おサイフケータイの活用で搭乗前の手続きを簡素化

全日本空輸(株)

日本最大級の国内路線網を持つ全日本空輸(株)は、おサイフケータイを使って待たずにチェックインできる「スキップサービス」を提供。忙しい出張族を中心に好評を得ている。また同社では、モバイル向けのWebサイト「ANA SKY MOBILE」を開設し、搭乗前から着陸後まで利用できるシームレスな旅客サービスにも注力している。

積極的な運営で国内最大の路線網を獲得

 全日本空輸(株)(ANA)は、国内ローカル輸送を一本化する政府方針に基づき、民間航空会社2社の合併により1957年に創立された。純民間航空会社である同社は、その後多くの中小航空会社との合併により路線網を拡大させていった。また、その時に最新鋭機を多数導入するなど、積極的な運営により事業を拡大、いまや国内線では日本最大級の路線網を誇り、わが国を代表する航空会社グループに成長を遂げた。2009年6月期における国内線月間旅客数はANAグループで約302万人に達している。
 なお、当初は国内線を主軸としていたが、1986年からは国際線定期便の運航を開始、2009年6月末現在では月間30万人以上の利用がある。
 同社は、「『安心』と『信頼』を基礎に、価値ある時間と空間を創造します、いつも身近な存在であり続けます、世界の人々に『夢』と『感動』を届けます」の基本理念の下、日夜研鑚を続けており、旅行会社や旅行雑誌などが行う人気アンケートなどにおいて常に高評価を得ている。
 また、2004年にはボーイング社の最新鋭旅客機であるB787型機をローンチカスタマー(launch customer:航空機メーカーに対して、新たな航空機の製造開発を踏み切るに十分な規模の発注を行い、その新型機製造計画を立ち上げる後ろ盾となる顧客)として50機発注、世界で最初の導入を予定するなど、創立当初から変わらぬ積極的な運営が評価を得た。
 加えて、新サービスの積極的導入、効率的な経営努力が評価された結果、2007年にはエアー・トランスポート・ワールド(ATW:民間航空業界の月刊誌)誌上で、エアライン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

さらなる利便性の追求が生み出した「スキップサービス」

 新型機やスーパーシートの導入など、機内環境向上への取り組みは、出張族などのビジネスパーソンを中心に好評を得ているが、搭乗前の利便性を向上させる新たなサービスとして2006年9月に導入されたのが、おサイフケータイやICチップ(FeliCa)内蔵のマイレージカードを使用する「スキップサービス」である。これは保安検査場・搭乗口でのチケットレス化を実現したもので、搭乗手続の大幅な時間短縮効果をもたらしている。同社ではスキップサービスの導入に併せ、おサイフケータイ向けアプリのダウンロードサービスを開始、ダウンロード数は現在まで約100万件に達した。
 スキップサービスは、誰でもモバイルやPCの専用サイトから、自分の購入した航空券情報を入力するだけで利用できるもので、このサービスを利用すれば、当日はおサイフケータイひとつで搭乗が可能となる。
 搭乗日は、出発時刻15分前までに保安検査場、10分前までに搭乗口で読取装置にタッチするだけなので、大幅な時間短縮が可能だ。行楽や帰省などで空港の受付カウンターが混み合うシーズンでもスムーズに搭乗できる点が、特に忙しいビジネスパーソンには好評を博している。
 当初は利用方法がわからず戸惑う乗客も見られたが、TVCM・Webサイト・機内誌などでの周知が徹底したことや、1回利用すればすぐに覚えられる簡単な手順のため、最近ではそうした乗客はほとんど見られなくなった。また、再利用率が極めて高いことから、スキップサービスはすっかり乗客に根付いていると言えよう。
 なお当初は、“預ける荷物”を持っている乗客はスキップサービスを利用できないという制約があったが、その後、手荷物カウンターにも読み取り装置を設置したことで、現在は預ける荷物があっても利用できる体制が整っている。
 また、ANAのマイレージに未登録の乗客や、おサイフケータイ・ICカードを持たない乗客に対しては、PCからの印刷・携帯での表示・自動チェックイン機から出力されるQRコードを用いることで、スムーズなチェックイン・サービスを提供、あらゆる乗客の利便性向上を目指している。

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ケータイひとつでチェックイン、利用客の評価が高い「スキップサービス」

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預ける荷物があっても大丈夫、ケータイをかざすだけで手続き完了

モバイル向けサービスを充実 ケータイひとつで旅に

 同社は前述のスキップサービスの導入などを通じて、ケータイの持つ無限の可能性に気付き、さらなるサービスの提供を開始した。そのひとつが、同社のモバイル向けサイト「ANA SKY MOBILE」のコンテンツとして、今年4月からスタートした「モバイル旅達(たびだち)空間」である。
 これは、旅先でのおすすめ情報をチェックしたり、写真や情報をストックしたりできるPC向けのサイトで展開しているいわば画像投稿機能付きSNSをケータイでも閲覧できるようにしたもの。
 これまでにもモバイルから参加できる旅行に特化したSNSはあったが、「モバイル旅達空間」の場合は参加メンバーが出張族などの旅慣れた「旅達」会員をはじめ、ANA客室乗務員やツアー添乗員であるというところが特徴である。取って置きの口コミ情報や会員の投票による人気ランキングなどが満載で、サービス開始から3カ月と日が浅いにもかかわらず、毎月1万件以上の口コミが寄せられている。また、5月からはGPS機能にも対応、会員が訪れている周辺の情報を優先的に表示させるなど、サービス向上に余念がない。同コーナーには、「旅達」(入会金・年会費無料)に登録している人なら誰でもメンバー登録ができる。
 同社ではこれまでも、予約内容や出発時刻といったフライト案内をメールで知らせる「メールインフォ」、空港内での待ち時間を退屈せずに過ごせるようオリジナルのゲームなどを提供するアミューズメントや、旅のエキスパートである客室乗務員のおすすめ情報や仕事の裏側を紹介する「ANA latte」など、さまざまなケータイ向けサービスを提供してきた。今後も引き続き、旅の前・途中・後、すべてに対するサービスを充実させることで、ケータイひとつあれば旅が楽しめる社会の構築に注力していく意向である。

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モバイル旅達空間の豊富なコンテンツ


月刊『アイ・エム・プレス』2009年9月号の記事