紙媒体や旅行を伴う総会など重層的な接点により顔の見える関係づくりに成功

クラブツーリズム(株)

同じ趣味・嗜好の仲間が集い、旅を通じて豊かなコミュニティを形成していく機会を提供するクラブツーリズム(株)は、顧客との“顔の見える関係づくり”を仕組み化。自身も同社の会員で、クラブツーリズム会員向けの月刊情報誌「旅の友」の配送業務を担うエコースタッフは、地域コミュニティの中心的存在で、同社と会員の架け橋的役割も担う。

地域のつながりを支えるエコースタッフ 活動は今年で14年目に

 2004年5月に、近畿日本ツーリスト(株)のクラブツーリズム事業から分離独立したクラブツーリズム(株)。“旅のダイレクトマーケティング”という新たなビジネスモデルを確立し、会員向けの旅行情報誌「旅の友」を390万部発行する。2006年8月現在の会員数は390万世帯780万会員。顧客層は55歳~75歳が中心だ。“旅を通して「出会い」「感動」「学び」「健康」「安らぎ」の種をまき はつらつたる喜びに満ちた社会を花開かせていく”というクラブツーリズム・ミッションに象徴されるように、同社では、同じ趣味・嗜好の仲間が集い、豊かなコミュニティを形成していく機会を提供している。旅行以外の場面でもつながりを維持し、交流を深める場を提供。首都圏、関西、中部を中心に、“文化に親しむ”“自然を愛する”“仲間と楽しむ”活動を行っている。そして同社と、地域コミュニティにおける一般会員との架け橋的な役割を果たすのが、月刊誌「旅の友」などの情報誌を会員へ届ける《エコースタッフ》だ。
 そもそものきっかけは、1993年の第3種郵便物にかかわる法律改定により、「旅の友」の第3種での郵便物送付が難しくなったこと。現名誉会長の高橋秀夫氏が、「お客様に配送していただくことで、同社の活動に参加していただくきっかけとなる」と提案。そこで、同社の理念のひとつである「健康づくり」「仲間づくり」を大きく掲げ、現社長の岡本邦夫氏が中心となってエコースタッフの制度の確立に向けて着手することとなったのだ。エコースタッフの自宅から半径1~2km圏内の世帯数200以上をひとつの目安とし、地域をきめ細かくカバー。同社会員が多い世田谷区をモデル地区として設定し、54名からスタートした。
 現在、登録者数は東京・大阪・名古屋で計9,000名。総配送部数の6割以上の250万部をエコースタッフが担当している。属性は、「旅の友」会員と同様に、55~75歳が約7割となっており、男性2割、女性8割の比率。エコースタッフになってから10年以上のベテランも多い。
 彼らの同社に対するロイヤルティは高く、ほかの会員の声に耳を傾け、その声をクラブ本部に届けるという同社と会員の架け橋的役割を担っている。地域における仲間づくりを積極的に推し進めるリーダーであると同時に、一般会員に最も近いポジションで顧客満足度向上のカギを握っているのだ。同社では、親しみを込めて彼らを“エコーさん”と呼んでいる。

毎月の通信や特別な交流会によりエコースタッフと密な関係を構築

 エコースタッフの管理は、各地域のエリアコミュニティセンター(エコースタッフ事務局)に配属された専任社員が担当している。首都圏では、東京、多摩、横浜、千葉、埼玉、湘南の6地域、関西(大阪)、中部(名古屋)で展開している。今後、栃木・群馬などの北関東でもエコースタッフを募集し、仙台にも拡大していく意向だという。
 「旅の友」の手配りの利点として、転居や家族構成の変化など、月次に会員情報を更新できることが挙げられる。エコースタッフは、毎月の配送後、これらの変更情報をエリアコミュニティセンターへフィードバックすると同時に、「おたより宅急便」というレポートを提出する。レポート用紙の左側に、気が付いたことなどを書き込み、社員が右欄にメッセージを記入、翌月の配送時に同封する。手書きの往復書簡という体裁をとるのは、同社社員とエコースタッフとのつながりを密にし、リアルな会話を大切にしていることの表れだ。このほか、月1回発行する「エコー通信」(資料)には、事務連絡はもちろん、スタッフの“声”欄ともいえる「おしゃべり玉手箱」や、エコースタッフの座談会「うきうきエコートーク」などを掲載、各地域のエコースタッフ同士の顔が見えるコミュニケーション誌になっている。さらに、市・区レベルでそれぞれ自主的に手作りのチラシを発行しているそうだ。
 また、同社では、1994年から毎年1回、「エコースタッフの集い」と呼ばれる親睦旅行を伴う総会を実施している。この機会に同社のミッションや戦略を伝えて共有/共感を改めて醸成することが狙い。今年6月に実施された総会では、2泊3日の日程で、北海道の登別に約2,000人のエコースタッフが集まり、話題の旭山動物園をはじめ道内各地を訪れたという(写真)。

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390万部のうち250万部はエコースタッフが配布する「旅の友」(左)。「エコー通信」(中央)150号では、エコースタッフの歴史を掲載した。上の写真は、エコースタッフの集いの1コマ。エコースタッフ同士の交流会を通じて、仲間同士のきずなを深める

地域のつながりや住民の視点をサービスや新規顧客獲得に活かす

 エコースタッフからの提案も多い。例えば、浜松のバス発着所の変更は、住民のエコースタッフからの提案が発端。試験的採用を経て、本格採用に至った。地域の道路事情や、住民が集合しやすい場所というきめ細かな視点からの提案はエコースタッフならではのものと言える。
 もうひとつの側面として、新規顧客へアプローチするときに、彼らを軸にした取り組みの可能性がある、と同社では見ている。例えば、担当エリアに居住する見込客の識別は、同じ土地に10年以上住んでいて、地域のことをよくわかっているからこそできること。見込み度を選別して案内状を届けるなど、地域のつながりを活かした展開が可能だというのだ。
 一方、同社では、メンバーズと呼ばれる参加回数の多いお客様(優良顧客)に対するOne to OneのCRM施策も展開している。メンバーズは現在、4万2,000世帯。専用デスクの専任社員が、企画部門や販売部門と連携して、オリジナルツアーや個々のニーズに基づいた交流会などを開催する。「メンバーズ通信」の発行はもとより、自宅まで訪問して顧客との関係づくりを図っているのだ。
 地域コミュニティの中心的存在であるエコースタッフとの関係強化は、一般顧客とのリレーション維持につながっている。同社では今後も、エコースタッフとの関係、メンバーズとの関係をより一層活性化し、同社ならではのCRMの取り組みを強化していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年10月号の記事