競合企業も注目One to Oneオンデマンド対応の業務受託に進出

(株)ジェーシービー

九州地区で先行実施し好評を博していた、「ご利用代金明細書」に同封する会員向け媒体紙「JCB NEWS」のOne to Oneオンデマンド対応の全国展開を開始したJCB。同時に、CRMを推進する他社の会員サービスにおける同様の業務受託にも対応する。

バリアブル印刷が可能にしたOne to Oneの情報作成

 (株)ジェーシービー(以下、JCB)は、いまや5大国際クレジットカードブランドのひとつとして、全世界に5,000万人を超える会員を擁する。そんな同社にとってアクティブ顧客とのコンタクトチャネルであるカード利用代金明細書は、まさに「パワーチャネル」だ。一般に明細書そのものに個別情報を印字する企業は少なくないが、同社では、印字スペースの限界、デザイン上の限界(テキスト情報のみ/カラー化しにくい)などを理由に、早い段階から販促用の別媒体を用意して明細書に同封するスタイルを採ってきた。「JCB NEWS地域版」がそれである。北海道、東日本、中部、西日本、九州の5ブロックごとに情報を差し替え、エリア情報を提供する媒体だ。
 しかし、印刷会社から、画像を個別差し替えできるバリアブル印刷システムの提案を受けたのをきっかけに、情報のターゲタブル性を一層向上。こうして生み出された媒体が、会員一人ひとりに合った情報を提供するオンデマンド媒体紙「JCB NEWS UNI-CLIP(ユニ・クリップ)」である。2003年11月、九州地区での試行を皮切りに、検証を重ねながら徐々に対象エリアを広げ、2005年1月には東日本での展開を開始。2005年10月、ついに全国展開となる。One to Oneによる情報作成方法に関するビジネスモデル特許も出願している。

1号当たりのパターン数は800万超 会員と情報のマッチング精度を追求

 「ユニ・クリップ」の仕様は、A4版表裏2ページ(カラー)。最大の特徴は、バリアブル印刷により掲載情報を限りなくパーソナル化している点である。情報選別は、独自の顧客情報分析・活用モデルを利用した緻密な顧客分析に基づいて行われる。
 情報の差し替えについて詳述しよう。まず、表面のエリア表示や会員氏名とともに記載されるあいさつ文は、顧客セグメントごとに差し替えられている。同社が展開する「Oki Dokiポイントプログラム」の獲得ポイント数とそれに応じた交換可能商品も顧客ごとに異なる。下段のキャンペーン告知も、きめ細かな顧客セグメントに基づいて、同じキャンペーンであっても、キャッチフレーズやインセンティブ内容、デザインなどを柔軟に変更している。
 一方、 裏面には、 旅行情報、 チケット情報、 飲食情報、宿泊情報、ショップ&ライフ情報、ファイナンス商品情報の6カテゴリーの中から、利用動向モデルにより顧客に最適な4ジャンルの情報を選定し、掲載している。飲食情報であれば、飲食店でのカード利用動向と、加盟店のエリアや客単価などをマッチングさせて掲載情報を選定するといった具合だ。また、5ジャンル (ファイナンス商品情報を除く) を会員自身が選ぶ「 『UNI CLIP』カスタマイズサービス」も展開中。今のところ、同社予想の2倍を超える登録数になっている。
 「ユニ・クリップ」は、純粋値ベースで年5%の収益増に貢献。退会抑止でも、退会者数を20%削減するという効果を上げている。どの会員にどの情報を発信しているかは常に正確に把握できているため、売り上げへの貢献度も数値把握が容易だ。これらを効果検証の一指標としているわけである。
 九州地区での実証実験展開時、エリア区分は県レベルだったが、商圏の概念に基づいて細分化を進め、現在は全国を135エリアに分割している。
 同社では、分析面でのブラッシュアップも随時進めてきた。現在は、情報選定時に会員自身の利用動向をベースにするだけでなく、予測モデルも適用している。金融系の利用の多い会員の動向を分析し、似た利用傾向の会員に向けて、利用見込みが高いと推察される未利用商品の情報を選別して掲載するといった具合だ。
 また、マッチングのためのキー項目の細分化も急ピッチで進めている。加盟店特徴の因子数も開始時の約2倍になった。会員特徴の因子は、カード利用絶対額から、利用単価、勤務先情報、年収などにまで広げている。

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カード利用動向から、会員一人ひとりに最適な情報を提供。売り上げにも貢献している。

「分析」→「アウトプット」のスタイルを崩さずに提供

 2005年10月の「ユニ・クリップ」の全国展開の発表は、各業界に大きな反響を与えた。問い合わせは流通企業、自動車メーカーなどすでに20社を超えている。他社のニーズは、「コンテンツを提供してほしい」「分析に協力してほしい」「マーケティングコンサルティングをしてほしい」「システム構築コンサルティングをしてほしい」など多様だ。
 同社では、それぞれのニーズに即したかたちで提供できるよう検討を進めてはいるものの、One to One情報作成は、もともと自社のCRMマーケティングツールとして開始したもので、ホストシステム連動型の分析をベースとしている。この分析ノウハウは、同社のコア・コンピタンスだ。従って、外部への提供方法は、分析システム自体のリースではなく、データを預かって分析し、アウトプットを渡すというスタイルを想定している。具体的には大きく2通りある。ひとつは、同社がマスターデータを保持するクライアントに対し、クライアントの会員だけを選別してセグメント情報を送るというもの。もうひとつは、500種類に上る提携カード発行社など、明細書を発行しているクライアントを対象に、先方から会員データを預かり、セグメント情報を送るというものだ。例えば、ハウスカード利用者のうち、特定店舗利用者あるいは特定商品購入者のみを抽出してセグメント情報を提供することが可能である。

自社単独の作り込みの難しさとともにJCBのノウハウの厚さを認識

 これまで、One to One対応は紙媒体を中心に進めてきたが、Webでの展開も検討中だ。紙面スペース上の限界や、ネット総合サービス「My JCB」の整備・普及により明細書不要の申し込みが増えていることなどがその理由である。ちなみに、「My JCB」の登録者数は210万名を超えた。
 同時に、機能面ではカスタマイズサービスを拡充していく。今のところ選択肢は5ジャンルだが、ジャンルの細目での選択ができるように検討中である。
 CRMの強化を進めたいクライアント各社は、説明するほどに、自社単独の作り込みの難しさとともにJCBのノウハウの厚さを認識するという。同社がリードするOne to Oneオンデマンドの媒体施策は、CRMの実現を大きく前進させるものとして、業種業態を超えて関心と期待を呼んでいると言えるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年12月号の記事