日清食品(株)では2008年9月、環境に配慮する企業姿勢をアピールすることを目的に、S N S「GREE」モバイル版の人気ゲームとのタイアップ・キャンペーンを実施。目標の15万人を大幅に上回る約45万人の参加を得たこのキャンペーンでは、ゲーム内に設けたリンクからブランドサイトにアクセスする参加者も多く、従来「いかにサイトに誘引するか」に重点を置いていた同社のモバイルサイト戦略を見直す契機ともなった。
カップヌードルのリニューアルに伴うキャンペーンにモバイルを活用
1958年8月に世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発売。また、1971年9月に「カップヌードル」、1992年9月には生タイプめん「日清ラ王」を発売するなど、常にインスタントラーメンの歴史を切り拓いてきた日清食品(株)。同社では2008年9月、環境に配慮する企業姿勢をアピールすることを目的に、SNS「GREE」モバイル版の人気ゲームとのタイアップによるキャンペーンを実施した。
同社では2008年4月、全世界販売累計200億食を超えるカップめんの代名詞的存在であるカップヌードルについて、発売から37年目にして初めてとも言える大革新を行った。それは、容器をこれまでのポリスチレン容器から、紙製の「ECOカップ」へ変更するというもの。ECOカップの“ECO”は、「地球のために(For Ecology)」「みんなのために(For Customer)」「おいしさのために(For Originality)」の3つの要素の頭文字から取ったもので、地球環境への配慮と安心・安全、おいしさを追求する同社の姿勢を表したものとなっている。
リニューアルに当たっては、「変わろう。」をテーマとして、人気グループSMAPの木村拓哉を起用したTVCMを中心とする大規模なプロモーションを展開。これによって、主婦などTV視聴の時間が比較的多い層への浸透は順調に進んだが、10代を中心とする若年層やM1(20~34歳・男性)層への浸透については、これらの層のTV離れなどから必ずしも十分とは言えない状況にあった。そこで同社が注目したのがモバイルである。若年層やM1層の必須アイテムとなっているモバイルを活用したキャンペーンであれば、これらの層への浸透が確実に図れると同社宣伝部(担当:三宅隆介氏)では考えたという。
“空き缶回収”ゲームで環境保護に対する企業姿勢を伝える
同社では2007年からカップヌードルのモバイル版ブランドサイトを運営しているが、今回のキャンペーンはより多くのユーザーへの浸透を図るため、自社サイト内での展開ではなく、外部の人気サイトとのタイアップにより実施することとした。そして、さまざまなサイトを検討した中で選択されたのが、数多くの若年層・M1層ユーザーを有するGREEのモバイル版である。
実際の企画については、インターネット広告を得意とする(株)サイバーエージェントの協力を仰ぎ、同社を通じてGREE側と交渉。GREEの人気コンテンツである釣りゲーム「釣りスタ」をアレンジしたゲームによるキャンペーンを行うこととなった。
「釣りスタ」は魚を釣ってその大きさなどを競うゲームであるが、今回の企画では「釣り場が空き缶ゴミで汚れている」と設定。キャンペーン参加者がゲーム内で川や海に流れ込んだ空き缶を釣り上げて回収するかたちとした。ストレートなメッセージではなく、ゲームの中にゴミの回収というエコにつながる要素を組み込むことで、「カップヌードル=エコ」というイメージを間接的に伝えようとしたわけだ。
空き缶には「E」「C」「O」「U」「P」の5種類のアルファベットが書かれており、これら5種類すべてを集めてキーワードを完成し、かつ参加者全員の協力によって合計100万個の空き缶がキャンペーン期間中にすべて回収された場合、カップヌードル特製アバターを受け取れる仕組みにした。
キャンペーン期間はカップヌードルの“誕生日”である9月18日から25日の8日間に設定。8月から制作を開始し、9月11日からはGREEの中でティーザー型の告知を実施。これは、GREEユーザーの日記に書いてもらうことなどを目的としたものだが、実際にキャンペーン期間前にこのキャンペーンに関する書き込みが数千件行われたとのことである。
なお、GREE側では企画の検討開始当初、人気コンテンツである「釣りスタ」をタイアップ対象とし、またネガティブなイメージがある「ゴミ」を釣るゲームとすることに若干の抵抗があったようだが、最終的には「空き缶ゴミで汚れている釣り場を参加者全員の協力できれいにする」という設定に理解を示し、協力を得ることができた。
目標を上回る約45万人が参加
目標とした参加者数は15万人。開始前は高い目標設定と考えていたが、9月18日のキャンペーン開始から2日間ほどで参加者は15万人を突破。期間終了前に空き缶がなくなってしまわないように、アルファベットの出現率を調整しなければならないほどの人気を博し、最終的には約45万人の参加を得ることができた。
参加者の評価も総じて高く、日記等の書き込みなどでも、「エコの必要性を感じた」といったポジティブな意見が多く見られた。また、このようなキャンペーンではゲームの利用だけで完結してしまうことも少なくないが、このゲーム内に設けたリンクからカップヌードルのモバイル版ブランドサイトにアクセスする参加者も予想以上に多く、コストパフォーマンスを考えると、バナー広告と同等以上の効果があったとのことである。
ターゲットや目的に見合うコンテンツを入り口に
このような成果は同社のモバイルサイト戦略を見直す契機ともなった。
同社では従来、「いかにサイトに誘引するか」に重点を置いており、検索サイトのトップページ等でのバナー広告などを中心とする施策を展開してきた。例えば、「10万円が当たるオープン懸賞」などをフックに誘引を図るものであったが、その効果は限られたものであり、また、特にカップめんの主要ユーザーである若年層への効果が薄かった。さらに、このような経路での来訪者はサイト内の滞留時間が短いという傾向もあった。
一方、今回のキャンペーンを通じた来訪者は、あらかじめゲームを通じてある程度のコミュニケーションが形成されていることもあり、親近感と興味を持って来訪しているため、滞留時間も長く、サイト内で提供しているデジタルコンテンツをダウンロードするなど、アクティビティも高いという結果が見られた。
そこで、今後同社では、ターゲットや目的に見合うコンテンツを通じてブランドへの親しみを感じてもらい、その後にサイトを訪れてもらうような設計を行っていくことも随時検討する方針である。
なお、現状では同社のモバイルの活用目的は主にブランディングにあるが、今後はユーザーとのコミュニケーション・ツールとしての活用も進めていきたい考えだ。また、将来的には売り場への誘導など実売につなげる施策に活用していくことも検討しているとのことである。
SNS「GREE」モバイル版のタイアップ企画のトップページ(左)アルファベットをそろえるともらえる特製アバター(右)