ブランドイメージを損なうことなく熱烈な読者のロイヤルティ向上を図る

(株)ハーレクイン

日本にロマンス小説を根付かせた(株)ハーレクイン。100%ハッピーエンド設定のラブストーリーによる爽やかな読後感・安心感で熱烈な読者に支えられている。(株)日比谷花壇とのコラボレーションを企画し、表紙に花をあしらうことで「ロマンティック」「エレガント」「ミステリアス」などを演出。読者からの反響も良く、売り上げを伸ばしたり、読者の開拓、熱烈な読者のロイヤルティ向上を実現した。

毎月約50冊を刊行 刊行書籍総タイトル数は1万点を突破

 ハーレクイン社は、1949年にカナダの小さな出版社として誕生。その後、創始者のリチャード・ボニー・キャッスル氏は、イギリスから出版された名もなき女流作家の恋愛小説と出会い、北米での出版権を獲得。1964年には、ロマンス・フィクション専門の出版社へと移行を果たし、それ以来、世界15カ国にオフィスを持つ優良企業に発展した。現在、同社の書籍は25言語に翻訳され、世界97カ国で販売されている。
 日本では100%出資の日本法人、(株)ハーレクインがビジネスを展開。ロマンス小説の土壌のなかった日本に市場を切り開き、2004年に25周年を迎えた。現在、毎月約50冊を刊行しており、そのうち40冊がハーレクイン・ロマンスやイマージュ、シルエット・ディザイアなどのシリーズもの。刊行した書籍タイトルはすでに1万点を突破。地域や年齢などに関係なく、“ロマンス”に興味を惹かれる10代からシニア世代までの女性に広く支持され、そのうち30歳、40歳代がコアな読者層となっている。
 同社では、16年前からシリーズロマンス ファンの会員組織「ハーレクイン・クラブ」を運営。現在、会員数は約8,000名を越える。毎月、新刊案内と会報紙「ハーレクイン・ニュース」を送付し、作品情報を提供するほか、人気作家を囲むティーパーティーなどのイベントも実施している。ちなみに、ハーレクイン・クラブ会員のひとり当たりの購読数は月間約13.7冊。「ロマンスと言えばハーレクイン」と認知されるまでの不動の地位を確立した。
 また、2001年には、女性はもとより男性にも楽しんでいただけるレーベル「MIRA BOOKS」を創刊。ロマンスに加え、サスペンスやヒストリカル、ヒューマンドラマなど、多岐にわたるジャンルの文庫を刊行している。

日比谷花壇のフラワーデザイナーが表紙を花で演出

 同社には、月間平均購読数13冊を超える熱烈なロイヤル読者が存在する一方で、同社のロマンス小説をまだ知らない人がいるのも確かだった。そこで、2005年4月に、同社と共通する嗜好・ライフスタイルの顧客を有する(株)日比谷花壇とコラボレーションを行うことを決定。その狙いは、ひとつは同社のブランドと書籍を広くいろいろな方々に知っていただくこと。2つ目は、表紙を花で飾ることによる読者満足度の向上、および日比谷花壇のフラワーデザイナーが制作したフラワーアレンジメントのプレゼントなど、ハーレクイン読者へのサービス拡充である。具体的には、日比谷花壇の人気フラワーデザイナーの渡邊昭彦氏に表紙デザインを依頼し、8シリーズ10作品(ハーレクイン・ロマンス/イマージュ/シルエット・ディザイア、シルエット/スペシャルエディションほか)を、各々の作品イメージにあわせた花で飾り、タイアップ・プロモーション「Spring Romance~ロマンスの花が咲きました~」を展開した。書店でのPOPや本の帯で同社と日比谷花壇のコラボレーションであることを明確にし、8シリーズ10作品で合計約20万部近い発行部数となった。花の素材感を通して「ロマンティック」「エレガント」「ミステリアス」などを表現したところ、読者からの反響も良く、売り上げにも貢献した。
 2006年は3月と4月の2カ月間にわたり、昨年実施したシリーズロマンスの中でコラボレーション効果が高かった「ハーレクイン・イマージュ」の6作品において、作品のイメージにあったフラワーデザインを表紙に採用すると同時に、合計60名にフラワーアレンジメントが当たるプレゼントキャンペーンを実施。さらに、6月10日には、ハーレクイン・クラブ会員限定のサービスとして、昨年に引き続き今年もイマージュの表紙を担当した渡邊昭彦氏を迎えたスペシャルイベント「フラワーデモンストレーション&トークショー」を開催。クラブ会員に対してはこれまでも年数回、新刊紹介のイベントを実施してきたが、このスペシャルイベントはクラブ会員に「特別に参加できた」という気持ちになっていただき、結果的にロイヤルティを向上することにつながっている。コラボレーションの効果に関しては、まだ正式な集計は出ていないが、昨年以上に良い結果が出る見通しだ。
 日比谷花壇とのコラボレーションを実施したことについて、同社代表取締役社長のベリンダ・ホブス氏は、「より良いタイアップになるよう、昨年の結果を考慮しながら、今年の活動を企画、実施しましたが、最大の効果は日比谷花壇との強い関係を築くことができたこと」と言い切る。
 そのほか、昨年からハーレクイン顧客向けの常設付加価値サービスとして、日比谷花壇が運営するECコ・ブランド・パートナーシップ・プログラムを活用。これは、ハーレクイン社のWebサイトから「華のある女性(ひと)になる」というタグラインをクリックすると、日比谷花壇提供の「ハーレクイン フラワーショップ」のサイトに飛び、母の日や誕生日などに贈るフラワーギフトを購入できる仕組みだ。

同社のビジョンやロマンスを理解してくれる企業とのコラボレーションを推進

 同社はこれまで、ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンやジュピターショップチャンネル(株)などとコラボレーションを実施してきたが、その際に心掛けているのは、両社のお客様にとってこの企業とタイアップすることが理にかなっているかということ。つまり、ジャンルが全く異なる企業とタイアップをすると、ブランドイメージを損なってしまう危険性があるからだ。
 そこで同社では、まず商品と商品のつながりが見えること。もうひとつは両社が最大の利益を得られるかどうかということを考えた上で、コラボレ-ションを実施している。特に後者に関しては、①売り上げを上げること、②読者(顧客)を開拓すること、③ロイヤルティを向上することの3つを重視している。ただし、この3つが1回のキャンペーンにより、すべてカバーできるとは考えていない。そのうちのひとつでも成果が上げられれば成功と見なすのが同社の方針だ。
 現在、前出のフラワーデザイナーを迎えてのスペシャルイベントはハーレクイン・クラブ会員限定のイベントだが、今後は日比谷花壇「ロマンの会」との共催も検討していく意向だ。ただし、同社はロイヤルティの高い読者によって支えられていることから、一気にさまざまなコラボレーションを展開するのではなく、一歩一歩着実に進めていく方針でいる。
 今後同社では、ロマンス小説を好む顧客層が求めるものを核にして、同社のビジョンやロマンスを理解してくれる企業とのコラボレーションを推進していく意向だ。

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日比谷花壇の人気フラワーデザイナーの渡邊昭彦氏に表紙デザインを依頼し、花の素材感を通して「エレガント」「ロマンティック」などを演出。従来のロマンス小説のイメージを変えることに成功


月刊『アイ・エム・プレス』2006年9月号の記事