215万件、売上高は125億円に上る。なお、2010年9月には、ECサイトオープンからの累計出荷件数が1,000万件を突破した。
一方、1日18万人が訪れるという集客力を生かしてメディア事業も展開している。サイト上で商品をより詳しく紹介することを目的とした企画広告、「商品PRページ」、新商品などのサンプルを“0円で購入”するスタイルで、適切な生活者に効率良く届ける「商品サンプリングサービス」などを通じて、サプライヤーの販売促進を支援。
並行して、ユーザー発信のコンテンツを盛り込んだブログポータル「ケンブロ」とレビューサイト「ケンコミ」を運営し、味や使用感といったユーザーの率直な感想を発信することで、企業発信の情報を側面から補助している。
同社の事業展開は海外にも広がっている。2009年10月には100%子会社kenko.com Singapore Pte Ltdにおいて、世界に向けてのEコマース事業を開始。同年に施行された改正薬事法により国内での販売ができなくなった、第1類、第2類の医薬品や、輸入サプリメントなども手掛けている。また、2010年1月には健康メガショップ「ケンコーコム」の英語版サイトをオープンした。
購買履歴に基づき商品をお薦め
創業当初からCRMに力を入れていた同社では、ECビジネスへ事業を転換した当初から、レコメンデーションを行ってきた。レコメンデーション・ロジックの詳細については非公開だが、後藤玄利社長がカタログ通販時代から積み重ねてきた併売分析をベースとしたもの。なお、このシステムは自社で開発したとのことである。
お客さまに商品をお薦めするタイミングとしては、まずお客さまがログインすると、トップ画面に「○○○○様へのお薦め」と題して、購買履歴に基づいたお薦め商品を紹介。次に、お客さまがお目当ての商品を探している最中に閲覧する商品ページの最後に「こんな商品も一緒に買われています」というメッセージとともに、お薦め商品のテキストリンクを3~4点表示している。ただし、取扱商品数の増加に伴うリニューアルのため、ログイン時のレコメンデーションは休止中とのこと。
そしてもうひとつ、メールマガジン(以下、メルマガ)でも購買履歴を活用したレコメンデーションを行っている。同社のメルマガは、お客さまに買っていただくことよりも、読んでいただくことに主眼を置いて編集されており、同社が取り扱う商品ジャンルの記事を組み合わせて7つのパターンを作成。購買履歴に基づき、どのお客さまに、どのパターンのメルマガを配信するかを決めている。従って、個々のお客さまの購入商品の傾向が変わると、配信されるメルマガの内容も変わる。
レコメンデーションを実施するに当たり、同社では次の2点に留意している。ひとつは、商品を押し付けないこと。例えば、送料が無料になる金額まで購入してもらおうと、不足金額分の商品をお薦めするといったことは行わない方針だ。
もうひとつは、お悩み商品にかかわるレコメンデーション時の配慮である。同社のECサイトでは、水虫や育毛剤をはじめとする各種お悩み商品が数多く売られている。しかし、その悩みの深さは一様でなく、また、レコメンデーションに対する受け止め方も人それぞれ。お客さまが不快に思うことのないよう、細心の注意を払っているとのことである。
自社システムとASPの併用でレコメンデーションを拡充
同社では、2009年にレコメンデーション専門企業として知られる(株)ALBERTのASP型レコメンデーションシステム「おまかせ! ログレコメンダー」を導入した。
同システムは、サイトを訪れたユーザーが商品を閲覧した際と購入した際のデータを取得し、その商品とほかの商品との関連性を探し出し、関連性の高い商品をお薦め商品として推薦する仕組み。これを使って、商品ページでは商品情報の下に「一緒にチェックされている商品」を、買い物かごの画面では画面右側に「一緒に買われている商品」を表示している。
なお、前者はアクセスログに基づくお薦め商品であり、これまで同社が実施していたレコメンデーションにはない新しいお薦めの仕方だ。例えば、ハッカ油を検索したお客さまに、ハッカ油のスプレーやレフィルといった同シリーズの商品や、ほかのブランドのハッカ油をお薦めしている。
これは、過去にハッカ油のページを閲覧したお客さまの自然な行動に基づくお薦めのため、お客さまが普段は意識することのない無意識のつながりで商品を見せることができ、押し付けではない自然なレコメンデーションが可能となる。
つまり同社では、これまで独自のシステムにより培ってきたノウハウを生かすと同時に、大量のログデータの分析と活用はレコメンデーション専門のASPに任せることで、お薦め機能の充実を図ったのである。
2009年から(株)ALBERTのASP型レコメンデーションシステムを導入している
サイト内の検索性が一段と高まる
サイトを利用したユーザーが、その時に比較したり買ったりした商品の情報は、ほかのユーザーにとっても役に立つ。これらの情報を活用したレコメンデーションにより、同社のサイト内における検索性が高まったことは大きなメリットだ。これによりお客さまの満足度アップが期待できる。
また何よりも、より効果的なお薦めが可能になったことで、売り上げのアップにもつながっているようだ。これらの背景には、ロングテール戦略に基づく豊富な品ぞろえがあると言えるだろう。
なお、同社では今後も、お客さまに不快な思いをさせることなく、健康に役立つ商品をお薦めしていく意向。自然なかたちでお客さまを買いたい気持ちにさせるためにも、日々蓄積される大量のデータに基づき、ロジックを整理し続けていく構えである。