“「ハート」「ヘルス」「ライフ」のフィールドで、いきいきとした生活づくりに貢献する”ことを目指す江崎グリコ(株)。同社では1999年から、必要を感じたその時、職場で選べるコンパクトなお菓子箱「リフレッシュボックス」によるお菓子の配置販売事業「オフィスグリコ」を展開。「オフィスグリコ」を“情報発信の基地”と位置付ける同社では、お客様のニーズに応え、他社商品を含めて品揃えするほか、他社の販促支援にそれを活用している。
小さな箱を支えるサービススタッフと販売センター
ここ数年、都会のオフィスでは、江崎グリコ(株)が展開する「リフレッシュボックス」という「置き菓子」が物凄い勢いで普及している。
奥行き265mm×横190mm×高さ400mmのプラスチック製のこのボックスには、3段の引き出しが備えられ、また上面には、今流行りの「ユルキャラ」ともいうべきカエルを模した硬貨投入口がある。
引き出しの中には、同社製品であるキャラメルの「アーモンドグリコ」や、スティック状プレッツェルの「プリッツ」、「ビスコ」、そしてチョコ、ガム、アメに加え、提携先の亀田製菓(株)や(株)でん六などのお菓子が所狭しと詰まっている。
これは「オフィスグリコ」と呼ばれる同社の事業で、「置き菓子」という実にシンプルな販売方法だ。
お菓子を買い求めるオフィスの人間が、ボックスから所望の商品を取り、代金を投入。代金はどれも1個100円(一部120円の商品あり)。伝統的な「富山の置き薬」と同様の配置販売と呼ばれる形態である。
ボックスには上下3段の引き出しが備えられ、ここに10種類程度、24個のお菓子が収納されている。
商品の入れ替え・補充は、専属のサービススタッフが1週間に1度程度、各オフィスに巡回して行われる。またこの際に、代金回収も同時に行う。
利用の多い職場の場合、巡回頻度は週2回に増やしたり、通常各職場に1台のボックスを、2台、3台と増やすことで対応する。また顧客からの商品構成の要望(例えば、ガムを多く入れて欲しい)についても、その都度スタッフが応対し、速やかにその要望に応えるようにしている。
大都市のオフィス街だからこそ「人海戦術」が生きる
では、サービススタッフが補充・供給する多種多様なお菓子群はどこから供給されるのか。これは一定のエリアごとに「販売センター」と呼ばれるバックヤードが確保され、必要な商品が常にストックされているのである。スタッフはこのセンターでボックス補充用の商品を配送用のワゴンに載せ、そして人力で押しながら担当のクライアントを巡回する。
販売センターの担当エリアは、おおよそ半径1キロ圏内。また1センターが抱えるボックス数は、大体1,500台をひとつの目安としている。つまり、このラインを超えた場合には、新たにセンターを新設することで、サービス維持を図っている。
ただし、あくまでも「人海戦術」で、かつ地道な作業が要求されるため、一気にサービスエリアを拡大するわけにはいかない。また前述したとおり、サービススタッフは基本的に人力によるワゴン配送。お菓子を満載した時の重量はかなりのものになるため、ひとりが1日に回れる区域も限られてくる。しかも、気軽に食される「お菓子」であるため、消費される頻度(商品の回転)も比較的早い。ここが「置き薬」と決定的に異なる点だ。
こうした点を考えると、展開エリアは必然的に大都市中心部のオフィス街に絞られる。狭いエリアに高層ビルが密集するという環境は最も理想的で、サービススタッフはビルのエレベーターを使って各フロアを効率的に巡回できる。
「オフィスグリコ」のサービス開始は1999年の大阪からで、2002年に東京に進出したのを契機に本格的に展開し始めた。この時、ボックス・デザインも現在の姿に固まっている。販売センターの数は現在、全国に41カ所(関東18、関西15、名古屋3、福岡4、京都1) で、今後も政令指定都市を中心にオフィス街に特化して展開していく予定である。また、ボックスの台数は6万9,000台 (2006年3月末) にも及び、これはある意味、日本列島にくまなく存在するコンビニエンスストアの総数 (4万~5万店) を上回っている。また、肝心の売り上げについては、1ボックス当たり1日100円(お菓子1個)程度でも充分採算が合うという。一見少ないように思われるが、これこそが前述した「6万9,000台」というボリュームのなせる業なのである。単純計算すればわかるが、100円/1日×6万9,000台×300日(休日を加味して)=20億7,000万円という年商を叩き出す。現にオフィスグリコの昨年度売り上げは約20億円だという。
「オフィスグリコ」は、同社にとって新たな販売チャネルを作り出した
スタート当初の見込み違いが男性需要の掘り起こしにつながる
この「古くて新しい」販売方法に踏み切った背景には、「お菓子需要の漸減」という事業の根幹さえ揺るがしかねない深刻な問題の克服、という一大戦略が秘められている。需要漸減の理由としては、少子化というわが国が抱える社会的現象がまず第1に挙げられるが、このほかにも、これまでどの街角にも必ずあった「○○商店」といった小売店の激減とコンビニの台頭も無視できない。多くの菓子類を陳列してくれる小売店という販路が少なくなった半面、「コンビニ」という新たな販売チャネルが誕生したこと自体は喜ばしいことなのだが、POSを駆使し「売れ筋」だけを極限にまで絞り込んだ商品構成を至上とするコンビニでは、時間をかけて徐々に人気が出てくるようなお菓子が陳列されることはマレである。
こうした状況のもと、同社は全く新しい視点から埋もれた需要の掘り起こしに挑む。そしてまずターゲットに掲げたのが、「OL」だった。「男性に比べて女性の方がお菓子が好きなはず」という“常識”を頼りに、オフィスでも手軽に食べられるような環境を、同社自身が作り上げればいい、と一念発起。オフィスを1カ所ずつ丹念に訪ね、ボックス設置の許可を獲得していったのである。もちろん設置やメンテナンスにかかる費用は一切無料で、しかも自動販売機のような電気代もかからない。こうしたこともオフィスへの普及を容易にしたと考えられている。
ところが、いざ蓋を開けてみると、同社が目論んだ「OL」ではなく、「男性社員」による購入が全体の売り上げの実に70%を占め、しかもそのコア層が30~40歳代という、予想すらしない驚きの結果が出たのである。この年代のサラリーマンがお菓子を買うためにわざわざコンビニまで足を向けることは少ない。また、たとえコンビニに出掛けたとしても、「ネクタイを締めた大の男」が「ビスコ」を手にとってレジに向かうにはかなりの勇気が必要だろう。
オフィスグリコの戦略は、結果的に、こうした潜在需要を開拓したのである。オフィスに「お菓子販売機」があれば、それほど人目も気にしないし、欲しい時にすぐさま入手できる。この「手軽さ」「気軽さ」が受けたと言えるだろう。現にそもそも子ども向けと見られていた「ビスコ」が、腹持ちがよいと言う理由で、残業の際の軽食の代用として、特に男性サラリーマンの熱い支持を受けているという。
つまりボックスは結果的に、意外な需要を見つける「マーケティング・ツール」としても有効に働いたわけである。
また、同社では、「オフィスグリコ」を“情報発信の基地”と位置付けており、季節限定のお菓子や詰め合わせセット、新商品の取り扱いなどを通じて“常に新しい情報がある”ことを利用者に浸透させていく意向だ。
現在、自社商品に限らず、他社の販促支援ツールとしても活用しつつある「オフィスグリコ」。オフィスに特化した「新しい御用聞き」と言えるだろう。