eコマースに特化した 「P.S.FA」 サイトが既存店舗への来店促進につながる

はるやま商事(株)

紳士服専門店のはるやま商事(株)。同社では、東京以西で展開している「紳士服はるやま」をはじめ、東京・新宿など関東を中心にツープライスショップ「P.S.FA」を出店する一方、東北・甲信越には「紳士服マスカット」を積極的に展開している。衣料品のオンラインショッピング市場の拡大に目を付けた同社は、「P.S.FA」の顧客層である20~30代のビジネスマンを意識し、eコマースに特化したサイトを立ち上げた。現在では、既存店舗への来店促進につながるなどネットとリアルの相乗効果が現れつつある。

若者向けツープライスショップ「P.S.FA」を関東を中心に出店

 紳士服専門店大手のはるやま商事(株)は、創業以来の基本理念である「より良いものをより安く」を実践するとともに、お客様のニーズに適応した高品質・高機能かつ、新しさを追求した商品開発に努めている。2004年2月には新社会人をメインターゲットに「脚長(あしなが)スーツ」を発売し、大きな反響を得て、「2004年日経優秀商品・サービス賞優秀賞日経賞」を受賞した。
 店舗に関しては、学生から社会人まで年齢に関係なく、「ヤマモトカンサイ」や英国の代表的なブランド「CHARLIE ALLEN」、デザイナーのドン小西氏によるデザインの「フィッチェコルツォーネ」などの紳士服ブランドを取り扱う「紳士服はるやま」を東京以西で展開。また、国内外のメーカーと共同開発した自社ブランドで、20~30代のビジネスマン向けのツープライスショップ「P.S.FA(パーフェクト・スーツ・ファクトリー)」を東京・新宿など関東を中心に展開する一方、同社の本社がある岡山県の特産品にちなんだ名称の「紳士服マスカット」を東北・甲信越に出店している。現在、同社の総店舗数は346店、売上高は約568億円を数え、従業員ひとり当たり月に221万円を売り上げるに至っている(2006年3月期)。

モールでの展開に限界を感じオリジナルECサイトを立ち上げる

 同社におけるインターネットの活用は、1998年に企業サイトを構築、人材募集を始めたころにさかのぼる。1999年には、「紳士服はるやま」ブランドをインターネット・ショッピング・モール最大手の「楽天市場」に出店し、ネットを通じた物販に着手。そして同年11月、「P.S.FA」の1号店を東京・赤坂にオープンすると同時に、「楽天市場」にも出店した。ちなみに、「紳士服はるやま」ブランドは、2004年からYahoo!ショッピング にも出店している。
 2003年9月、同社では自社ブランド「P.S.FA」の「楽天市場」への出店を取り止め、オリジナルECサイトを立ち上げた。その理由は、ひとつには、今後eコマースを拡大していくに当たって、モール出店では収集したeメールアドレスの活用や外部リンクなどに制約があるため。もうひとつは、「P.S.FA」ブランドの既存店舗との相乗効果の演出にある。もちろん、「紳士服はるやま」は顧客の年齢層が幅広いのに対し、「P.S.FA」のターゲットが20~30代のビジネスマンで、インターネットのヘビーユーザーであることも踏まえた上でのことだ。
 サイト構築に当たっては、「試着できない」「手にとって生地などを確認できない」といった従来のオンライン販売におけるお客様の不満を、紳士服専門店業界初のバーチャルモデルを使った試着機能や、スーツ、シャツ、ネクタイなどのコーディネート機能、生地を詳細に確認できるズーム機能などにより解消、安心して購入できるオンラインショップに仕上げた。
 新サイトでは、入会時の登録情報や過去の購買履歴に基づき、次回の買い物時にあらかじめサイズが表示されるパーソナライズ機能やポイント機能(ネットマイル)など、リピートオーダーにつながる各種のシステムも構築した。ちなみに、ポイントについては、購入金額の5%をマイルとして貯めることが可能だ。また同時に、顧客データの分析システムに基づくeメール・マーケティングを行うためのメール配信システムを導入するなど、モールへの出店当時に比べて販促の自由度を大幅に強化、アクセス頻度の向上から販売促進、ヘビーユーザー化、顧客満足度のアップまでをトータルにカバーするオンラインショップの実現を目指した。
 ECサイトのオープン後は、前述のバーチャルモデルを使った試着機能やコーディネート機能などが話題となり、アクセス数が急伸したという。
 現在では、週1回のペースで「P.S.FA」のサイト内で販売しているスーツやシャツなどを紹介するメールマガジンを配信するほか、新作やネット限定商品の案内、期間限定セール&送料無料キャンペーンといった最新ニュースとお得な情報をeDMで提供。新サイトの立ち上げから3年が経ち、オープン当初の驚異的なアクセス数の伸びはなくなってきているものの、いまだにアクセス数は堅調に推移しているという。2004年には、競合他社に先駆けてアフリエイト・プログラムを導入。ネットユーザーが「P.S.FA」の広告バナーやテキストリンクを掲載したサイト経由で訪れて、購買誘引につながる工夫を施した。
 現在、「P.S.FA」サイト内での取扱商品数はスーツからワイシャツ、ネクタイ、カジュアルなど店舗と同じ品のほか、店舗には揃えきれない品も含めて約1,000点。顧客層は20~30代で、1オーダー当たりのスーツ購入点数は1.2着、客単価は約4万円とのこと。ヘビーユーザーになると、月に何度もネットで注文し、年間購入金額が数百万円に達するという。

既存店舗とeコマースの連動を強化

 同社では、宅配する時間帯に在宅していないケースに備えて、ファミリーマート、ローソン、ミニストップといったコンビニエンスストア7社と提携し、最寄りのコンビニで商品の受け渡しができる仕組みを構築している。
 また、eコマースに特化するかたちでサイトを立ち上げたが、ここに来て既存店舗への問い合わせや、サイトで商品を確認してから来店するお客様が増えるなど、来店促進効果も現れ始めているという。そこで同社では、これまで手薄だった既存店舗への支援に注力していく。具体的には、サイト内の商品を入れ替えた際に店頭での販売機会を逸しないように、お客様から引き合いがあった商品をいち早く店舗に伝えるなど、PSFA事業部のeコマース部門と店舗部門が密な連携を図っていく予定だ。
 同社では今後、eコマースを拡大していくに当たっては、物流センターなどのインフラ整備や、プロモーションのパワーアップが不可欠だと見ている。さらに、店頭でECサイトのバーチャルモデルを使った試着機能やコーディネート機能などの告知を積極的に行い、サイトへの集客を図ることで、eコマースのさらなる売り上げ拡大を目指す。
 このほか同社では、顧客のうち「はるやま携帯メール会員」を対象に「紳士服はるやま」と「紳士服マスカット」のケータイメールを活用した販促や来店促進を行っている。「P.S.FA」に関してはケータイを活用した施策は手付かずの状態だが、現在、PSFA事業部ではモバイルECに注目しており、今後ケータイからシャツやネクタイ、ベルトや小物などが購入できるだけでなく、スーツのオーダーも可能なシステムの開発に取り組む予定だ。
 同社では、eコマースの売り上げが伸びていることから、ネットとスーツは親和性が高いと見ている。そして、男性のEC市場の拡大と合わせて、「スーツ=ビジネスパーソン」に関連する商品の開発も視野に入れ、これまで以上にeコマースに注力していく意向だ。

はるやま

ECサイトには、バーチャルモデルを使った試着機能やコーディネート機能などが付加されている


月刊『アイ・エム・プレス』2006年11月号の記事