顧客の行動履歴や情報共有を重視しWebを通した接客を具現化

(株)ドクターシーラボ

クリニックと同じように、カウンセリングを行った上で製品を提供したい――。そんな思いから、クリニック内で「薬用アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー」をはじめとするスキンケア製品の販売を始めた(株)ドクターシーラボ。現在では通信販売と店舗販売の双方を展開し、北米、ハワイ、香港、台湾など、海外への出店にも乗り出している。2007年からはeコマースの強化で売り上げ倍増を実現。コミュニティサイトとの連動で、巧みに製品の認知度向上も図る同社の最新事例を紹介する。

目指すは“顔の見える通販”

 華やかなメイクアップ&スキンケア化粧品がちまたに溢れていた1990年代後半。「自分に合うスキンケア方法が見つからない」「どうすれば肌のトラブルが解消できるのか」といった、肌の悩みを抱える多くの女性が来院する皮膚科クリニックで誕生したのが、ドクターシーラボのメディカルコスメ「薬用アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー」(以下、アクアコラーゲンゲル)である。当時の院長であった城野親徳氏が専門家の視点で開発した、このスキンケア商品の製造・販売事業を(株)ドクターシーラボとして1999年に法人化。以来、「肌トラブルに悩むすべての人々を救う」を企業理念に、多くの女性の美容と健康をサポートしている。商品構成は、美容機器やサプリメントも含め、約150アイテム。薬が年齢を選ばないのと同様に、メディカルコスメという特性上、ターゲットの年齢層を定めず、低刺激やアンチエイジングをコンセプトに、あらゆる年代の肌の悩みに応える製品を幅広く提供している。
 同社の強みは、この10年間における販売チャネルの多様化ともいえる。2007年度の売上高は90億7,786万円(2007年7月期。決算期変更のため6カ月決算)、188億3,724万円(2007年1月期)に達しているが、その販売チャネル別構成比は、通信販売が43.8%、卸売販売が30.4%、対面型店舗販売が25.8%(構成比は2008年1月末現在)。「カウンセリングを行った上で製品を提供したい」との認識のもと、店頭販売では店員に商品知識を施した上での対面型販売を展開する一方、通信販売では「(通販なのに)顔の見える対応」を目指し、コールセンターでの直接的なやりとりを重視。実際の注文は電話、Web、ハガキ、ファクスで受け付けている。
 Webサイトについては、2006年まではセルフ買いが多いカタログと同様のメディアととらえ、顧客と直接対話ができるコールセンターへあえて振っていたところがあったが、2007年からはeコマースを強化。顧客のニーズに基づく1対1の対応を目指し、eコマース部門のスタッフ数を約3倍に拡充したところ、2007年度には総売上高の2割であったWebサイト経由の売り上げが2008年度に入ってからは4割弱と、構成比を倍増させる結果となった。

「ドクターシーラボ」サイトの特徴は無料サンプルと口コミの醸成

 同社が展開する「ドクターシーラボ」「ラボラボ」「ジェノマー」の計3ブランドの中でも、特に通信販売に注力しているのは「ドクターシーラボ」である。同ブランドのサイトでは、「基礎化粧品」「メイクアップ」「サプリメント」など各カテゴリーごとの商品情報のほか、月に1回のキャンペーンや会報誌『シーラバー』の掲載内容に合わせたコンテンツを掲載。商品情報については、「商品の良さは実際に使用した会員が一番理解している」という認識のもと、「コスメ口コミ」のコーナーを開設。同社商品の購買実績がある『シーラバー』の会員から寄せられた声のほか、「美白」「アンチエイジング」「デトックス」など、肌や体に関する悩み別に、会員の口コミを掲載している。
 同社のeコマースにおける最大の特徴としては、サイト上での会員登録と同時に無料サンプルを送付していることが挙げられる。キットの内容は、最大のヒット商品である「薬用アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー」をはじめ、「導入美容液 アクアインダーム」、洗顔セットなど、いずれも高額な商品計6点のサンプル3日~1週間分。「アクアインダーム」は他社製品との併用でも効果を発揮する従来にない美容液で、2007年の発売以来、「アクアコラーゲンゲル」に次ぐ売り上げを示している製品である。
 このほか、2007年8月には、「ドクターシーラボ」のコミュニティサイト「美的至福」を開設。「オフィシャルサークル」のほかに「メンバーズサークル」や「ユーザーサークル」など各カテゴリー別のコンテンツを設け、肌の悩みや美容、コスメに関する情報交換を促進しているほか、「ドクターシーラボ」製品に関する感想や要望を自由に書き込めるようにした。

ドクター

「ドクターシーラボ」のWebサイト。“顔の見える通販” を目指している

“当たり前”を“気づき”に変える

 PCサイトのユニークビジター数は月間30万~50万人ほどで、1日当たりでは約1万人。PVは月間250万を超える。従来は、「アクアコラーゲンゲル」の関連製品をラインで訴求してきたわけだが、顧客それぞれに肌の悩みが異なる中で、各人の嗜好性を重視することが重要であると判断。従前からの購入履歴に加えてクッキー情報によるレコメンデーションを開始した。
 レコメンデーションに伴う課題としては、同社の会員にとってこれがもはや“当たり前”になりつつあることが挙げられる。また同社の製品数は150アイテムと決して多くはないため、現在すでに使用している製品がレコメンドされてしまうことも少なくない。そこで同社では、愛用している製品の申し込みページで、その製品との併用に最適な商品の存在を知らせる、“気づき”の仕組みづくりに着手していきたいとしている。また、初めてサイトを訪れた見込客に対しては、例えば「アクアコラーゲンゲル」のページであれば、これと競合する同社のゲル製品もあわせてレコメンドするなど、サイトユーザーの行動だけではなく、ニーズと場面によって異なるサイトの構築を追求していきたいとしている。
 このほか同社では、リピート商品である化粧品を扱っているだけに、お客さまの手持ちの商品がなくなる時期を見計らって、eメールによりリピートオーダーを促進している。

Webサイトを通した企業理念の具現化を

 レコメンデーションを導入して以降、「ドクターシーラボ」のサイトにおける1訪問当たりのPVは増加傾向にあり、対前年比150%に到達。これに伴い転換率も高まっているとのことである。また、同社が行ったアンケート調査結果によると、「アクアコラーゲンゲル」以外の製品の認知度向上もレコメンデーションの効果のひとつといえるという。
 同社ではWebという双方向のメディアを最大限に活用することで、従来はありがちだったメーカーからの一方的な情報発信ではなく、最終的には顧客同士が商品を薦めあう仕組みを模索している。また、1対1での“接客”ができるWebサイトを目指すべく、レコメンデーション機能にとどまらず、さまざまな切り口でのパーソナライゼーションをさらに活用したいとしている。
 2007年からは、以下の2つの取り組みも開始した。ひとつは、ケータイ・アドレス登録者約2万人を対象とした、「メディカル天気予報」のデイリーでの自動配信。これは地域別の天気予報に日焼け指数やUV指数などの情報を加えたものだ。もうひとつは、コミュニティサイト会員へのアンケートに基づく商品開発。その第一弾として商品化されたサプリメント「カラダミント」をWeb限定で売り出したところ、当該カテゴリーでトップレベルの販売実績を上げたという。
 今後の計画としては、前述の通りWebサイトのリニューアルがある。パーソナライゼーションをより一層拡充し、サイトを初めて訪れた見込客と、同社製品をすでに使用している顧客へのサイトの見せ方に違いを出すほか、コミュニティサイトを連動させたコンテンツの作成を予定。これらの取り組みを通して、Webサイトを通した企業理念の具体化を推進していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年11月号の記事