顧客接点を増やし“声に出されない”VOCも収集

(株)ニューバランス ジャパン

ユーザー一人ひとりの足にフィットするシューズを提供する「ウイズサイジングシステム」を展開する(株)ニューバランスジャパンでは、電話やWebサイトを通じてVOCを収集するほか、専用計測器による足形計測で“声に出されない”VOCも収集し、製品改良やマーチャンダイジング、販売店スタッフの啓発などに活用している。

一人ひとりの足にフィットするシューズを提供する「ウイズサイジングシステム」を展開

 1906年、米国ボストンでアーチサポートインソールや偏平足などを治す矯正靴のメーカーとして誕生したニューバランス社。社名は、履いた人に“新しい(new)、バランス(balance)”感覚をもたらすことに由来している。(株)ニューバランスジャパンはこのニューバランス社の日本法人として1988年12月に設立。翌1989年1月から営業を開始した。
 主力製品はランニングシューズ。そのほか、ウォーキング、アウトドア、フィットネス、テニスなどに特化した各種シューズとその関連製品、およびアパレルを取り扱っており、スポーツ用品店、スポーツシューズ専門店、大手靴販売店などを通じて販売している。
 同社製品はプロスポーツの世界でも高く評価されており、マラソンでシドニーオリンピック2位などの実績を持つエリック・ワイナイナ選手(ケニア)、著名な登山家の野口健氏を契約選手とするほか、ランニング、トライアスロン、テニス、アメリカン・フットボールなど、さまざまな分野でモニター選手も数多く抱えている。また、最近ではランニング文化の普及を目的として、現在、タレントの間寛平氏がチャレンジしているマラソンとヨットで地球を一周する「アースマラソン」をサポートし、注目を集めている。
 個人の足は千差万別で、同じ足長の足を比較したとしても、肉付きが薄く細い足もあれば、甲高で太い足もある。このような異なる形状の足に、同じ足長の同一のシューズを合わせてみても、ゆるかったり、きつかったりということが起こってしまう。同社ではこのような認識から、足長だけでなく、足囲(ウイズ)でもシューズを選ぶことができる独自の「ウイズサイジングシステム」を展開し、一人ひとりの足にフィットし、その運動能力を最大限に引き出すシューズを提供している。つまり、量販メーカーでありながら、個々のユーザーにフィットする製品をきめ細かく提供している点が同社の大きな特徴と言えよう。
 このシステムを展開するためには、ユーザーのニーズや足タイプがどのように分布しているかを、常に把握することが必須である。実態に合わない商品展開を図ったのでは、品不足や在庫過剰という事態に陥ってしまうからだ。そこで、同社では従来からユーザー情報を獲得するためのさまざまな試みを行ってきた。

専用計測器による足形計測で“声に出されない”VOCも収集

 現在、同社においてVOC(顧客の声)収集経路の中心となっているのは、電話による問い合わせを受ける「お客様窓口」である。
 「お客様窓口」の電話番号は、製品パッケージに記載するほか、Webサイトでも紹介している。問い合わせの内容は、雑誌などに掲載した製品について、購入可能店舗を尋ねるものなどが多いが、例えば「右足の中指に血豆ができた」「数回の使用でソールがはがれた」などのクレームが寄せられるケースもある。そのようなクレームは、すぐに企画・開発部門に情報が伝えられ、素材や生産ラインの見直しなどに役立てられている。
 そのほか、同社主催・協賛のランニング関連イベントなども、VOC収集のための重要な機会となっている。このようなイベントでは同社のスタッフが正しい走り方やシューズ選びのポイントなどをアドバイスしているが、その場での参加者の反応が製品づくりのヒントとなるケースも多い。
 さらに、協賛マラソン大会の特設ブースや同社製品の取扱店店頭などで行っている、専用計測器による足形の計測も、潜在的なVOCを収集する機会だ。計測結果では足形にフィットしていないシューズを選んでいるケースが多く、まだ顕在化していないもののジャストフィットするシューズへのニーズが高いことを示している。いわば、「ジャストフィットするシューズを求める“声に出されない”VOC」と言うこともできるだろう。このような結果は、整理された上で同社製品取扱店スタッフに伝えられるなど、同社製品の特性を啓発するための参考情報として活用されている。

ランニング関連情報を提供するWebサイトを運営

 同社では、ユーザーとの直接的な接点を強化する試みとして、Webサイト「NB RUNNING CLUB」の運営を行っている。
 同サイトは2008年7月、(株)ウイングスタイルが運営するジョギングに特化したSNS「ジョグノート」とのコラボレーションにより開設されたが、2009年3月、コラボレーションを解消し、独自展開のWebサイトとして新たなスタートを切ることとなった。
 サイトの目的は、近年、東京マラソンの人気が高まっている影響などで急増している、ランニングを始めたばかりの「ニューランナー」層をメインターゲットに、ランニングとランニングシューズ関連の情報を提供することを通じて、同社に対する親近感を醸成すること。さらに、ほかのスポーツのトレーニングの一環と考えられることが多く、また、継続が難しいランニングに関して、特に初心者が必要とする情報を提供することで、楽しくランニングを続けてもらい、ランニングシューズのマーケット全体を拡大することも狙っている。
 コンテンツは、同社スタッフによるランニング関連情報が満載のブログ「NB RUNNING BLOG」、シューズガイド、協賛マラソン大会のレポート、マラソンを効率よく走るための“フラット走法”の紹介など。そのほか、マラソンの記録を入力するだけで10km、ハーフ、フルマラソンの目標タイムが手軽にチェックできるブログパーツの提供も行っている。
 「NB RUNNING CLUB」は誰でもアクセスできるオープン型のサイトだが、会員登録(メールアドレスの登録)を行うと、新製品発売情報や「NB RUNNING BLOG」のトピックスなどを内容とするメールマガジン「NBランニングクラブ通信」が月1回配信される。2009年8月現在、会員数は約5,000人で、同社ではこの会員をコアなファンと見ている。
 同サイトでは、問い合わせフォームを用意し、VOCの収集を図っているが、スタートから間もないこともあり、現状ではその絶対数はさほど多くない。今後、サイトの知名度アップなどにより、VOC収集装置としての位置付けもさらに高めていく意向だ。
 なお、同社では年1回、インターネット調査を行い、ブランド認知度などを計測しているが、現状では、競合ブランドとの比較などにおいて満足できる結果が得られていない。そこで今後は、さまざまな機会で露出を増やし、認知度を高めるとともに、「NB RUNNING CLUB」の運営などを通じて、同社のコアなファンを獲得し、それらの層からの自発的な情報発信を促すことなどにもチャレンジしていく方針である。

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さまざまなコンテンツが満載の「NB RUNNING CLUB」ランナーに対するサポートも充実


月刊『アイ・エム・プレス』2009年10月号の記事