国内最大級のホテルチェーン・アパホテル( 株) では2007年4月、おサイフケータイを同社の会員カード「アパカード」として利用できる「アパホテル会員証アプリ」のサービス提供を開始。これによりモバイルサイト内でのホテル検索、宿泊予約からチェックインまでがケータイでの操作に集約され、会員の利便性は飛躍的に向上している。
おサイフケータイをホテル業界最大規模の会員カードに
1980年に設立し、1984年オープンの金沢ファーストホテル(現アパホテル〈金沢片町〉)を皮切りに、2009年7月末現在、北海道から沖縄まで全国71カ所で「アパホテル」「アパヴィラホテル」「アパホテル&リゾート」ブランドをはじめとするさまざまなホテルを運営するアパホテル(株)。総客室数が1万7,000室以上(2009年開業予定ホテルを含む)に上る国内最大級のホテルチェーンである同社では2007年4月、おサイフケータイを同社の会員カードである「アパカード」として利用できる「アパホテル会員証アプリ」を開発、サービス提供を開始した。
アパカードは同社が第1号ホテルオープン当初から発行している会員向けポイントカード。ホテル事業において当初からチェーン展開を志向していた同社が、複数施設にまたがるリピート利用を促進することを目的に発行を開始したものだ。
入会はチェックイン時に申し込むだけで、入会金は1,000円(2009年7月現在はキャンペーン中のため無料)・年会費無料。記帳なしでのチェックイン、宿泊料金定価の10%割引に加え、宿泊利用100円につき1ポイント、直営レストラン・ゴルフ場利用200円につき1ポイントのアパポイントを付与し、500ポイントで5,000円をキャッシュバック、または6,000円分のグループ共通利用券を進呈するという特典が好評を博し、2009年6月末現在、会員数は約263万人と、ホテル業界でも最大規模を誇っている。なお、ポイントは発行の翌々年末まで最大3年間有効というシステムで、2008年にはキャッシュバック総額が数億円に達するなど、いわゆる出張族などを中心に実利用率も高い。
さらに同社では、2006年12月からビットワレット(株)との提携によりアパポイント300 ポイントを2,000円分の電子マネー「Edy」と、2008年8月から家電量販店最大手の(株)ヤマダ電機との提携によりアパポイント300ポイントを「ヤマダ電機WEB.COMポイント」2000ポイント(2,000円相当)と、それぞれ交換できるサービスを開始するなど、その魅力の向上に余念がない。
アパホテル会員証アプリは、このアパカードにおいて、従来から使用しているプラスチック製の磁気カードをおサイフケータイに置き換えるものであり、専用端末にかざすだけでチェックインできる仕組みを提供することなどにより、その利便性を一層高めるものとなっている。
ホテル検索から支払いまで一連の流れをケータイで
同社では、従来からホテルの検索・予約におけるケータイの可能性に着目しており、2005年には本格的にモバイルサイト「アパホテルモバイル」を立ち上げ、さらにその利便性を高めるべく、恒常的にリニューアルを図っている。その結果、現在では同社グループ実績の約3%に当たる月間約1万泊がケータイからの予約になっており、今後はさらにその比率が増加することが予想される。
一方アパカードについては、ポイントカードが世の中に氾濫する中で、せっかく所有していても来館時に携帯していなかったり、紛失したりする会員が存在し、また、発行から年月が経ったカードでは、劣化により磁気情報の読み取りに支障が生じ、再発行が必要になるといった状況があった。
アパホテル会員証アプリは、常時携帯されているケータイをアパカードにすることで、会員が確実にそのメリットを享受できるようにするとともに、アパホテルモバイル内でのホテル検索、宿泊予約からチェックインまでの一連の流れをケータイでの操作に集約し、会員の利便性を一層高めることを目的とするものと言える。さらに、同社ホテルでは「Edy」決済も行っているため、おサイフケータイで「Edy」を利用している会員は、決済までもケータイで完結することが可能だ。一方、同社としてもカード発行が不要となることからコスト削減につながるとともに、現代社会のエコ志向にも合致するものと言えよう。
同社では現在、アパカード新規入会時にアパホテル会員証アプリの利用を推奨するほか、既存会員の宿泊時などにもフロントでプラスチックカードからアパホテル会員証アプリへの移行を促している。ちなみにアパホテル会員証アプリへの移行については、モバイルサイトにおいてインターネット会員登録をした上で、登録済みの会員番号とパスワードを入力するだけで完了する仕組みであり、通信費を除いて追加費用は発生しない。
なお、現状ではおサイフケータイ自体の利用になじみがない会員も多いことから、まだまだプラスチックカードを利用している会員の比率が高いが、アパホテル会員証アプリを利用している会員では、その利便性が非常に高く評価されており、同社では今後アパホテル会員証アプリへの移行が加速していくものと期待している。
将来的にはルームキーとしての利用も
同社では、前述のようにモバイルサイトの恒常的なリニューアルを行っており、今後も、例えばPCサイト上で好評を博している希望の部屋を指定予約できる〈AAA〉(アパオートアサイン)システムのモバイルサイトへの導入を図ることなどにより、その魅力を一層高めていく意向である。同時に、これらの取り組みによってアパホテル会員証アプリ利用会員の利便性も一層高まることから、その点を訴求することで、アパカード会員におけるアパホテル会員証アプリ利用比率の拡大を図っていく考えだ。
さらに、同社のおサイフケータイ活用の範囲は、アパカードの会員証としてのみにとどまらない。将来的にはおサイフケータイをルームキーとして活用することも検討しているのだ。
同社では近年、赤字に悩むホテルを積極的に取得し、改修を施してアパホテルとしてリニューアルオープンするほか、2009年4月には458室のアパホテル〈京成成田駅前〉がオープン、さらに9月には706室のアパホテル〈東京潮見駅前〉のオープンを予定するなど、積極的な事業拡大を行っているが、これら新たなホテルにおいては、ルームキーに非接触型ICカードを採用している。これらは当然、技術的にはおサイフケータイに代替することが可能なものであり、その実現を考えているというわけだ。
現状では、通常のルームキーを使用している施設も多いことから、実現時期は未定であるが、これが実現すれば、アパホテル会員証アプリを利用している会員は、ホテル検索、宿泊予約、チェックインだけでなく、客室の出入りまでもケータイひとつで完結できることになり、その利便性は一層高まる。また同社にとってもコスト削減につながるものであることから、非接触型ICカード採用ホテルの比率が高まることを条件に、具体的な移行スケジュールの検討に入っていく意向である。
新たなホテルも続々オープン。おサイフケータイでますます便利に